令和3年度 地すべり学会中部支部 オンラインセミナー「事前防災」 ― 2021/12/05 09:59
2021年12月2日(木)午後1時から5時20分まで、表記セミナーが開かれました。
図1 講演者と題目(同セミナーのリーフレットから)
杉本宏之氏:地すべり対策における事前防災の取組と課題
杉本氏は、1999年に建設省に入り中部地方整備局の富士砂防事務所などを経て、現在、土木研究所に勤務しています。
講演の内容は次の3点です。
1.事前防災推進における課題
2.危険度評価(ディープラーニング)
3.崩壊性地すべり(豪雨、地震)
災害対策基本法には、災害予防、災害応急対策、災害復旧がうたわれていて「災害を未然に防止し」という事前防災の考えが盛り込まれています。
災害対策は大きな災害のたびに強化されてきました。
1959年の伊勢湾台風を機に災害対策基本法が制定され、1995年の阪神淡路大震災、2011年東日本大震災などを経て国土強靱化法が施行され、現在は2021年度から2025年度の5カ年計画の時期です。
地すべり対策は、動き始めてから対策を行っていて、動いていない段階で対策をすることは難しい状況です。土砂災害警戒区域は、対策の優先度が高いですが、区域外のどこで地すべりが起こるかは分かりません。
富士砂防工事事務所にいる時に経験した由比地すべりは、対策として水抜き工と深礎杭工を実施しました。対策の効果判定は、降雨時の地下水上昇が工事前と工事後でどのように変化したかで行いました。しかし、事前防災の効果判定は難しく、本当に危ないのかがよく分かりません。
危険度評価は、1970年頃から統計的手法が取り入れられました。2000年頃からGISやDEMデータによる広域的な解析が行われるようになりました。2010年頃にはAHP法によって技術者の判断を客観化する工夫がされました。傾斜、形状(平面形・断面形・曲率)、起伏(接峰面など)、開析の度合い、地形の乱れなど地形発達史的な見方も取り入られました。AIを使ったディープラーニングによる地形の抽出も行われています。地すべりが発生した地形の特徴など災害発生データをAIに学習させます。
2019年の台風19号で発生した崩壊性地すべりは、30度未満の緩いテフラ斜面で発生しています。古い地すべり地形が認められないテフラ層や海成堆積岩が流れ盤になっている斜面で崩壊性地すべりが発生しています。
このような地域では、空中電磁探査でテフラ層の厚さを測定できます。また、簡易貫入試験やハンドオーガーで土相構成や物理的性質を調べることも行いました。
杉本直也氏:熱海市の土石流災害における点群データの活用
静岡県では「バーチャル静岡」として三次元点群データを揃えています。 航空レーザ計測による地表面や建物の計測(LP:Laser Profiler)、航空レーザ測深による海岸や水中部の地形計測(ALB:Airborne Laser Bathymetry)、移動計測車両による道路および周辺部の計測(MMS:Mobile Mapping System)を使っています。
「バーチャル静岡」のデータは、誰もが自由に使えるオーブンデータでクリエイティブコモンズ(CC-BY4.0)に準拠しています。これまでに投じた金額は、約17億円です。ただし、北の方の山岳部のデータ取得は難しく空白です。
災害に備えるという点では、土石流などの災害が起きる前の三次元点群データが必要です。災害後のデータ取得もUAVを使えば安全に早く行えます。
2021年7月3日に発生した熱海市伊豆山(いずさん)の土石流では、住民の亡くなった方が26名、行方不明の方が1名、復旧作業中に亡くなった方が1名でした。
初動対応では発生状況の把握に努めました。また、土石流に巻き込まれた方の捜索活動の援助も行いました。Facebookメッセンジャーをベースにして、Zoomによる情報共有も行いました。
2009年に国交相が計測していたLPデータは、平方メートル当たり1-4点と精度は低いものでしたが、2019年の静岡県のLPデータは平方メートル当たり16点でした。
土石流が発生した日の午後11時24分には差分抽出を行い、現地で指揮をしていた難波副知事に盛土の崩壊であることをメールで伝えました。7月4日には崩壊土砂量が5.4万立方メートルであると推定しました。
被災後のレーザーデータは、平方メートル当たり120点以上で取得し、崩れ残った土砂があること、砂防堰堤で7.5千立方メートルの土砂を捕捉していたことなどが分かりました。海の中はグリーンレーザで測深を行いました。
レーザー計測データを使えば被災した家屋数を数えることもできそうです。
難波副知事は、時代が変わった、データをオープンにすることで世界中から知恵を借りるなどの援助がもらえると語りました。
改めて強調したいことは、データがオープンであることが非常に重要だということです。
戸田堅一郎氏:山地災害危険箇所把握のための航空レーザーを用いた地形解析手法
主に表層崩壊の話です。内容は下のとおりです。
1.CS立体図
崩壊危険地形判読
AIによる地形判読
2.SHC図
定量的な地形評価指標
危険な地形を判読して仮設計画を含めた対策を考える上で地形判読は重要です。地形判読をしやすくするために曲率(Curvature)と傾斜(Slope)を組み合わせ視覚的・直感的な地形判読を可能にしたCS(Curvature Slope)立体図を開発しました。
水の動き、土砂の移動、地殻変動、火山活動などで地形が形成されます。地形量としては、標高・傾斜・曲率、長さ・面積があり、地形種としては、扇状地・崖錐などがあります。
CS立体図は地形種を判読できるように地形量三つを合成します。作成には1mメッシュのLPデータを使います。全国的には10mメッシュのデータが入手できます。
CS立体図を使うと0次谷の下流の侵食前線を判読できます。地層境界からの湧水が直線上に並んでいるのを判読できます。
AIによる地形判読では、16,892箇所の崩壊を教師データとして使いました。2012年の茅野市の表層崩壊では、等高線では読み取れない崩壊地を判読できました。AIは、数多く判読できること、人による判読の見落としを拾うことができます。古い林道の管理のためにどこに林道があるかを判読しました。AIで林道を拾う作業では、人が判読するのに3年かかったものが2週間でできました。
SHC図(Standard deviation of Horizontal Curvature)というのがあります。一定面積内(例えば100m2)の等高線の平面曲率の標準偏差を指標として地形区分を行います。地表の地形の乱れを表しています。SHCの値が高い所に湧水や崩壊が集中しています。
林 一成氏:事前防災のための斜面の危険度評価に向けて
土砂災害の危険度は、いつ、どこで、どんな規模で土砂災害が発生するか知る必要があります。土砂災害の中で地すべりは直接の原因(誘因)が複雑で予測するのが難しい現象です。
危険度評価については、1980年代の地すべり地形の判読と観察から始まりました。防災科学技術研究所の「地すべり分布図」の作成の時代です(ステージ1)。
ステージ2は、2000年代で地すべり不安定化の要因を定量化して危険度評価を行った時代です。AHP法(the analytic Hierachy process)の活用が代表的なものです。
ステージ3は、不安定化要因を地理空間情報として処理できるようになった時代です。GIS、数値地形図、地質情報などが使使えるようになりました。
そして、ステージ4では、AIによる大量のデータ処理が行えるようになりました。
危険度評価の手順は、現象を整理し発生要因を分析し、要因を指標化する。解析的手法によって危険度評価を行い、その結果を可視化・図化します。結果の妥当性やどの程度活用できるかの評価を行います。
中越地震では、層理に規制されたすべりが発生しました。地層の走向・傾斜をモデル化し斜面方向の地層の偽傾斜の方向と面積の関係を求めました。地すべりの規模が大きくなると流れ盤に規制される地すべりが多くなる傾向が分かりました。
重力性山体崩壊は、南アルプスの二重山稜として現れています。この山体の形をBell-shape index (BSI)を用いて計測します。100mから2,000mくらいの検索半径でこの指標を求めるとBSIが1.2以上になると崩壊や侵食が発生します。BSIは山体の膨らみ具合です。
火山性噴出物が分布する地域でのすべりでは、接峰面と地形との標高の差分を侵食高として平面図に表すという手法もあります。テフラのアイソパックマップ(等層厚線図)と照らし合わせることによりテフラがどの程度残存しているか推定でき危険度評価に使えます。
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://geocivil.asablo.jp/blog/2021/12/05/9445589/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。