平成30年度地震火山観測センターシンポジウム2019/03/26 20:16

2019年3月21日(木:春分の日),13時30分から16時30分まで,北大学術交流会館で表記シンポジウムが開かれました.


平成30年度地震火山研究観測センターシンポジウム

シンポジウムのプログラム

(チラシの裏面)


高橋浩晃氏:平成30年北海道胆振東部地震の概要

今回の地震では42名の方が亡くなり,そのうち厚真町の斜面崩壊で36名の方が亡くなっています.商店兼用の住宅の1階が潰れましたが,2階で寝ていて助かった例がありました.里塚地区の液状化は震度5強で発生しています.石狩低地東縁断層帯主部の活動で予想される地震の規模はマグニチュード7.7であるのに対して,今回の地震は同6.7で1/30のエネルギーでした.今,出されている地震動予測は過小評価である可能性があります.


大園真子氏:胆振地方周辺の地殻変動の特徴

今回の地震で,どんな地殻変動があったのか.

震源周辺には厚真町と門別町に GNSS 観測点(電子基準点)が設置されています.これらの基準点は5cm ほど動いています.

*GNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)は、GPSGLONASSGalileo、準天頂衛星(QZSS)等の衛星測位システムの総称です。(国土地理院)

合成開口レーダー(SAR:synthetic aperture radar)の観測・解析から震源断層の東側で地殻が上昇していることが捉えられました.

これらの結果を総合すると,深さ16.2km から31.5km の間で深さ方向の幅15.9km,走向方向に14.0kmの逆断層が形成され,すべり量は1.3m,断層の傾斜は東に74゚という結果になります.この断層の位置は余震活動の分布とほぼ一致しています.

しかし,石狩低地東縁断層帯とは重なっていません.


勝俣 啓氏:胆振地方周辺の地震活動の特徴

今回の地震の震源地は北緯42.662度,東経142.011度で,震源の深さは40.5km です.余震観測から震源断層は北部,ステップオーバー部,南部の三つのセグメントからなっています.これらの断層の連動破壊によって強い揺れが発生しました.

最初に動いたのはステップオーバー部で,走向は西北西-東南東で5kmの延長があります.

北部セグメントは,ほぼ南北の走向で15kmの延びを持っていて,東に60度傾斜した逆断層です.

南部セグメントは,北北東-南南西走向で東に約65度傾斜した逆断層です.延長は10Kmです.

北部と南部のセグメントはステップオーバーブ部に近いところで最も応力が大きいという結果が得られています.


胆振東部地震の地震断層

図1 胆振東部地震を起こした断層の模式水平断面図

(小さな矢印は断層の傾斜方向)

講演内容と当日配付資料をもとに作成しました


橋本武志氏:胆振東部地震はどのような場所で起こったか

太平洋プレートが千島海溝に対して斜めに沈み込むことによって千島弧の一部が西向きに押し出されて,南北方向に延びる東北日本弧に衝突しました.この衝突で東側の地塊がめくれ上がり日高山脈が出来ました.この衝突の影響は,今回の地震が発生した胆振東部地域も受けています.

東北日本弧の地殻深部がどうなっているかを明らかにするために電場と磁場を使った探査を行いました.石狩低地帯の地下深部には東北日本弧の上部・下部地殻があります.今回の地震は,支笏湖の東から石狩低地付近まで分布している高比抵抗域の東の縁で起こっているように見えます.


高井伸雄:胆振東部地震の強震動

地震が発生した時,ある地点の地震動は,震源,伝播経路,地盤増幅の3つの特性によって決まります.S波速度が300m/sec~700m/sec の地層を工学的基盤といい,同じく3,000m/sec の地層を地震基盤といいます.

震央付近では,厚真町の鹿沼観測点とむかわ町の鵡川観測点で大きな震幅が見られます.この観測点では建物被害を発生させる周期1~2秒の成分が大きいです.これに対して,北側にある安平町早来や追分では1秒以下の短周期成分が大きく,建物の壁面崩壊などが発生しています.

東西方向の振動は南北方向の3倍ほどの大きさを示しています.

鵡川観測点周辺で建物被害が多かったのですが,その4km 北側の丘の上で余震の臨時観測を行ったところ臨時観測点の震幅は小さいことが明らかになりました.

微地形区分やアレイ探査による地盤構造の解明が必要です.


<感 想>

今回の地震の実態が,だいぶ明らかになってきたと感じます.

胆振東部地震が発生した厚真町付近は,千島海溝と日本海溝の会合部に相当し,東北日本弧の地殻と千島弧の地殻が衝突しているため地殻が厚くなっていて地下構造も複雑なようです.

今回の震源断層の延長は25km程度です.石狩平野東縁断層帯主部(延長約66km)が動いた場合のマグニチュードは7.9程度とされています.今回の地震では活断層が地表に現れませんでしたが,石狩平野東縁断層帯は地表に断層が現れると予想されています.

石狩低地断層帯が動いた場合,どういうことになるのか非常に心配です.



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