本の紹介:前夜2020/05/22 17:15


前夜

梓澤和幸・岩上安身・澤藤統一郎,増補改訂版 前夜―日本国憲法と自民党改憲案を読み解く.現代書館,2015年12月.


IWJ(インターネット・インディペンデント・ジャーナル)代表の岩上安身氏と二人の弁護士,澤藤統一郎氏,梓澤和幸氏の鼎談です. 日本国憲法と自由民主党「日本国憲法改正草案」(自民党改憲草案)を一条一条読み解いて問題点を指摘しています.


三人に共通した認識は、自民党改憲草案は憲法の根本をひっくり返す内容だと言うことです。憲法は、主権者である国民が国を縛るものであるというのが大前提です。

日本国憲法の前文は、「・・ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」となっています。

これに対して、自民党改憲草案は「日本国は、・・天皇を頂く国家であって・・」で始まります。多くの犠牲者を出した戦争への反省はなく、戦後復興を自慢する内容が続きます。そして、「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するために、ここに、この憲法を制定する。」としています。、つまり、国家を継承するために今の憲法を作りかえるということです。


憲法九条の改悪はもちろん問題ですが、特に岩上氏が問題にしているのは、自民党改憲草案の「第九章 緊急事態」です。

「第九章 緊急事態」の中の「第九十九条 緊急事態の宣言の効果」は、明治憲法の緊急勅令(第八条)と同じであるというのが澤藤氏の見解です。明治憲法下で戒厳が宣せられたのは、明治・大正・昭和の各時代に1回ずつありましたが、いずれも緊急勅令で行われています。1905(明治三十八)年9月5日の日比谷焼き討ち事件、1923(大正十二)年9月1日の関東大震災、1936(昭和十一)年2月26日の二・二六事件です。

自民党改憲草案の緊急事態のもとでは、内閣が政令を定めて法律の代わりとすることができ、財政上必要な支出その他の処分を行うことができるとされています。


自民党改憲草案では、第二十一条第2項が新たに加えられ「2 前項の規定にかかわらず、公益および公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは認められない。」となっています。前項というのは、自民党改憲草案でも「・・一切の表現の自由は、保障する。」ですから、表現の自由を認めない場合があることを宣言しているわけで、公益を害していると言えば表現の自由は認められなくなります。


なんせ、自民党改憲草案の百二条全てについて述べているので、全てを紹介することはできません。全389ページの大作です。自民党改憲草案がどんなものかを知る上で役に立ちます。