「災害に強いしなやかな社会づくり」防災シンポジウム ― 2013/03/02 09:57
2013年2月27日、北大学術交流会館で開かれました。主催は、国土交通省 北海道開発局です。基調講演をした田中 淳氏が、「こういうタイトルのシンポジウムは珍しい」とおっしゃっていました。
田中氏の講演が非常に良かったのと、パネルディスカッションのパネラーの3氏が、率直に話をされていたのが印象的でした。
開会のあいさつは開発局事業振興部長の森田康志氏、コーディネーターは同じく事業振興部調整官の吉井厚志氏でした。

写真1 開会のあいさつをする森田康志 開発局事業振興部長
田中 淳氏(東京大学大学院情報学環教授 総合防災情報研究センター長)の講演のタイトルは「災害情報で命を救う」です。
災害に強いと言うことは、どうしてもハード対策が重点になります。これは必要ですが、では防災施設を設計した時の予測を超えた災害が発生した場合どうするのか。これには、しなやかに対応する必要があり、できるだけ人が死なないようにする、できるだけ早く災害から立ち直る対応を考えておく必要があります。
予測には不確実性があり、予測の限界もあります。このことに対処するには、事前に何を住民に知らせておくかが大事です。
例えば、最近は地震が起こった場合、携帯電話に緊急地震情報が流れます。ですから、このような講演会の会場でも「携帯電話の電源を切って下さい」とは言わず、「音の出ないようにして下さい」と言うようになってきています。
3.11の時、東京では70秒前に緊急地震速報が出ました。ある程度余裕があり、揺れに対して構える時間はありました。問題は、地震のあと、どう行動するのかを事前に考えておくことです。例えば、北海道などの場合、冬に地震・津波が起きたらどうするのか。一番の問題は暖房です。
防災教育の問題は、1)関心が低い、2)継続するのが難しい、3)科学的知見に対する格差が拡大している、と言ったことが挙げられます。
防災教育の目的は何なのか、どういう状態になれば防災教育が効果があったと言えるのかなどについて整理する必要があります。
東日本大震災から2年が経過しようとしている現在、被災者の気持ちとしては、まず、自分の家で前と同じように住めること、そして自分の住んでいる地域が元に戻ることが、本当に復興できたと感じる時だと言います。つまり、将来に対して希望が持てる状態になることが必要なのです。
このほかにも、様々なことを話されました。

写真2 基調講演をする田中 淳 東大大学院教授
この後、パネルディスカッションに移りました。
パネラーは、新保元康氏(札幌市立幌西小学校 校長)、堀口哲治氏(留萌建設業協会二世会 副会長)、金子ゆかり氏(北海道建築士会 女性委員会 副会長)の3氏で、それぞれの活動状況と感じている問題点を話されました。
新保氏は学校を中心に地域を含めた防災教育の実践を、堀口氏は留萌での防災教育の実践を、金子氏は釧路での防災教育に実践を話されました。
この中で、新保氏が「学校では日本の国土の成り立ちや特徴と言ったことをほとんど教えていない」と言っていたのが、商売柄、印象に残りました。

写真3 パネルディスカッションの様子
左から、吉井厚志 開発局事業振興部調整官、田中 淳氏、新保元康氏、堀口哲治氏、金子ゆかり氏。
本の紹介「建設業者」 ― 2013/03/03 15:10

「建設業者 三十七人の職人が語る 肉体派・技能系仕事論」
(エクスナレッジ、1,400円)
土木建設ではなく建築の建設に関わっている37人の「職人」達へのインタビュー集です。
建築現場の鳶,鉄筋工から宮大工,什器の塗師まで,幅広い職業の人たちが語る経歴と仕事の極意は読んでいて面白いです。いろいろなことを経験し今の自分の仕事に誇りを持っているというのが共通した特徴だと思います。
そして,インタビューの聞き手が相手に信頼されていることが伝わってくるのも,この本の大きな特徴だと思います。
一人の語りは5頁から6頁程度ですのですぐ読み終わってしまい,もっと話を聞きたいなと思わせます。
特に,世の中面白くないと思い悩んでいる若い人が読めば,自分の生き方を決める参考の一つになるのではないかと思います。
柴 正博「東海地震はいつ起こるか?」 ― 2013/03/30 17:02
「地学教育と科学運動 69」(2013年3月.地学団体研究会)に載っている論文です。

結論は,駿河湾を中心とする地域(いわゆるE領域)では,東海地震は起こらない可能性が高いというものです。最大の根拠は,2011年3月の東北地方太平洋沖地震も含めて,震央は深海平坦面の周辺分布していて深海平坦面の中では地震は起こっていないという事実です。
紀伊半島の東西には広い深海平坦面(前弧海盆)が発達していますが,駿河湾周辺には石花海海盆(北緯34度41分47秒,東経138度15分5秒付近)がある以外,広い深海平坦面が発達していません。この様子は,グーグルアースで見ると良く分かります。靑森県下北半島沖から千葉県房総半島沖にかけては,非常に広い深海平坦面が広がっています。この平坦面の詳細な区分は,岩淵(地質雑,1968,Vol.74,37-46)が分布図を描いています。この平坦面の傾斜は5秒程度とされています。
田は,すでに45年前に海段(深海平坦面)の縁辺に震央が集中していることを指摘していました(田 望,1968,海底地形と浅発地震の震央分布.北海道大学地球物理学研究報告,20,111-124.)。
沈み込み帯のどの深度で地震が発生するかは,かなり分かってきて,その発生機構も解明されつつあるように思います。しかし,平面的にどのような場所で発生しやすいかは詳細に検討されていないように思います。
なぜ深海平坦面の周辺で地震が発生するかの理由は解明されていません。さまざまな考えを取り込んで検討していくことが必要と思います。また,高い精度でのデータも集積されつつあります。
なお,柴説に従えば,広い深海平坦面は愛知県の渥美半島沖から宮崎市沖まで分布していますから,この地域での巨大地震発生の可能性はあります。北海道の十勝沖も同様です。