本の紹介:杉晴夫,論文捏造はなぜ起きたのか?2014/11/15 16:19


杉 晴夫,論文捏造はなぜ起きたのか?。2014年9月,光文社新書。

 傘寿(数え年80才)を過ぎた「古典的生理学」の現役研究者による日本の科学技術政策に対する批判である。長いことアメリカのコロンビア大学や国立衛生研究所で活躍してきたからこそ書ける内容である。

 話は当然,生命科学分野の具体的な事例を含んでいて説得力がある。生命科学を含む日本の自然科学が滅亡の淵に追い込まれているのは,2003年に決定された「国立大学の独立法人化」にあるという。つまり,大学の通常研究の予算を削って,特定研究に数十億円の予算を付けるようになったために,基礎的な研究がおろそかにされ,研究体制も成果至上主義になった。

 理化学研究所の歴史,STAP細胞事件の問題点,学問の自由を失った国立大学の現状とデータの捏造,高峰譲吉や北里柴三郎など明治時代の巨人,科学史上の論文捏造,分子遺伝学の歴史と今後,最後は日本の生命科学を滅亡の危機から救うにはどうしたらよいのかが書かれている。

 生命科学に限らず,巨大な予算が付いて,それに見合った成果を上げなければならなくなった時に,科学者が陥る状況が良く分かる内容である。


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