本の紹介:ブロッカー、クンジグ「CO2と温暖化の正体」 ― 2010/05/24 17:39

海洋の深層水と表層水の流れを「ベルトコンベヤー」としてモデル化した W.S. ブロッカーの著書である。
この本の主張は、気候変動は凶暴な野獣のようなもので急激に変化するというものである。そのことを過去の気候変動についての様々な資料にもとづいて詳しく説明している。
1955年ころ、ブロッカーは大学院生で放射性炭素年代測定を手がけていた。この技術を武器に氷河期の名残であるネバダ州のピラミッド湖周辺の調査を行い湖岸段丘の時代を決定した。これは、まさに気候変動を示す現象である。
ブロッカーの博士論文がリビーのノーベル賞受賞講演で引用されていることは有名である。
1980年代末には、それまでの海洋水循環の研究をまとめて「ベルトコンベヤー」として海洋の熱塩循環を模式的に示した。この循環の原理も、この本の中で解りやすく説明されている。
ダンスガード-オシュガーサイクル(グリーンランドの氷床コアから)、ハインリッヒ・イベント(氷山によって運ばれた岩屑層)などの気候のジグザグの変動も明らかにされてきた。それらの中でもっとも急激な変動がヤンガー・ドリアス期の変動である。
このような気候変動がベルトコンベヤーの動きが停止することによって生じるとブロッカーは考えた。
最近の気候変動についても詳しく述べられている。中世温暖期にはシエラネヴァダ山脈の東側で大干ばつが発生していたこと、この現象は太平洋東海域に冷水塊が形成されるラニーニャと密接に関連していることなどである。
気候変動は自然に起こっている現象であるが、人間の放出してきた二酸化炭素がそれを加速しているというのがブロッカーの考えである。そして、社会は不要となった水を下水として処理しているように、これまで大気中に放出し放題であった二酸化炭素を回収する必要があると考えている。そのための装置の開発にも着手している。
地球温暖化に関する本は、日本ではセンセーショナルというか、どぎついタイトル・内容のものが多い。しかし、この本は非常にていねいに気候変動で何が起こっているかを説明している。
また、この本は科学者とライターの共著となっている。スベンスマルクとコールダーの「不機嫌な太陽」もそうである。
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