本の紹介:宇宙の終わりに何が起こるのか ― 2021/10/24 20:56
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ケイティ・マック、吉田三知世訳、宇宙の終わりに何が起こるのか。講談社、2021年9月。
現在、最新の観測データと矛盾しない宇宙の終わりのシナリオは、1)ビッグクランチ、2)熱的死、3)ビッグリップ、4)真空崩壊,5)ビックバウンスの五つです。それぞれについて最新の科学的成果をもとに述べています。
こういう理解で良いのか不安な所がありますが、概要を述べます。
ビッグクランチ(Big Crunch)というのは、宇宙が急激な収縮を起こして潰れてしまう現象です。銀河までの距離と年齢と赤方偏移から宇宙が加速度的に膨張していることが明らかにされました。この宇宙の膨張が反転すると、最後に宇宙空間は高温プラズマで満ちて物質が完全に分解されます。
熱的死というのは、宇宙が膨張を続けエントロピーが増大して、あらゆる活動が停止する現象です。ここでは宇宙定数、ダークエネルギーなどが説明されます。
ビッグリップ(Big Rip)は、ダークエネルギーの一つである「ファントムエネルギー」によって宇宙がズタズタに引き裂かれる現象です。「宇宙の距離はしご」、「状態方程式のパラメーター」(ω)などが説明されます。
真空崩壊は、現在「偽の真空」にとどまっているヒッグス場が「真の真空」へ転がり落ちていく現象です。この辺りの話になるとヒッグス場とか量子トンネルとか、何を言っているのかほとんど分かりません。イメージとしては分かる気もしますが。全てが一瞬で消滅するので、痛さも痒みも感じることが出来ないのが真空崩壊です。真空崩壊は、理屈の上では起こる確率は天文学的に低いけれども「いつでも起こる可能性がある」という点で特殊です。
ビックバウンス(Big Bounce)は、宇宙が「特異点」で跳ね返り、収縮と膨張を何度も繰り返す現象です。宇宙は、三次元の空間と時間という四次元の世界ですが、その外側に「大きな余剰次元」が存在し、我々が認識している宇宙は一つのブレーンの上に存在しています。このようなブレーンが、より広大な時空の中に含まれていて、他にもいくつものブレーンがあり宇宙があります。これらのブレーンが相互作用をして収縮と膨張を繰り返します。
標準宇宙論模型には、放射、通常の物質、ダークマター、宇宙定数の形のダークエネルギー(Λ)の四つの基本要素があります。さらに宇宙の極初期にインフレーションと呼ばれる急激な膨張がありました。しかし、インフレーションが、どうやって始まったのか分かっていません。ダークマターが何なのか、宇宙定数がなぜ存在するのか分かっていません。
素粒子物理学の標準模型には陽子と中性子を造っている「クォーク」、ニュートリノと「レプトン、「ゲージ粒子」が含まれています。ここでもダークマターやダークエネルギーについて何も言えないし、パラメーターがきっちり正しい値でないと全てが台無しになる個所があります。
現在の科学の到達点に立っても宇宙の終わりに何が起こるのか、はっきりとしたことは言えないというのが、現段階での到達点のようです。
宇宙理論にしても素粒子理論にしても、まだまだ分からないことが多く魅力的な学問分野であることが良く分かる内容となっています。