亀田 純氏(北海道大学):北海道胆振東部地震におけるテフラ層の地すべりメカニズムとハロイサイトの役割2021/10/26 16:32

 20211025日(月)午後3時半から午後5時まで、令和3年度北海道地すべり調査研究委員会の講演会がオンラインで開かれました。講師は、北大・理学研究院・准教授の亀田 純氏です。

 

<講演の概要>

 2018年の胆振東部地震で発生した地すべりのすべり面の表面に、非常に滑りやすい粘土層が出来ています。赤褐色の樽前d降下火山灰(Ta-d)の下に肌色の粘土層があります。この粘土層が波打つように変形していて、地震により変形したものと考えました。この粘土層の下には、軽石が目立つ粗粒層があります。

粘土層の鉱物組成は、ハロイサイトが大部分でスメクタイトを伴っています。一般にハロイサイトは、チューブ状(中空状)で針状の形をしていますが、この粘土層では不定形のものもあります。ハロイサイトは、熊本地震による斜面崩壊でも検出されています。


 ハロイサイトは、火山ガラスから生成されます。火山ガラスがアロフェン(非晶質の含水珪酸塩アルミニウム)やイモゴライト(中空管状の準晶質含水珪アルミニウム)になり、ハロイサイト(中空管状の層状珪酸塩アルミニウム)に変化します。さらに変化が進むとカオリナイトになります。このような変化は火砕堆積物中での溶解再沈殿作用によって起こります。

 ハロイサイトの中空管状の構造は、粘土層のミスフィットによって形成されます。層状の四面体の中にシリカよりイオン半径の大きいアルミニウムが入っているために丸まってしまいます。


 火山ガラスがハロイサイトになるまでの時間は、約1万年ほどです。Ta-d層は、9千年前に堆積しています。熊本地震で斜面崩壊を起こした草千里ヶ浜降下火山灰(Kpfa3万年前)にもハロイサイトが形成されています。

 Ta-dのハロイサイト含有量は40%で、一般的な形成年代と含有量(日本の場合10%程度)のグラフからは、大きく外れるほど高いです(最後に添付した図を参照)。

 

 すべり面粘土の粒子表面の物性を調べました。

 粘土粒子の表面は、普通マイナスに帯電していて溶液中のプラスイオンが引き寄せられ電気二重層が形成されます。この粘土粒子の周りのプラスイオンの表面を含めてスターン層と呼び、スターン層の表面の電位をゼータ電位(ζポテンシャル)と呼びます。

 ゼータ電位が負になると粘土の降伏強度が下がります。粒子同士の反発力が強くなって粘土粒子の凝集が抑制されるためと考えられます。

 間隙水の電気伝導度は、含水量が増加すると低下し、pHは含水量が増加する大きな値となります。つまり、雨が降ると粘土粒子の表面電位が上昇し反発力が強くなり凝集が抑制され粘土の強度が低下すると考えられます。

 

 数値実験で移動土砂のレオロジーを検討しました。

 モデルは、せん断応力とせん断速度が線形関係となるビンガム流動です。結果は、移動土砂の先端速度が最大で10m/sec(時速36キロメートル)、ひずみ速度は最大で数10ストレイン/secという結果が得られました。

 

 この後、活発な討論が行われました。

 

<感 想>

 粘土鉱物を専門に研究している人が扱うと、「こういう話になるんだ」と感心して聞いていました。

 アロフェンからカオリナイトに変化するグラフを下に示しました。樽前d降下火山灰は9千年前に噴火したので、横軸(ログ表示)の「4」のちょっと左付近になります。この図で見るように、一般的なテフラの粘土鉱物の含有量は、10%程度です。樽前d降下火山灰の粘土鉱物含有量は、40%ですから異常にハロイサイトの含有量が多いことが分かります。このことが広範囲に斜面崩壊が発生した原因の一つと考えられます。

 

年代と含有量

図 テフラの噴出後の年代(横軸)と粘土鉱物の含有量(縦軸)の関係(井上厚行、1996

 一般的には風化により鉱物などは分解が進みますが、ここでは結晶度の高い鉱物へと変化しています。考えてみれば、なかなか面白い現象です。