小森長生著「惑星地質学序説」 ― 2013/05/01 17:24

惑星地質学についての著者の考えを,具体例を示しながら述べた本です。
月などのクレーターは隕石の衝突によってできたものであり,分布密度からその地域の年代を推定できるとされています。しかし,著者によると,すべてのクレーターが衝突痕ではなく,カルデラなどの火山活動によってできたものがあると言うことです。
例えば,月のチコクレーターの内壁には段丘地形があり,最下段の段丘は内側に傾いています。このような地形は,クレーターの底が沈降して内壁が引っ張られたと考えれば説明ができると言います。単純な隕石の衝突だけでは説明できない事象が,写真とともに多く示されています。つまり,ガスの爆発やカルデラの形成によってできたクレーターがあると言うことです。
惑星全体を見るとその大きさによって爆発の様式が異なっています。地球には,マールやカルデラのように山体をつくらず爆発によって凹地ができる火山活動,溢流玄武岩(洪水玄武岩)のように広大な平坦面をつくる火山活動,そして円錐火山や楯状火山を典型とする山体をつくる火山があります。月や水星はマールやカルデラが主体を占めているのに対し,金星では溢流玄武岩や楯状火山が主体となっています。
地質学は物質の科学です。隕石や月の石,小惑星から採取されたサンプルなど部分的に地球外の岩石を手に入れることができ研究も進められています。しかし,当分の間は探査機によって得られたデータから推論するしかないでしょう。
それでも,この本は,惑星地質学は非常に面白い分野であることを具体的に教えてくれます。著者は今後,「惑星地質学汎論」というべき内容の本を執筆する予定とのことですので,楽しみです。
小森長生,2013年3月,ー地学双書ー惑星地質学序説。地学団体研究会。
藻岩山登山走 ― 2013/05/13 11:15
MOIWAYAMA HILL CLIMB RUN 531
今年で2回目の山登り走の大会が,5月12日(日)に肌寒い札幌藻岩山で行われました。藻岩山観光道路の下のゲートからロープウェイの山頂駅までを走って登ります。
走っているときは息が苦しかったのですが,走ったあとは気分爽快で,足にもそれほどダメージがなく,楽しく走れました。

出発を待つ間,北の沢スキー場で昼寝。雲が低くちょっと肌寒いが,薄日が差すと暖かい。

スタート地点のやや上には,まだ雪がたっぷりと残っている。最初の登りが結構きつい。

スタート地点に向かう。荷物はまとめて大きなビニール袋に入れてゴールまで運んでもらう。
出発地点の標高は約200m,標高490m付近で折り返して,ゴールはロープウェイ山頂駅前で標高約450mです。平均勾配は8%(4.8°),再急勾配は13%(7.5°)ですが,平坦な部分は一つも無く,ひたすら登り続けます。
山頂から南西に延びる尾根にとりついてからは割合緩やかなのですが,とにかく上り坂が続きます。この尾根は約260万年前に噴出した,かんらん岩を含む安山岩の流れたあとで平均勾配は5.3°(9%)です。
コースには500mごとにキロ程が表示されていて,2km地点に給水所もあります。ゴール後は,ロープウェイの山頂駅(中腹駅)の前の広場で昼食が出ます。ハンバーグカレーとスープで,スープがなかなか,おいしかったです。

ゴール地点。ゴールは左手車の影にある。正面の建物がロープウェイの山頂駅。大会案内には「中腹駅」となっている。向こうに見えるのは,山頂に向かうケーブルカーである。
帰りはロープウェイで降りて,運良く新型市電が来たので,それに乗って薄野へ出ました。この市電の乗り心地は快適でした。

新型市電の車内。幅が狭いのは路面電車の宿命で,どうしようもないようだ。

すすきの駅の新型市電。

新型市電を横から見たところ。胴体が3つに分かれている。前と中央に乗降口がある。
ダム工学会編「総説 岩盤の地質調査と評価」 ― 2013/05/15 16:31
この本の正式名称は「総説 岩盤の地質調査と評価 現場技術者必携 ダムのボーリング調査技術の体系と展開」(2012年12月,一般社団法人ダム工学会編,古今書院)です。

この本を発行した大きな動機は次の点にあると思います。
「本書「総説 岩盤の地質調査と評価 現場技術者必携 ダムのボーリング調査技術の体系と展開」は,次代を担う若手技術者,現場技術者のために著されたボーリング調査技術を軸とする地質調査と評価の解説書である。“地質と土木”の連携を強く意識し,地質調査のあり方,および地質情報の取得と評価,設計・施工への適用の考え方と方法について,基本から応用,最新技術まで幅広く解説している。」(本書「刊行によせて」前土木学会会長 阪田憲次)
この本は単なる技術の解説ではなく,「基本的考え方」を随所で述べているのが大きな特徴です。つまり、それぞれの技術の目的を丁寧に述べています。
索引を入れて529頁という大部な本ですから,すべてを読み通すには時間がかかりますが,一通り目を通し,どこに何が書いたあるかを頭に入れておいて,実際に業務をこなしながら必要なところを読み込んでいくのが良いと思います。
また,ダム調査に関わる技術者だけでなく,岩盤の調査に従事する人に読んで欲しい本です。
確かに,ダム建設は大規模な自然破壊を伴います。しかし,安定的な上水や灌漑用水の供給,洪水被害の低減,発電などに役立ってきたことも確かです。
そして,地質調査としては,総合的な技術が求められ,地質技術者として技術を磨くことが出来ます。数十年単位で見ると,今後,老朽化したり不要になったダムをどのようにしていくのかが問題になってくる可能性があります。そのためには,建設時の技術を伝えていく必要があるでしょう。
目次の概要を紹介しておきます。
第1編 岩盤の地質調査とボーリング技術一般
第2編 ダムサイトの地質調査
第3編 堤体材料の地質調査
第4編 斜面の地質調査
第5編 ボーリング調査技術と管理・保管
手稲山に登る ― 2013/05/20 17:49
2013年5月19日(日),ようやく札幌も春らしい気候になってきたので,手稲山に走って登ろうと出かけました。天気は薄曇りで風はなく,暑くも寒くもない絶好の暖かさです。例によって,水とサンドイッチと補助食のカロリーメイトを持ってでかけました。2万5千分の1地形図も持ちましたが,今回はGPSという強い味方があるので,現在位置で迷うことはないでしょう。
手稲山は前期鮮新世(約370万年前)に活動した火山で,かって北西山腹では手稲鉱山が稼行していて金銀を産出していました。札幌市街から見ると,南東(左)に緩く傾斜した特徴的な姿をしています。この地形を作っているのは「平坦面溶岩」と呼ばれる「鉄平石」様の板状節理の発達した輝石安山岩の溶岩です。
しかし,市街から見ても北西側は急斜面になっていますし,北東斜面のロープウェイのある付近は,標高650m付近からは急斜面がほぼ山頂まで続いています。この崖は,手稲山岩屑なだれの滑落崖で,その移動土塊はJR手稲駅付近まで達しています。テイネオリンピアは,この地すべり地の中に造られています。
さらに,琴似発寒川が回り込んでいる南西斜面は,地形図でも崖マークが続いていて,崖の下には巨大な転石群が分布しています。今回登った平和の滝コースは,この転石原を登っていきます。

琴似発寒川右岸の平和3条9丁目から見た手稲山
テレビ塔群の建っているところが山頂(標高1,23m)で,手前に見える崖は標高800m付近にあるガレ場を作っている崖です。中央の白く細長く見える部分が,山頂溶岩の流走面に相当します。
短パンに長袖のシャツという出で立ちで出発しました。靴はトレールランニング用のメッシュのアッパーのものです。軽くて良いのですが防水機能はありません。
琴似発寒川沿いの林道は,多少ぬかるんだところはありますが雪もなく,走るのに支障はありません。

砂防ダム付近の琴似発寒川沿いの林道
ほとんど雪はなく道も乾いていました。まだ,木の芽は出ていません。
布敷の滝に向かう沢からは,ほぼ全面雪です。トレラン用の靴なのでそれなりにグリップは効きますが慎重に登ります。もう,走るどころではありません。

布敷の滝付近の様子
まだ,沢には雪が残っていて,その上を歩いて行きます。踏み跡があるので安心ですが,間違えると沢に落ちます。トレランシューズでもグリップは効く程度に雪は柔らかいです。
沢から離れると一面の雪の斜面です。樹林帯ですので傾斜はそれほどきつくはありません。足跡をたどってひたすら登ります。1時間20分ほどでようやくガレ場につきました。さすがに,ここは雪が溶けて転石が露出していて暖かです。ここで小休止。今日の目的は,ここから山頂直下の崖の写真を撮ることだったので,一応目的は達成です。GPSを見ると山頂の尾根まではもう少し。これは一頑張りして頂上まで行かなきゃと思い出発。

沢から離れて斜面を登る
頂上のテレビ塔が見えてきました。頂上直下にも柱状節理の発達した溶岩の崖があります。

ガレ場
雪はほとんどなく,石からの熱が伝わってきて気持ちの良い暖かさです。

ガレ場の上の斜面
この斜面を登るのに苦労しました。滑らないように,つま先を蹴り込んで登りました。地図上では,せいぜい傾斜28度ですが場所によっては恐怖を覚える所があります。
12時ちょっと過ぎに頂上に着き,一番北西の神社まで行って崖の写真を撮りました。前回来た時は,霧で何も見えませんでした。
この日は,羊蹄から暑寒までぐるっと見えます。空は霞がかかったようにぼやけていますが眺めを堪能できました。
スキーやスノーボードを担いで登ってくる人たちに会います。まだまだ十分にスキーが出来るほどの雪があります。こちらは短靴・短パンという出で立ちですから,さすがに風に当たると寒い。ロープウェイの小屋の影の風の来ないところで昼飯を取ました。
帰りに雪の斜面を降りることを考えると気分的に落ち着かなくて,早々に降り始めました。

頂上は雪原
十分スキーが出来る雪が残っています。薄曇りですが風はほとんどなく,気持ちの良い天気です。
定山渓天狗岳と無意根山
中央の岩山の一番左が定山渓天狗岳で,その左遠くの白い山が無意根山です。

頂上の安山岩露頭
やや白っぽい輝石安山岩です。おそらく凍結融解作用によって節理が開口しているものと考えられます。これが崖下に落下して岩塊群を作ります。
一番心配したガレ場の上の雪の斜面は,人の踏み跡を外して歩くと滑らないことを発見して,それほど恐怖を覚えないで降りることが出来ました。それでも,足を突っ張ってかかとを雪に押し込んで下ったので膝の裏の腱が痛くなりました。登りでは気がつきませんでしたが,沢にはヤチブキが花を咲かせていました。

雪の間から顔を出したヤチブキ
雪のない林道は走って降りました。1時間半ほどで,平和の滝に無事つきました。滝はものすごい水量で,ごうごうと音を立てていました。

平和の滝
雪解け水で水量が豊富です。
「地質Navi」が正式公開されました ― 2013/05/22 16:28
産業技術総合研究所 地質調査総合センターの「地質図表示システム 地質Navi」が2013年5月10日に正式公開されました。URLは下のとおりです。なお,5月10日は「地質の日」で,この日に公開したことに作成者の意気込みを感じます。
< https://gbank.gsj.jp/geonavi/ >
いくつかの特徴と私の感想を述べます。
1)背景の地図は,「国土地理院 電子国土」,「Googlw航空写真」などから選ぶことが出来ます。右肩にメニューがあります。私にとって使い勝手が良いのは,場所の確認が楽な電子国土です。
2)最初に表示されるのは20万分の1シームレス地質図です。ここでは,全国統一凡例で地質が表示されますので,「支笏火砕流堆積物」は,「後期更新世(Q3)の火山岩類(非アルカリ火砕流)」となります。形成年代も表示されます。
3)50万分の1から5万分の1までの地質図表示に切り替えられます。例えば,「5万分の1札幌図幅」を表示させることができます。支笏火砕流堆積物の分布域は,「支笏噴出物 豊平浮石層」と「月寒火山灰層」と命名されていたことが分かります。
4)右上に「現在地」というメニューがあります。かなり正確に,現在いる位置を表示できます。「電子国土」の背景で拡大していくと2万5千分の1地形図になります。これは便利です。
戦後の地質図幅が作られてから60年以上が経っています。この間に,地質観は大きく変わりました。現在の地質の見方は「20万分の1シームレス地質図」の凡例から知ることが出来ます。一方,どこにどんな岩相が分布しているのかは,既存の地質図幅を読み替えることで理解できます。また,既存地質図の断面図も表示されます。
非常に優れたシステムで,さまざまな使い方が出来ます。