国道13号・福島西道路の浅川トンネル ― 2024/11/22 21:08
日経XTECH(2024年11月22日1)によると、一般国道13号の福島西道路・浅川トンネル(延長1,767m)の工事が難航していて、予定していた2026年度の開通が困難になり、開通時期は未定だと言います。
NATM工法で掘進していて、2023年10月から2024年10月の1年間で530mの掘進とのことです。稼働日数を250日とすると1日2.1mの進行です。ごく一般的には、1日4mは掘進できますから、半分の掘進速度ということになります。
難航している原因は、大きな岩塊に遭遇し発破で小割しながら掘進しているためだそうです。同記事の切羽写真を見ると、岩塊は白灰色でデイサイト質の火山岩のように見えます。
浅川トンネルの地質は、地質図ナビでは第四紀更新世のカラブリアン(約180万年前〜約80万年前)のデイサイト・流紋岩 大規模火砕流となっています。
5万分の1地質図幅の「福島」は刊行されていませんが、南隣の「二本松図幅」の伏拝(ふしおがみ)岩屑なだれ堆積物に相当すると考えられます。 伏拝というのはJR東北本線南福島駅の南東約1kmにあります。
この岩屑なだれ堆積物は、安達太良火山噴出物の基底をなしています。二本松図幅を見ると、岩屑なだれ堆積物の発生源はJR東北本線松川駅の西、約11.5kmにある黒森山(標高760.4m)のようです。しかし、黒森山は安山岩から構成されていること、岩屑なだれを発生させた山体崩壊の地形が見られないこと、などの疑問があります。
北海道新幹線の羊蹄トンネル(延長9,750m)の札幌側の比羅夫工区では、シールド工法(シールド機で掘削し、場所打ちコンクリートで一次覆工を行う工法:SENS工法)で掘削していましたが、2021年7月に巨大岩塊に当たって掘削不能となり、地表に陥没が生じました。小断面の迂回トンネルを掘って岩塊を除去して、2023年11月に掘削を再開しました。
同トンネルの函館側の有島工区でも岩塊に遭遇し工事が止まっていましたが、2024年11月18日から掘削を再開しました。しかし、22日に再び停止したとのことです。
これらの岩塊は、古羊蹄火山の山体崩壊による岩屑なだれ堆積物です。
古羊蹄火山の山体崩壊堆積物については学会発表や論文が出ていて、分布も示されています(例えば、吉田、2015や江草・中川、2001など)。羊蹄火山の西の麓を通る国道5号の脇には、真っ黒な安山岩の巨大な岩塊が鎮座しています。山体が崩壊して移動してきた岩塊ですから、非常に硬いのが一つの特徴だと思います。
シールド工法で掘削することに決めた時期と、古羊蹄火山の岩屑なだれ堆積物の分布が明らかになった時期との前後関係があると思いますが、地質調査をおろそかにしているとしか思えない「事故」という感じがします。
二昔前は付加体堆積物中を掘削するトンネルで切羽崩壊などの事故が起きました。
ジュラ紀付加体の美濃帯・味噌川コンプレックス分布域(粘板岩主体)を掘削した国道361号の権兵衛トンネルや紀伊半島西海岸の四万十帯・音無川帯(無層理の泥岩主体)を掘削した阪和自動車道・高田山トンネルなど、大変苦労して掘削したトンネルがあります。
最近は、岩屑なだれ堆積物中での事故が多いようです。
岩屑なだれ堆積物は、まず地形図をじっくりと見ることが大事です。山麓に離れ山の凸地形が分布しているのが特徴です。凸地形以外は比較的平坦な地形が広がっているので、この平坦面にだけ注目すると痛い目に遭うことになります。また、崩壊源を特定できる場合があります。
ニセコ連山の一つ、チセヌプリの北斜面とその麓にある神仙沼は岩屑なだれ堆積物の典型的な地形でしょう。
建設工事に伴う地質調査に従事する技術者は、工学的素養が大事です。しかし、それ以上に地形を見る、地質を三次元的に見る訓練を積む必要があります。
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