本の紹介:「放射能汚染地図」の今2014/03/31 10:07



木村真三,「放射能汚染地図」の今,2014年2月,講談社。

 2011年3月11日に福島第一原子力発電所で全電源が失われ,12日に1号機で水素爆発が発生した。その翌日13日に,著者の木村氏は勤めていた厚生労働省所管独立行政法人労働安全衛生研究所に辞表を提出した。研究所では,医療従事者の被曝問題を担当していた。

 3月14日午前11時,福島第一原発3号機で水素爆発が発生,15日午前10時過ぎに著者が台東区のマンションで測った空間線量は1時間あたり1マイクロシーベルトを越えていた。通常の約25倍である。15日の午後,車で福島へ向かった。
 この衝動的に見える行動の背景には,1999年9月30日に発生した東海村でのJCO臨界事故での初動調査の遅れに対する悔しさがあった。また,この東海村の事故をきっかけに放射線衛生学を極めようと考えたこと,チェルノブイリでの調査をライフワークとしていたことも背景にあった。

 本書の目次は次のとおりである。

 はじめに 現場の「今」を伝える必要性
 第一章 闘いの前線
 第二章 市民科学者を育てる理由
 第三章 放射能がもたらす分断
 第四章 忍び寄る見えない動き
 おわりに チームワークで見いだす闘いの糸口

 この中では,第二章のが最も読み応えがある。いわき市川前町大字下桶売字志田名(おけうり・しだみょう:37.263615N,140.7648E付近)での住民と一緒になっての放射能汚染マップの作成と対策を決めるまでの経過が書かれている。

 今や,福島第一原子力発電所からの放射性物質は,大気中でも海洋でも全世界的に拡散している。このような環境の中で生活していかなければならない。
 その際にどうすべきかが,この本には示されている。自分たちで測って正確な情報を掴むこと,それをもとに適切な対処をすることである。
 行動する人への支援ができる体制もできていて,協力を依頼することもできる。

 なお,木村氏などの活動を記録したNHK・ETV特集「ネットワークで作る放射能汚染地図〜福島原発事故から2ヶ月〜」(約1時間半)および「ネットワークで作る放射能汚染地図〜福島原発事故から3年〜」(約50分)はネットで見ることができる。
 これらを見ると,木村氏たちの活動がより理解できる。