日本学術会議は国民にとって必要2020/10/09 20:07

日本学術会議の新会員105名のうち6名が菅総理大臣によって任命されなかった問題について,テレビやソーシャルネットワークでデマと言って良い言動が流布されています.

その多くが,学術会議の性格や歴史を全く調べようともせずに行われているとしか思えません.さらに悪質なのは,これを機会に学術会議自体を潰してしまえというな話が出ていることです.


戦前,帝国学士院,学術研究会議,日本学術振興会という三つの団体がありました.いずれも東京大学中心の学閥支配のもとにあって,戦争中は大掛かりな研究への軍事動員も行われました.これらの団体を改組する形で学術会議が設けられました.紆余曲折があって,日本学術会議のほか日本学士院,日本学術振興会が現在活動しています.


帝国学士院は日本学士院として現在も存在し,年間予算は一般会計から約6億円(2018年度)が出されています.設置目的は「学術上功績顕著な科学者を優遇するための機関として、学術の発達に寄与するため必要な事業を行う」となっています.会員の定員は150人で終身,会員の選定は学士院が行います.また,年金を支給できるとなっています.この辺を混同して学術会議を非難している人がいるようです.


日本学術振興会は文部省所轄の独立行政法人で,科学研究費助成事業(科研費)や世界トップレベル研究拠点プログラムなどを行っています.2千億円以上の予算を持っています.理事は大学を退職した教官,文部科学省の役人で,評議員には日本経済団体連合会会長や経済同友会代表幹事が入っているほか,学術会議・前会長の山極寿一氏も入っていました.


日本学術会議は「内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う内閣府の 「特別の機関」であり、全国約 85 万人の科学者の代表として選出 された 210 名の会員と約 2000 名の連携会員により、組織されてい ます」(「日本学術会議における活動の手引き」より).

学術会議は「勧告」を2010年以来,出していないので行政改革の対象にすると河野大臣が述べているそうです.これだけ聞くと何にも活動していないと思われるでしょう.

しかし,学術会議のウェブサイトを見ると「提言・答申等」のページには,答申,回答,勧告,要望,声明,提言,報告,会長談話,共同声明,幹事会声明の項目があり,例えば提言は,今年の9月だけで24件が掲載されています.また,公開シンポジウムは,やはり9月だけで16件開催されています.連携会員を入れて2,200人以上が活発に活動しているのです.学術会議だからこそできる内容となっています.


学術会議は内閣府に属しているので,予算については内閣府が掌握しています.加藤官房長官は「毎年約10億5,000万円が計上されていて,▽人件費などを含む政府・社会などに対する提言=2億5,000万円▽各国アカデミーとの国際的な活動=2億円▽科学の役割についての普及・啓発=1,000万円、科学者間のネットワーク構築=1,000万円▽事務局人件費・事務費など=5億5,000万円」と述べたとされています(産経新聞2020年10月5日:総額と個々の費目を足した額が合っていません).予算の半分以上が,50人と言われている事務局の経費です.


現在.地球惑星科学分野での学術会議会員は,佐竹健治氏(東京大学),田近英一氏(東京大学,地球惑星科学連合会長)の二人で,連携会員として石渡 明氏(原子力規制委員会委員・元日本地質学会会長),江守正多氏(国立環境研究所),奥村晃史氏(広島大学),川幡穂高氏(東京大学・前地球惑星科学連合会長),木村 学氏(東京海洋大学・元地球惑星科学連合会長),鈴木康弘氏(名古屋大学),佃 栄吉氏(産業技術総合研究所),西山忠男氏(熊本大学)が名前を連ねています(漏れがあるかもしれません).

佐竹氏は津波研究で国際的に活躍している研究者,田近氏は地球をシステムとして考える研究の第一人者です.例えば,この二人が,総理大臣から学術会議会員としての任命を拒否されたら,地球科学に携わるすべての人が疑問に思い異議を唱えるでしょう.

今回の問題を身近に引き寄せて考えるとそういうことです.


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