第57回試錐研究会 ― 2019/03/01 10:12
2019年2月27日(水)に北海道立総合研究機構 地質研究所主催の標記講演会が,札幌サンプラザで開かれました.

写真1 開会の挨拶をする地質研究所・所長 高橋徹也氏
特別講演はダム技術センターの脇坂安彦氏でした.一般講演は株式会社ドーコンの富岡 敬氏,地質研究所の廣瀬 亘氏,株式会社アクアジオテクノの藤井浩詩氏でした.
ここでは,脇坂氏と廣瀬氏の講演概要を紹介します.
脇坂安彦氏:高品質ボーリングコアから読み取る
地すべりと断層の情報
地すべりのすべり面と地質構造としての断層の区別をどうするか.
すべり面粘土の存在がその一つの要素ですが,すべり面粘土を持たない場合があります.
そこで,地すべり移動体そのものに地すべり特有の性状がないのかを検討しました.幸い,高品質ボーリングの技術が発達し,粘土層を含む詳細な地質学的観察が可能になりました.
四万十帯および秩父帯の地すべり移動体のコア観察から,地すべり移動体を特徴付ける破砕岩があることが判明しました.調査では,孔内傾斜計で移動層がはっきりしていること,採取されたコアの回りに付いているマッドケーキ(粘土状の掘削くず)を丁寧に取り除くことが大事です.
その結果,地すべり移動体には6段階の特徴的な構造があることが分かりました.まず,縦方向の鋸状の亀裂が出来ます.その後は礫と基質に分かれて,すべり面に近くなると礫が破砕されて小さくなり,すべり面粘土となります.地すべり移動体でのこの破砕の過程では定向性を持った構造が現れないことが大きな特徴です.地すべりの場合,拘束圧がそれほど高くないためだと考えられます.
講演では四万十帯、秩父帯,蝦夷層群,和泉層群,周防帯結晶片岩,第三紀堆積岩類,花崗岩類の例が示されました.
これに対して断層の場合,定向性を持った構造(面構造)が見られ,右ずれ断層の場合,うまくいけば断層面(Y 面),左雁行状の破断面(R1面),R1面に対して Y 面で対称となる P フォリエーションが現れます.
図1 地すべり移動体および断層岩類の破砕度区分
(脇坂ほか,2012,242p)
図2 地すべり移動体および断層岩の区分と性状
(同上)
地すべり面の場合,すべり面に近くなるにつれて礫が細粒化します.そのため,火山角礫岩などのように,もともと礫を含んでいる岩盤では識別が難しくなります.
また,すべり面より深いところでも面構造を持たない破砕岩があります.重力変形を起こしている場合,面構造を持たない破砕岩が出来ます.また,すべり面より深い深度で地すべり運動によって受動破壊が起きる場合や現在は滑動していない古い地すべりによって形成されたすべり面が存在している場合などがあるので注意が必要です.
コア観察ですべり面を判定する場合,高品質ボーリングコアが必須です.掘削の難易度とコア採取率のマトリックス表によって掘削単価を変えるような工夫が必要と考えます.
廣瀬 亘氏:北海道胆振東部地震で発生した地盤災害
厚真町付近には約4万年前の支笏火砕流(Spsl1)が4m ほど,約1.7万年前の恵庭降下軽石(En-a)が1m ほど,約9千年前の樽前降下軽石(Ta-d) が0.5m ほど分布しています.このような火砕堆積物が厚く分布している地域で崩壊が多発しています.崩壊地を構成する地質については,周氷河環境で形成された地形や堆積物,その後の河川による削剥現象などを考慮に入れた地形・地質発達史を考える必要があります.
勾配が10°以下の斜面でも崩壊が発生していることに注意が必要です.
崩壊斜面の地形・地質的特徴については,今後,発表する予定です.

写真2 閉会の挨拶をする北海道地質調査業協会・理事長 千葉新次氏
<感 想>
高品質コアによるすべり面の判定については,多くの地質調査会社が知恵を絞って挑戦してきました.一応,判定基準が整ったように思いますが,まだまだ判定が難しい事例が多いと思います.
地すべりの部位,例えば頭部と末端では地すべり移動体が受ける破壊様式が異なっていることも考えられます. 周辺の地形・地質を含めて総合的に判断することが間違いを少なくする道だと思います.
廣瀬氏の講演からは,まだ,すべてまとめ切れていないと感じました.斜面崩壊が多発した地域の地形的・地質的特徴がまとめられることが期待されます.講演の中で少し触れられましたが,最終間氷期から最終氷期にかけての気候変動と地形・地質の変遷,広域的な構造運動との関係などが分かれば良いと思いました.
高品質ボーリングについて,ウェブで入手できる文献としては,次のものがあります.
☆脇 坂 安 彦・上 妻 睦 男・綿 谷 博 之・豊 口 佳 之,2012 ,地すべり移動体を特徴づける破砕岩 四万十帯の地すべりを例として .応用地質,第52巻,第 6号,231-247頁.
☆脇坂安彦,2016,地すべり移動体における特徴的な破砕岩-地すべり期限と造構断層起源の破砕岩の識別-.地すべり学会誌,第53巻,第4号,36-39.
また,断層岩の構造については,次の本の 「VII 章 」分かりやすいです.
☆狩野健一・村田明広,1998,構造地質学.朝倉書店.