火星探査の面白さ ― 2009/04/28 22:21
ローバー,火星を駆ける
僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢(2007,早川書房)
マーズ・エクスプロレーション・ローバー計画の研究代表者である スティーヴ・スクワイヤーズが書いた本である.火星に着陸して探査を行うローバーの開発から火星着陸,そして火星での探査の様子を詳細に語ったものである.
火星探査は1964年にアメリカのマリナー4号が火星の裏側の写真撮影に成功した.1971年にはソ連のマルス2号が火星の周回軌道に乗り,さらにマリナー3号は周回軌道から着陸船を切り離し着陸に成功した.しかし,着陸直後に通信不能となった.
1976年にアメリカのバイキング1号,2号が着陸に成功し,着陸地点で生命探査実験を行った.このバイキング1,2号以後火星探査は20年の空白を置く.
1997年,アメリカは周回軌道から火星を観測するマーズ・グローバル・サーベイヤーと火星表面の探査車であるマーズ・パスファインダーを火星に送り込むことに成功した.この前年の1996年には火星隕石(ALH84001) から微化石を発見したという報告が,NASA の マッケイとギブソンによってなされた.この微化石状のものが生物起源かどうかは,今現在も議論がなされていて決着がついていない.
本書の内容に戻ると,火星に自走する探査機を着陸させるというスクワイヤーズたちの計画の採用が決まったのは1997年11月7日である.それから,探査車に積む様々な分析機器の調達,岩石研磨装置の開発,着陸船(ランダー)の着地方法,探査車の動力源となる太陽電池の配列,等々の困難を克服していく様子が描かれている.そして着陸の瞬間の緊迫感.
着陸後の探査車の運用に際しては,火星の1日の長さが地球より40分長いことによって担当者の勤務時間が少しずつずれて行くことへの対処が結構大変だったことなどが書かれている.
当初の稼働予定日数は90日であったが,5年たった現在も探査を続けており,多くの成果を上げている.
読み物としても面白く,火星について何が解っているのかを理解する上でも役に立つ内容である.
この本の付録として,マーズ・エクスプロレーション・ローバーのプロジェクトに参加した人たち4,000名以上の名前の一覧表があり,29ページにわたってびっしり氏名が記録されている.
<その他の図書>
丸山茂徳,ビック・ベーカー,ジェームス・ドーム,2008,火星の生命と大地46億年.講談社.
*2030年を想定した火星探査の予言的 SF 的小説から始まる内容で,読んで面白い本である.地球の歴史を考える上で火星が参考になることが解る.また,地球の歴史から火星の歴史が推定できることも解る.
ただし,今,科学的にどこまで解っているのかについては慎重に読み取る必要がある.
宮本英昭,橘省吾,平田成,杉田精司,2008,惑星地質学.東京大学出版会.
*今,火星についてどこまで解っているのかを冷静に理解するには格好の本である.本の題名のとおり,月,水星,金星,小惑星,彗星,木星・土星・天王星・海王星の衛星についても書かれている.
ジム・ベル,2007,火星からのメッセージ.ランダムハウス講談社.
*立て,横29cmの大型の写真集である.ローバーの組み立て風景,積み込まれた装置,打ち上げの様子から始まって,オポチュニティーとスピリットが火星上で撮影した写真が満載の本である.スプリットが撮影した見開き4ページのボンヌビルクレーターのパノラマ写真,オポチュニティーが43ソル(火星日)かけて撮影した「エレバスの縁」のパノラマ写真などなど見ていて飽きない.
【END】
僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢(2007,早川書房)
マーズ・エクスプロレーション・ローバー計画の研究代表者である スティーヴ・スクワイヤーズが書いた本である.火星に着陸して探査を行うローバーの開発から火星着陸,そして火星での探査の様子を詳細に語ったものである.
火星探査は1964年にアメリカのマリナー4号が火星の裏側の写真撮影に成功した.1971年にはソ連のマルス2号が火星の周回軌道に乗り,さらにマリナー3号は周回軌道から着陸船を切り離し着陸に成功した.しかし,着陸直後に通信不能となった.
1976年にアメリカのバイキング1号,2号が着陸に成功し,着陸地点で生命探査実験を行った.このバイキング1,2号以後火星探査は20年の空白を置く.
1997年,アメリカは周回軌道から火星を観測するマーズ・グローバル・サーベイヤーと火星表面の探査車であるマーズ・パスファインダーを火星に送り込むことに成功した.この前年の1996年には火星隕石(ALH84001) から微化石を発見したという報告が,NASA の マッケイとギブソンによってなされた.この微化石状のものが生物起源かどうかは,今現在も議論がなされていて決着がついていない.
本書の内容に戻ると,火星に自走する探査機を着陸させるというスクワイヤーズたちの計画の採用が決まったのは1997年11月7日である.それから,探査車に積む様々な分析機器の調達,岩石研磨装置の開発,着陸船(ランダー)の着地方法,探査車の動力源となる太陽電池の配列,等々の困難を克服していく様子が描かれている.そして着陸の瞬間の緊迫感.
着陸後の探査車の運用に際しては,火星の1日の長さが地球より40分長いことによって担当者の勤務時間が少しずつずれて行くことへの対処が結構大変だったことなどが書かれている.
当初の稼働予定日数は90日であったが,5年たった現在も探査を続けており,多くの成果を上げている.
読み物としても面白く,火星について何が解っているのかを理解する上でも役に立つ内容である.
この本の付録として,マーズ・エクスプロレーション・ローバーのプロジェクトに参加した人たち4,000名以上の名前の一覧表があり,29ページにわたってびっしり氏名が記録されている.
<その他の図書>
丸山茂徳,ビック・ベーカー,ジェームス・ドーム,2008,火星の生命と大地46億年.講談社.
*2030年を想定した火星探査の予言的 SF 的小説から始まる内容で,読んで面白い本である.地球の歴史を考える上で火星が参考になることが解る.また,地球の歴史から火星の歴史が推定できることも解る.
ただし,今,科学的にどこまで解っているのかについては慎重に読み取る必要がある.
宮本英昭,橘省吾,平田成,杉田精司,2008,惑星地質学.東京大学出版会.
*今,火星についてどこまで解っているのかを冷静に理解するには格好の本である.本の題名のとおり,月,水星,金星,小惑星,彗星,木星・土星・天王星・海王星の衛星についても書かれている.
ジム・ベル,2007,火星からのメッセージ.ランダムハウス講談社.
*立て,横29cmの大型の写真集である.ローバーの組み立て風景,積み込まれた装置,打ち上げの様子から始まって,オポチュニティーとスピリットが火星上で撮影した写真が満載の本である.スプリットが撮影した見開き4ページのボンヌビルクレーターのパノラマ写真,オポチュニティーが43ソル(火星日)かけて撮影した「エレバスの縁」のパノラマ写真などなど見ていて飽きない.
【END】
火星の話(その2) ― 2009/04/30 09:10
現在,火星にはスピリットとオポチュニティの二つのローバーが火星表面の探査を行っているほか,火星周回軌道上からマーズ・リコネサンス(アメリカ),マーズ・イクスプレス(ヨーロッパ),2001マーズ・オデッセイ(アメリカ:上記二つのローバーの通信の中継も行っている)の三つのオービターが観測を続けている.なお,2008年5月に極域に着陸して地表下の水の氷の存在を確認したフェニックスは同年11月に活動を停止した.
特に,マーズ・リコネサンスは分解能30cm というカメラを搭載して詳細な火星表面のデータを収集している.
今後の火星探査で注目されているのはマーズ・サイエンス・ラボラトリーと呼ばれるローバーで2012年の火星着陸を目指して準備が進められている.
このローバーの科学的目的は,火星で生命が発生したのかどうかの決め手をつかむこと,火星の気象状況をつかむこと,火星の地質をつかむこと,そして人が火星に着陸して探査をする準備をすること,の四つである.
搭載される機器は三つのカメラ,四つの分析計(Spectrometers),二つの放射能検知器,大気圧・湿度・風速・太陽からの紫外線放射を測定する環境モニター装置である.この中で最も重要な機器は SAM(Sample Analysis at Mars)と呼ばれる一連の分析計であろう.質量分析器,ガスクロマトグラフ,同期レーザー分析器で,生命の証拠を探すのが目的である.
ところで,火星の地形解析と地下構造から,火星に超巨大地すべりがあるという説が出されている(Nature Geoscience,2009,Vol.2,248-249).タルシス高地の南緯20度付近にあるアルシア山の東南東500km付近を頭部とし,有名なマリネリス渓谷が北側の側壁,クラリタス地溝を南の側壁とし,タウマシア高地を末端とする延長・幅ともに約2,500km,すべり面の深さ10〜15km という末端隆起型の地すべりが想定されている.この付近の地下構造は塩と火山性堆積物の互層となっていて,この塩の層がすべり面の形成を助けているのだろうという.
火星には標高26,000m という宇宙最大の火山であるオリンポス山があるので巨大な地形があっても不思議ではないが,それにしても本当だろうか.
参考ウェブサイト
<http://moon.jaxa.jp/ja/mars/index.html>
*宇宙航空研究開発機構のサイトで様々な情報を得ることができる.
<http://marsprogram.jpl.nasa.gov/msl/>
*NASA の火星に関するサイトでマーズ・サイエンス・ラボラトリーの詳しい情報が得られる.
【END】
特に,マーズ・リコネサンスは分解能30cm というカメラを搭載して詳細な火星表面のデータを収集している.
今後の火星探査で注目されているのはマーズ・サイエンス・ラボラトリーと呼ばれるローバーで2012年の火星着陸を目指して準備が進められている.
このローバーの科学的目的は,火星で生命が発生したのかどうかの決め手をつかむこと,火星の気象状況をつかむこと,火星の地質をつかむこと,そして人が火星に着陸して探査をする準備をすること,の四つである.
搭載される機器は三つのカメラ,四つの分析計(Spectrometers),二つの放射能検知器,大気圧・湿度・風速・太陽からの紫外線放射を測定する環境モニター装置である.この中で最も重要な機器は SAM(Sample Analysis at Mars)と呼ばれる一連の分析計であろう.質量分析器,ガスクロマトグラフ,同期レーザー分析器で,生命の証拠を探すのが目的である.
ところで,火星の地形解析と地下構造から,火星に超巨大地すべりがあるという説が出されている(Nature Geoscience,2009,Vol.2,248-249).タルシス高地の南緯20度付近にあるアルシア山の東南東500km付近を頭部とし,有名なマリネリス渓谷が北側の側壁,クラリタス地溝を南の側壁とし,タウマシア高地を末端とする延長・幅ともに約2,500km,すべり面の深さ10〜15km という末端隆起型の地すべりが想定されている.この付近の地下構造は塩と火山性堆積物の互層となっていて,この塩の層がすべり面の形成を助けているのだろうという.
火星には標高26,000m という宇宙最大の火山であるオリンポス山があるので巨大な地形があっても不思議ではないが,それにしても本当だろうか.
参考ウェブサイト
<http://moon.jaxa.jp/ja/mars/index.html>
*宇宙航空研究開発機構のサイトで様々な情報を得ることができる.
<http://marsprogram.jpl.nasa.gov/msl/>
*NASA の火星に関するサイトでマーズ・サイエンス・ラボラトリーの詳しい情報が得られる.
【END】