本の紹介:地すべり調査・解析入門2024/04/14 11:46

地すべり調査・解析入門

山崎孝成・濱崎英作・柴崎達也 編著、地学双書40 地すべり調査・解析入門。地学団体研究会、20243月。

 

 執筆者は、編著者を入れて10人です。学位を持っている人もいますが、技術士あるいはRCCMの資格を持っている人たちです。

 

 「はじめに」を読むと、どこを読んだら良いか、興味のある内容はどこかを知ることができます。丁寧に内容を説明しています。

 

 入門書としては、第1章 地すべりの定義、第2章 地すべり調査法、第3章 すべり面の特徴とせん断強度が、非常に役に立ちます。特に、調査法ではQGISの使用方法やドローンによる調査法が詳しく述べられています。

 

 一般的な記述ではなく、具体例が示されているので内容が理解しやすいです。地すべり調査を始めたばかりの人、調査経験は豊富だけどこのやり方で本当に良いのかと疑問を持っている人など、多くの人に読んでほしい内容になっていますし、「読み物」としても楽しんで読める部分があります。

 

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第34回 特別講演「令和6年能登半島地震の被害状況」と「落石対策等に関する技術紹介」2024/04/23 14:57

34回 特別講演「令和6年能登半島地震の被害状況」と「落石対策等に関する技術紹介」

 

 2024419日(金)午後3時から4時半まで、表記講演会が開かれました。Zoomで視聴しました。主催は、「株式会社ケイエフ KFカレッジ いさぼうネット」です。

 概要を紹介します。

 

新保 泰輝 准教授(石川工業高等専門学校 環境都市工学科):令和6年能登半島地震による土構造物の被災状況報告

 道路盛土、河川堤防、谷埋め盛土、ロックフィルダム、ため池堤体を中心とした土構造物の被災状況の報告です。

 

 珠洲市宝立町(ほうりゅう・まち)の鵜飼川上流に造られた小屋(おや)ダムは、ロックフィルダムで、堤高56.5m、堤頂長240m、提体積71万立方メートル、有効貯水容量270万立方メートルです。左岸にある洪水吐きが被災して土砂が流出しました。天端に並べてあった岩石ブロックが移動しました。堤体に、はらみ出しが見られました。

 

 石川県には2,552箇所のため池があります。

 

 志賀町の赤田新淵池は、堤体方向の亀裂が発生しました。

 志賀町笹波の平田池は堤体の一部が崩壊しました。平田池は平田下池があるので下池の貯水池と平田池の貯水地との二つの水面に挟まれています。

 輪島市の小伊勢池(おいせ・いけ)ではマンホールの浮き上がり、堤体表層のすべりとはらみ出し、70cmほどの天端沈下、堤体隅角からの土砂流出、強度低下による前のり崩壊などが起きました。貯水池内では表層すべりが多発しました。貯水池側の堤体のり面の保護ブロックが滑り落ちました。

 七尾市能登島の長面池(ながおもて・いけ)では堤体が陥没し漏水が発生しました。貯水池側の のり面が崩壊しました。

 羽咋市(はくい・し)の羽咋川下流にある邑知潟(おうち・がた)の堤防は、約2kmにわたって沈下しました。この付近は震度6弱を記録しました。護岸コンクリートブロックが破壊しクラックが発生しました。

 内灘町、津幡町、金沢市にまたがる河北潟は、震央から南西に約100kmの位置にありますが、堤防が沈下し、潟の水が溢水しました。

 河北潟の南西50kmほどの所にある柴山潟では震度5強の揺れでした。噴砂が発生し堤防の のり先、のり方にクラックが発生し側溝が変状しました。

 

 道路盛土・宅地盛土についてです。

 穴水町の由比ヶ丘では補強土壁にずれが発生しました。

 七尾市・のと里山海道の横田インターチェンジでは出口の側道で崩壊が発生しました。

 

 ソーラーパネル設置場所の崩壊が発生しています。津幡町の緑が丘や加賀市内のブドウ園などです。

 

 津幡町の台ノ峯の北西山麓にある石川高等専門学校は、地盤が23m沈下しました。地震後の降雨で土砂が流出しました。

 

 港の被害です。

 七尾港では護岸が被害を受けました。

 金沢港のクルーズターミナルは耐震化が施されていて被害は発生しませんでした。ただ、ターミナルと周囲の地面との間に段差ができるなどしました。

 

 志賀町の富来川(とぎ・がわ)左岸にある富来浄化センターでは堤防盛土が崩壊しました。

 

梅沢 広幸 氏(東亜グラウト工業株式会社 防災グループ 技術開発室):柔構造物工法による落石対策技術

 東亜グラウト工業では長岡市に落石などの実験場を持っています。

 斜面崩壊実験施設の斜面勾配は45度、斜面高12m、斜面長17mです。落石のスピードは1012m/secです。

 落石はクレーンで32mの高さに模擬岩塊を釣り上げて、12/secのスピードでリングネットなどの落石防止施設に衝突させます。

 

 防災関連の製品は、落石、崩壊土砂、土石流の防護施設、斜面補強工法、雪崩予防ネットなどがあります。製品名としてはリングネット、インパクトバリア、強靭ワイヤーネット、サスティナブルバリアなどです。

 

 柔構造物による防災の考え方は、ネットなどに大変形を許容し、撓んで衝撃を吸収するということです。

 ネットは径3mmの硬鋼線で引張り強さは1,770N/mm2です。

 落石エネルギーは、鋼管の中にワイヤを通したブレーキリングあるいは平鋼や丸鋼を折り返したUブレーキでエネルギーを吸収します。

 

 対策技術としては28年前にリングネットを開発し、5年前に改良を加えました。最大 3,000kJ の落石エネルギーに対抗できます。10トンの模擬岩塊が90km/secで衝突しても大丈夫で5トンの岩塊で大丈夫でした。

 土砂対策としてはインパクトバリアを開発しました。土石流を補足できます。

 

古田 佳寛 氏(岐阜MEの会 斜面防災に関する専門部会):岐阜MEの会-斜面防災に関する専門部会の活動報告

 MEは(社会基盤)メンテナンスエキスパートの略称で、社会資本の整備維持管理を行う技術者の育成を目的としています。岐阜大学との共同で技術者の育成を行う組織として「岐阜社会基盤メンテナンスエキスパートの会(MEの会)」があります。

 そのなかで、斜面専門部会は岐阜大学の沢田和秀教授を中心に11名(18名?)の部員がいます。

 空間情報技術の習得、現場視察、人材養成講座などを行っています。

 空間情報はタブレットを持っての作業を行います。フィールド実習を行いグループで成果発表を行います。舞鶴高等専門学校での講習を行ったり、沢田和秀(岐阜大学教授)や上野将司氏(応用地質株式会社)による技術資料を作成したりしています。

 

<感 想>

 今回の講演では、ため池の被災状況が興味深かったです。かなり危険な被害を受けた ため池があったようです。石川県では、ため池データベースを構築していて、データをダウンロードして地理院地図に取り込むと橙色の三角の記号で ため池の位置が表示され、ため池のコード番号、読み、住所が出てきます。

 岐阜大学を中心とした岐阜社会基盤メンテナンスエキスパートの会の活動は、重要だと思いました。

 

 この講演会の参加者は、1,149名と発表されました。オンラインの威力が発揮された感じです。