小野有五氏の講演 ― 2019/12/15 14:36

講演する小野有五氏
小野有五氏の「岩内平野の地形発達史的研究から,泊原発敷地内 F-1断層が切る地層は約33万年前(MIS9)の海成層と断定できる理由」という話を聞きました.
2019年12月14日(土)に,札幌市の北区民センターで開かれた「最終間氷期勉強会」の例会で話してくれました.
北電が120万年前~40万年前と言っている「岩内層」は,Hm2段丘(高位段丘2面:標高60m)堆積物の海成層で時代は33万年前(MIS9)です.その上位には古土壌を含む砂丘砂(約33万年前~30万年前)が載っていて,さらにその上位に最終氷期の緩斜面堆積物が載っているというのが野外観察から得られる結果です.
北電が約22万年前の火山灰層としているものは,ジルコンのフィッショントラック年代がバラバラで,二次堆積物と考えざるを得ないものです.
泊原発の対岸の岩内台地で行ったボーリングでは,砂礫層から始まって三角州堆積物・カキ礁で終わる層序が観察できます.この層序の一番下の砂礫層は MIS6,つまり13.5万年前の寒冷期に海が後退したときの堆積物で,海が浸入してくるに従って砂や泥などの細粒の堆積物が堆積していく様子が分かります.
原子炉建屋のすぐ西を北北西-南南東に通る F-1 断層は,Hm2段丘の後浜堆積物(通常の波が届かない海岸の堆積物)までを切っています.さらにその上位の約6万年前~1万年前の周氷河性斜面堆積物の砂礫層まで及んでいることが,北電の出した CT スキャン映像で,はっきりと認められます.
<感 想>
北電の活断層調査などの地質調査には,地質コンサルタントが現場作業と解析に関わっているはずです.その地質技術者達が,どんな思いで報告書を書いたかを思うと,ちょっといたたまれない感じがします.
活断層調査では,変動地形学の訓練を受けていない地質技術者が,間違った判断をした例があります.この泊原発の調査では,海進海退に伴う堆積物の層相変化,シークエンス層序学の知識を活用すれば,全く違った結論が導かれたと思います.火山灰の年代資料の取り扱いは,同じとされる地層からバラバラの年代が得られているのを一括して扱っていて,普通では考えられない対応をしています.
2019年11月15日に原子力規制委員会の石渡 明委員などが現地調査しました.北電の説明に納得したように報道されています.規制委員会の実力が試されるだろうと思います.
本の紹介:原子力の人類学 ― 2019/12/15 17:09

内山田 康,原子力の人類学 フクシマ、ラ・アーグ、セラフィールド.青土社,2019年9月.
フクシマ,フランス・ノルマンディのラ・アーグ,イギリス・カンブリアのセラフィールド,そして再びフクシマと話が続きます.さらに,最初の原爆が開発されたアメリカ・ニューメキシコにも足を運んでいます.
原子力がどのように人々の生活に影響を与えたのか,現地での放射能測定を手伝いながら考える話です.著者の人との繋がりの多様性と幅広い知識と思索を,原子力に関わっている土地の情景を交えながら語っています.
ちょっと不思議な本です.
グーグルアースで現地を見ながら読んでいくと,一緒に旅をしている気分になれます.グーグルアースではセラフィールドの原子炉が撤去されていく様子を見ることが出来ます.ラ・アーグはグーグルアースではモザイクがかかっています.