南海付加プリズムでの派生断層の起源と進化2009/09/03 21:00

 熊野灘の沖,北緯33度,東経137度付近での一連の調査によって,海洋堆積物と古い付加プリズムの境界断層であるデコルマから派生する断層の起源と活動履歴が明らかにされた.この派生断層は南海沖での巨大地震と津波を引き起こすものである.
 今回の結果は,海底地震探査により海洋地殻を含む付加プリズムの全体構造を明らかにした上で,巨大派生断層(Megasplay fault)そのもののコアを採取したボーリングと大陸棚斜面上の凹地の堆積物(Slope sediments)から付加プリズム(Accretionary prism)までを採取したボーリングとの結果をまとめたものである.

 ここで主に用いられている手法は,1)ボーリングコアの岩相解析,2)地磁気年代,3)ナノ化石年代,4)炭酸塩含有量である.この中で,炭酸塩含有量はある深度のコアも形成深さが炭酸塩補償深度(CCD:the calcite compensation depth この付近では,4,000m 程度)より深いか浅いかの指標となる.

 陸側で掘削した C0004 C&D ボーリングでは,海底から深度75m 付近で斜面堆積物から付加体堆積物に変わり,地磁気年代もナノ化石年代もギャップがある.また,炭酸塩含有量も急激に減少する.
 この深度から付加体堆積物は次第に形成年代は古くなり深度260m付近で4.1Ma の最も古い堆積物が出現する.3.7Ma の堆積物を挟んで深度310m 付近で1.5-1.6Ma の時代の新しい堆積物に変わる.つまり,斜面堆積物が再び出現する.
 このことから,ここでは二つの衝上断層が認められるという結論である.

 沖側の C0008A ボーリングでは斜面堆積物を掘削している.このボーリングではナノ化石年代の乱れが見られ,海底地すべりによる土砂の移動が想定されている.
 斜面堆積物と付加プリズムの境界の年代は1.95-2.4Ma である.

 また,この派生衝上断層が形成されてからの水平方向の移動速度は,195万年前から180万年前までが8.6m/ka,170万年前までが2.5m/ka,155万年前までが1.93m/ka と次第に遅くなっている.最も速い移動速度である8.6m/ka でも現在のフィリピン海プレートの移動速度,4〜6cm/yr=40〜60m/ka に比べると2割以下である.

 今回のボーリングの掘削深度は約400m(C0004)と約340m(C0008A)である.今後,水深2,000m 付近の海で海底下6,300mくらい掘削する計画が実現すれば,さらに新しい事実が明らかになることが期待される.

 なお,8月末に,木村ほか編著(2009)付加体と巨大地震発生帯 南海地震の解明に向けて(東大出版会) が発行された.この本では,南海トラフの将来の研究方法について述べられている.

<参考>

Strasser,M.et al ,2009,Origin and evolution of a splay fault in the Nankai accretionary wedge.nature geoscience(online pub.),16 August.

【END】

本の紹介:イワシと気候変動-漁業の未来を考える(川崎 健著,岩波新書)2009/09/16 21:39

 釧路では1987年に85万トンのマイワシの水揚げがあったが,1989年に突然,魚群が減り始め1993年を最後にマイワシの漁場は消滅した.
 南米太平洋岸にはアンチョベータ(フンボルト海流に分布するカタクチイワシ)の大漁場があり1970年には1,306万トンの漁獲量を記録した.ところが,1970年に漁獲量は突然激減した.

 このような急激な変化はどうして起こったのか.
 それは,レジームシフトが起こったからだというのが,この本の骨子である.
 「大気・海洋・海洋生態系から構成される地球環境システムの基本構造(レジーム)が数十年の時間スケールで転換(シフト)すること」がレジームシフトである.このシフトは一つの漁場だけでなく,太平洋と大西洋といった遠く離れた漁場でも発生するし,ある魚種の数が減少して別の魚種が増加するといった形でも現れる.
 ここから出てくる実践的な考え方は,持続的に漁獲を確保するには,レジームシフトで漁獲量が減少したときには資源保護を徹底させて次のレジームまで待つ必要があるが,増加傾向にあるときはそれほど規制する必要はないと言うことである.また,レジームシフトが全海洋で影響し合って発生しているので,現在の排他的経済水域による資源の囲い込みは漁業資源の確保のためには害になる.

 話は具体的で,多くのグラフが示されており大変説得力がある.魚に興味のある方はぜひ一読することをお奨めする.

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土壌汚染対策法改正2009/09/30 22:12

 2009年4月に土壌汚染対策法改正が国会で成立し公布された.
 改正法は2010年4月1日までに施行されることになっていて,施行の前提である政令・省令が10月にも公布される予定である.

 今回の改正に至る経過は次のとおりである.
 2007年6月「土壌環境施策に関するあり方懇談会」を環境省が設置した.
 2008年6月「中央環境審議会 土壌農薬部会 土壌制度小委員会」で引き継ぎ,土壌汚染対策のあり方について調査と審議が行われてきた.
 2008年12月,中央環境審議会答申で土壌汚染対策の問題点が指摘された.
 2009年3月,土壌汚染対策法の一部改正が国会に上程された.
 2009年4月24日,改正土壌汚染対策法が公布された.

 現行の土壌汚染対策法の問題点とそれに対処する改正点は次のとおりである.

1)法に基づかない土壌汚染の発見が増加している.
 これは土壌汚染対策法に基づいた調査がごく一部であるため,調査結果の公表が適切に行われない可能性があり,汚染地域の管理や対策が妥当かどうかの判断がつきにくいという問題である.

 そのために,3000m^2以上の土地で,土壌汚染の恐れがある場合には,土地の形質の変更時に都道府県知事が土壌汚染調査を命令することが出来る(改正土対法第四条2項)ことになった.
 さらに,自主調査によって土壌汚染が分かった場合は,「規制対象区域」として指定して適切に管理する(第十四条).
 規制対象区域の台帳を整備し閲覧に供するようになった(第十五条).
 規制対象区域は「形質変更時要届出区域」と「要措置区域」の二つに分類し,必要な対策を明確にした.溶出量基準を超える土壌汚染があり飲用井戸がある場合は要措置区域に指定され,飲用井戸がない場合は形質変更時要届出区域に指定される.

2)土壌汚染対策が掘削除去に偏っている.
 土地取引の前にその土地の汚染調査を行って汚染が確認された場合,土地の売り主が掘削除去を行うケースが多いという問題である.これには大きく二つの問題があり,一つは土地所有者の負担が大きいため実質的な対策が進まず土地の流動性が損なわれるという問題であり,もう一つは掘削除去された土砂が不法投棄される場合もあり除去された汚染土砂が適切に処理されず汚染が拡散するという問題である.

 改正土壌汚染対策法では規制対象区域(要措置区域等)からの搬出土壌を適正に処理するために土壌搬出の規制を設け,管理票を交付しそれを保存することを義務づけている(第十六条〜第二十一条).
 これは次の汚染拡散とも関連して法が整備されている.

3)汚染土壌の不適切な処理により汚染が拡散する.
 土壌環境センターの調査によると土壌汚染対策の85%(平成19年度)が自主対策である.
 要措置区域等に指定された区域内の土壌を搬出するには,事前の届出,計画の変更命令,運搬基準・処理基準に違反した場合の措置命令,搬出土壌に関する管理票の交付と保存の義務が設けられた.
 汚染土壌の処理を行う業者は都道府県知事の許可を受け,5年ごとに更新することになった.

 以上がごく大まかな改正土壌汚染法の内容である.

【「事業所立地履歴マップ」と「自然由来重金属類分布マップ」】

 これとは別に,国交省では「土地の有効利用のための土壌汚染情報等に関する検討会」の中間とりまとめを2009年3月に発表している.この検討会の問題意識は,土壌汚染の判明によって土地の有効利用が阻害されるケースが生じているが,その原因は国民や土地市場が土壌汚染問題について正しい認識を有していないことにあるので具体的な方策につながる検討を行うということである.
 中間とりまとめでは「事業所立地履歴マップ」と「自然由来重金属類分布マップ」の作成方法を述べている.
 日本全国,高度成長で工場が立地しており,その再利用には土壌汚染への対処は避けられないこと,火山・温泉国であり至る所に自然由来の重金属があることから,この二つのマップを作成してリスクの回避・低減を図ろうと言うことである.
 この事業は土壌汚染対策法の実施状況を見て,どう進めるか検討することになるのであろう.

 建設工事で遭遇する土壌汚染については,2004年に「建設工事で遭遇する地盤汚染対応マニュアル[暫定版]」((独)土木研究所編)が2007年に「建設工事における自然由来の重金属汚染対応マニュアル(暫定版)」((独)土木研究所ほか)が出されている.

参考

http://www.env.go.jp/
(環境省>水・土壌・地盤環境の保全>土壌汚染対策法)

http://www.gepc.or.jp/04result/press19.pdf
(土壌環境センター>土壌汚染状況調査・対策に関する実態調査
結果(平成19年度))

http://www.mlit.go.jp/report/press/land02_hh_000036.html
(国交省>報道・広報>報道発表資料)

【END】