プレートが長距離を移動する理由2009/05/13 16:33

 火星の超巨大地すべりは火山性堆積物と塩の層が互層しているために,塩の層が滑材の役割をして発生したと考えられている.

 東京大学地震研究所は「海半球ネットワーク計画」で水深5,000mの太平洋プレートとフィリピン海プレートに約500m のボーリングを行って,海底堆積物の下の玄武岩層に「広帯域地震計」を設置し観測を行っていた.そのデータを解析した結果,プレートの下底,深度80〜90kmに明瞭な地震波速度の低下を示す箇所があることが解った.さらに,この速度低下箇所から深度200km くらいまでは,深度に比べて予想される地震波速度が小さいことが解った.このアセノスフェアでは地震波は鉛直方向に伝わる場合と水平方向に伝わる場合で速度が異なることが知られている.

 岩石変形実験などの知見によると岩石が融けると弾性波速度が変化するが,その変化の割合は融け方によって異なることが解ってきた.つまり,融けている部分が縞状になっている場合の方が一様に融けている場合よりも変化の割合が大きい.また,融けている部分が縞状になっていれば地震波速度の異方性も説明できる.

 つまり,アセノスフェアでは高温で部分溶融したマントルの岩石がプレート運動により引き延ばされて縞状になっているために,プレートが容易に移動することが出来るという結論に達した.

 塩の層や部分溶融層といった層状に分布する滑剤が,大規模な地すべりやプレート移動を助けているというのは面白い話である.

 ところで,中央海嶺が出来はじめた時には,部分溶融の縞状構造はそれほどはっきりしていなかったのではないだろうか.最初の原動力は海嶺の高まりによる重力作用なのであろうか.上昇してきたマントルの横への流れに引きずられるのが大きいのだろうか.それにしても,紅海やアフリカ大地溝帯のように大陸が分裂し始める時は両側に抵抗となる大陸地殻があるので,潜り込みが始まるまでは結構な力が必要なような気がする.

参考 URL
<http://gachon.eri.u-tokyo.ac.jp/~hitosi/misc/LAB.html>
東京大学地震研究所>お知らせ>川勝教授らの研究がScience誌に掲載されました>プレートテクトニクスの謎 -プレートの底- の深海底観測による解明