「変動する地球:気候変動」講演会2019/12/10 21:35

 2019年12月7日,札幌市の「かでる2・7」で北海道総合地質学研究センターの第8回公開講座,宮下純夫氏(新潟大学名誉教授)の「変動する地球:気候変動-地質学的視点から気候変動・地球温暖化を考える-」が開かれました.


宮下純夫氏

講演する宮下純夫氏


世界の平均気温は明らかに上昇しています.

1890年から2010年までの間に約1℃上昇しているというデータがあります.紀元0年からで見ると,10世紀頃に温暖期が,17世紀頃に寒冷期がありましたが,1900年以降,加速度的に気温が上昇しています.その結果,山岳氷河の厚さが減少したり,ハリケーンの発生頻度が増加したり,海水面が上昇したりといった影響が出ています.


地球温暖化の要因としては,化石燃料,特に石炭の燃焼による二酸化炭素(CO2)の増大,永久凍土の融解によるメタンガス(CH4)の放出などがあります.大気中の二酸化炭素濃度は,産業革命が始まった1760年頃(280ppm)から急激に増大し,現在は400ppm (約408ppm:気象庁)を越えています.


大規模な火山噴火によって気候変動が起きます.

1993年は寒い夏となり,梅雨が明けることがありませんでした.これは,1991年にフィリピンのピナツボ火山が噴火し,成層圏に達した大量の噴出物によって太陽光が遮られたためです. 1815年のインドネシア・タンボラ火山,1783年のアイスランド・ラキ火山,紀元前1630年頃のギリシャ・サントリーニ島カルデラ,約7,300年前の屋久島の北にある鬼界カルデラ,約7万4千年前のインドネシア・トバカルデラなど,人間の歴史に影響を与えた火山噴火がありました.

 *パワーポイントの No.25 では,「ギリシャ・サントリニート島」となっていますが,Santorini です.


地球は過去46億年間,不可逆プロセスで変容してきました.その間,超大陸の形成・分裂,巨大火成活動,氷期と間氷期など様々な運動が行われてきました.

気候変動の要因として,太陽自身のエネルギーが25%増大していことや地球が太陽から受け取る太陽エネルギーは10万年,4.2万年,2万年の三つの周期があることなどがあります.大気組成も変化しています.全地球的に巡っている深層海流,岩石の風化による海洋成分の変化,宇宙線の変化などもあります.

地球の初源的大気組成は二酸化炭素が95%を占めていました.25億年ほど前から二酸化炭素濃度が著しく減少し,酸素が増大してきました.大気中の二酸化炭素は海水に溶解し,カルシウムと結びついて石灰岩(サンゴ礁)として固定化されました.


数十億年の長さで見ると13~12億年前の中原生代に今より気温がずっと低い時代がありました.古生代中期オルドビス紀にも気温が著しく低下しました.この頃は大気中の二酸化炭素は今よりずっと多かったことが分かっています.二酸化炭素の濃度以外にも気候を支配している要因があることを示しています.

新生代の初めの頃の地球の平均気温は,20℃を少し上回っていました.中新世に入る頃から気温が低下し始め,第四紀更新世には10℃ほどとなり,かつ気温変化の振幅が大きくなっています.


約260万年前から始まる第四紀は寒冷化に伴って大陸氷床が発達し始め,氷期と間氷期の反復が起きます.これらの気温変化は海棲生物の化石の殻の酸素同位体比,南極やグリーンランドの氷に記録されている氷の酸素・水素同位体比などから推定されています.

地球の公転軌道,自転軸の傾き,歳差運動により太陽からの日射量が変化することによるミランコビッチ・サイクルによって第四紀の氷期と間氷期の反復は説明できます.

このような気候変動は海水準の変動となって現れます.サンゴ礁を作るサンゴは,浅い海底でのみ棲息できます.ですから,造礁性サンゴは海水準の指標となります.2万年前には今より130m海水準が低かったことが明らかにされています.現在は海水準が高い時期に当たり,年間 0.2~0.3mm の割合で上昇しています.


約12万年前から始まる最終氷期は,約2千年周期の急激な気候変動が25回起こっています.ダンスガード・オシュガーサイクルと呼ばれるこの変動は,10℃に及ぶ気温変化を示し,急激な気温上昇と緩慢な気温低下で特徴付けられます.

過去数万年間の気候変化はハインリッヒイベントと呼ばれていて,大陸氷床が拡大して運ばれてきた大量の岩石(漂流岩屑)が,大西洋の底の堆積物から発見されています.この原因は,氷床が成長し厚くなると,圧力によって氷床底部の氷が融けて氷床がすべり出すためとされています.


現在,北半球は大陸が多く南半球は海洋が多くなっています.この違いによって北半球と南半球はシーソー現象を起こし,気候変動が複雑になります.


地球の気候変動にはいろいろなフィードバックが作用しています.

例えば,寒冷化して氷が増大すると,太陽光をより多く反射するようになり寒冷化が加速されます.寒冷化によって二酸化炭素が海洋に吸収され,さらに寒冷化が加速されます.

一方,温暖化が進むと陸地や海面が露出し太陽光を吸収して温暖化が進みます.永久凍土からメタンガスが排出されたり,海洋から二酸化炭素が放出されたりして温暖化が加速されます.このように一方向へと進行するフィードバックだけでは気候変動は説明できません.


温暖化の進行によって高温多雨になると岩石の風化・侵食が増大し,海洋へ大量の陽イオン(Na,Ca,Mg など)が流入し炭酸塩として沈殿します.これによって二酸化炭素が減少して温暖化が止まります.逆に寒冷化が進行すると風化・侵食作用が弱くなり,二酸化炭素の減少も終わり寒冷化が止まります.このような作用が気候変動をもたらしているのかもしれません.


ミランコビッチサイクルから二酸化炭素やメタンの濃度が推定できます.それによると,現在,二酸化炭素やメタンの濃度は減少すると推定されています.しかし,二酸化炭素は8千年前から,メタンは5千年前から増大に転じています.この原因は,ヨーロッパにおける大規模な森林伐採,アジアにおける水田農耕の普及だとする考えがあります.


<感 想>

地球温暖化の議論は,政治・経済が絡むため非常に敏感な人たちがいます.

この12月2日にマドリードで始まった「 国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)」では,石炭火力発電所の建設に邁進する日本に「化石賞」が送られました.

 日本では,二酸化炭素削減のためには原子力発電所の再稼働が必要だという論調があります(例えば,産経新聞ウェブ版 2019年12月2日).


地球温暖化懐疑論が盛んだった2008年に,やむにやまれず『地球温暖化の予測は「正しい」か? 不確かな未来に科学が挑む』(化学同人,2008)を書いた江守正多氏(国立環境研究所)は,現在も気候変動枠組み条約に関わっています.

この間の状況を見ていると,国交省が「これはいかん」という感じで気候変動への適応策を開始し,気象関係者も気候が激烈になっていることをデータで示し始めました.今,気候変動が激化していることは,身体で感じることが出来るまでになってきています.


今回の講演で宮下氏は,気候が温暖化するときは急激に進行し,寒冷化するときはゆっくりと進むことを,いくつかの研究例を使って説明しました.このような長い時間尺度で見ると,自然状態であれば地球は寒冷化し始めているのだけれど,人間の活動によって寒冷化せず温暖化が止まらないというのが一番本当に近いように思います.

 特に最近は,飛行機から外を見ていると,カラっと晴れた日が少ないように思います.いつもモヤがかかっている感じです.まあ,思い込みと言われればそうかなと思いますが,気候がおかしいのは実感しています.


なお,この講演会のパワーポイントの資料は,北海道総合地質学研究センターにメール(下のアドレス)で申し込めば分けてくれるそうです.説得力のあるデータが満載です,

 ( office@hrcg.jp



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