第43回地質調査総合センターシンポジウム2025/01/11 16:47

  43回地質調査総合センターシンポジウム「地質を用いた斜面災害リスク評価−高精度化に必須の地質情報整備−」20241220日(金)に開かれました。会場は福岡アクロスでした。Microsoft Teams で視聴しました。

 

 当日のプログラムを下に示し、講演の概要を述べます。

43地質調査総合センターシンポ


<千木良雅弘氏>

 斜面災害を軽減するには、災害発生場所、雨量の予測が必要です。地形データは定量的取り扱いが可能になってきましたが、地質については定性的な説明で対応せざるを得ません。地質構造、地盤物性、水理特性など、すべてを定量的に説明することは難しいです。

 土砂災害ハザードマップの対象は、急傾斜、地すべり、土石流などがあります。地震では傾斜20度未満の斜面で、浅いすべりが発生しています。そのほかに、深層崩壊があります。

 土砂災害警戒情報は、60分積算雨量、土壌雨量指数、地盤の水分量などを用いて計算します。土壌雨量指数は、3段のタンクモデルで計算します。しかし、同じ三つのタンクが自然を反映しているかは疑問です。手法としては高度ですが不確実なのは否めません。

 災害には地質による癖があります。

 

 2024年能登半島地震の想定震度と斜面災害の密度は厳密には対応していません。特定地質の場所に集中しています。

 輪島市と珠洲市の境界にある水山では、斜面崩壊で発生した土砂が谷と流れました。この付近は軽石凝灰岩の分布域で、軽石は簡単に潰れて泥ねい化します。

 水山の東北東で発生した大久保地すべりでは、シルト岩中に挟在する凝灰岩層ですべりが発生しました。

 

 2004年の新潟県中部地震では、泥岩中の凝灰岩がすべり面となって地すべりが多発しました。芋川地すべりでは古い地すべり土塊の末端が洗掘されてすべりが発生しました。

 

 これらの地すべりでは地層の走向・傾斜と斜面の関係が重要で、斜面に対して流れ盤で斜面勾配より地層の傾斜が緩い柾目盤がすべりやすいです。

 火山灰や軽石の分布域では、地表を一面に覆った火山灰などの斜面下方が洗掘されて不安定化した火山灰層がすべります。2018年北海道胆振東部地震の時の樽前d層でのすべりがその例です。このような降下火砕物の地震時崩壊は、9千年から1万2千年くらい前に噴火した軽石層とその直下をすべり面として発生しています。

 注意が必要なのは、斜面上に残った不安定な土塊が無くなるまで崩壊が続くことです。

 

 降雨による崩壊には表層崩壊と深層崩壊があります。花こう岩分布地域では表層崩壊が多く発生します。斜面の微地形に表層崩壊の痕跡が出ています。

 付加体堆積物分布域では深層崩壊が多く発生します。付加体中には知られていない断層があり、それが弱層となって崩壊が発生します。耳川や川辺川などの崩壊が一つの例です。

 地質分布に着目すると深層崩壊発生頻度推定マップが出来るかもしれません。

 

 斜面災害のデータを蓄積しアーカイブを作成すること、見かけではなく事実をとらえることが大事です。

 

<梅本武史氏>

 土砂災害は、急傾斜地の崩壊、土石流、地すべりです。都道府県が基礎調査を行い、渓流や斜面など土砂災害により被害を受けるおそれのある区域の地形、地質、土地利用状況について調査を行います。この調査結果にもとづいて、土砂災害警戒区域あるいは土砂災害特別警戒区域を指定します。この警戒区域の指定にどんな課題があるか。

 

 令和52023)年に発生した土砂災害は1,471件、令和6年は1,329件で能登半島地震による石川県の土砂災害がありました。

 最近、雨の降り方が変わりました。この10年では崖崩れ(急傾斜地の崩壊)が一番多いです。人的被害を減少させることが重要です。

 方法としては、施設整備、土地利用の規制、特別警戒区域での規制、警戒避難態勢の整備などがあります。

 

<宮縁育夫氏>

 2012年の九州北部豪雨で阿蘇カルデラの東壁が崩壊しました。地質は阿蘇溶結凝灰岩で27万年前、14万年前に噴出したものです。カルデラ壁の下の崖錐堆積物には巨礫が含まれています。阿蘇火砕流堆積物(Aso-1Aso-2)の上位にある後カルデラ期火山灰層で最初の崩壊が発生し、崩壊頭部に1.01.5mの滑落崖ができました。カルデラの中央火口丘の斜面でも浅層崩壊が多発しました。

 阿蘇カルデラでは1990年と2001年にも豪雨で浅層崩壊が発生していて、3,000年前の火山灰層で崩壊が発生しています。崩壊した土砂は土石流に転化しました。

 2012712日の豪雨では黒色火山灰と褐色火山灰の境界で浅層崩壊が発生しました。8,000年間の層序を検討すると、3,000年前のテフラである王城岳スコリアが崩壊していることが分かりました。

 

 伊豆大島では20131015日〜16日にかけて4時間で90mm以上、元町では時間100mm以上の豪雨が発生しました。地震計に斜面崩壊を示す波形が記録されていて、豪雨のさなかに崩壊が発生したことが分かっています。

 大島の西岸斜面の大金沢では1777年の火山灰(Y1)の下底がすべり面となっていました。さらに下位には1421年火山灰(Y4,1338年火山灰があります。これらの火山灰層で支持強度、飽和透水係数を測ってみるとギャップがあり、現地ではパイピングホールが形成されていました。

 長沢流域では2013年の土石流は砂主体でした。土砂堆積量は1平方キロメートルあたり1万立方メートルでした。

 

 阿蘇中央火口丘の話に戻りますが、阿蘇中央火口丘群の一つに高野尾羽根火山があります。約5万年前に流紋岩質溶岩が噴出しました。斜面には3万年前のATテフラ(姶良Tn)、7.3千年前のアカホヤテフラが堆積しています。地震による崩壊はATテフラの直上で発生しています。このテフラにはハロイサイトが形成されています。

 南阿蘇の遺跡発掘では弥生時代の遺跡が出ました。

 カルデラの東壁では5千年前と2千年前の二つの土石流があります。

 最近3,000年間に火山灰が2m以上積もった場所で崩壊が発生しています。

 

<大石博之氏>

 九州には、天草の地すべり、筑豊の土石流、火山地域の崖崩れなどの斜面災害があります。

 斜面災害の発生には、地形、地質構造、降雨量、地下水位などの要素があり、安定解析によって評価します。地形の変化については河川による侵食が引き金になります。

 熊本県の山都町に五老ヶ滝があります。この滝は約27万年前の阿蘇1火砕流とその上位の阿蘇2火砕流が急傾斜で接していて、トップリングによる崩壊で滝が形成されています。

 このような第四紀火砕流堆積物では雨が降らないのに崩壊します。火砕流堆積物の間から湧出する地下水によって侵食されるためです。

 災害発生の共通パターンを見出すことが重要です。急傾斜地の土砂災害警戒区域指定の要件である崖の高さ5m以上、斜面の傾斜30度以上という要件について、ほかの要件を考慮する必要があります。地質単位で地域を区分し、災害が起きない条件も明らかにするのが良いと思います。

 

<宮地良典氏>

 斜面災害リスクの評価を行う感受性マップを作成しています。例えば、地すべり感受性マップを作成し、これをもとに地すべりハザードマップ、災害リスクマップを作成するという流れです。感受性マップは、地形、地質、植生、土壌などを考慮します。また、履歴情報、斜面変動情報、地史や災害記録、衛星情報などを収集します。20万分の1地質図に対応した脆弱地質の分布図を作成します。脆弱地質の分布を把握するために、現地調査、微動アレイ探査、熱水変質の分布と性質、広域磁気測定、走向・傾斜図と流れ盤地すべりの抽出、すべり面の深度と物性値などのデータを収集しています。衛星情報による感受性マップを検討しています。

*これらの成果の一部は、GSJ研究資料集として公開されています。

 

<水落裕樹氏>

 斜面災害リスクを衛星情報、航空機やドローンによるデータなどを用いて解析しました。

 現在、人工衛星は8,000基以上が運用されています。可視光観測、熱放射観測、マイクロ波観測などのデータがあります。オープン・フリーデータを用いて斜面災害の検知、分類、モニタリングを行い、過去の災害履歴と合わせて斜面災害リスックの評価を行っています。

 光学衛星データは太陽光によるデータで、植生変動の把握に有効です。マイクロ波衛星データは長波長の電磁波の反射をとらえるもので、雲を透過するので天候に左右されることがありません。干渉波解析を行えば微地形の変動をとらえることができます。

 植生の変動は地すべりが発生している可能性を示します。マイクロ波の衛星データ(SAR)では時系列の干渉解析を行うことで変位速度を把握できます。SARで検出した変位地形の6割は地表踏査で確認できました。北松型地すべり地域ではcmオーダーの変動を検出しました。

 今後は、機械学習と組み合わせて地すべりの危険度評価を行う予定です。

SARによる変動解析は、Lバンド(波長1530cm)を使うと樹林帯でもできるとのことでした。

 

<大熊茂雄氏>

 日本には火山が440箇所あります。

 火山では熱水による変質作用によって岩盤が粘土化し、すべり破壊が発生しやすくなります。熱水変質した岩盤は、磁性が極端に低いのが特徴です。それで、磁気探査によって変質帯を検出できます。

 ドローンによる空中磁気探査を阿蘇中央火口丘の一つである烏帽子岳の西方約2.6kmにある吉岡地域で実施しました。高度25mで測線間隔25mでの探査の結果、変質帯が地下に広がっていることが確認できました。また、溶結凝灰岩の地割れを検出できました。

 

<斎藤 眞氏>

 九州の地質の整備を進めてきました。

 先第三紀の地質は低角な傾斜をもつ構造です。付加体堆積物の上に表層堆積物が分布しています。三波川変成帯は島原と長崎に分布しているだけです。四国海盆の沈み込みを除いた地質が九州の地質です。

 北九州は石炭紀、ジュラ紀の高圧変成岩が分布し、九州山地の蛇紋岩が境界となっています。椎葉村の白亜紀、古第三紀の付加体は低角です。知覧層や柊野(くきの)層がこれに相当します。

 九州のジュラ紀付加体は秩父古生層に蛇紋岩が挟在しています。三畳紀〜ジュラ紀の高圧変成岩を御船層群が不整合に覆っています。中央構造線は分布していなくて、800万年前から正断層群が形成されています。

 斜面災害との関連で不足している地質情報として接触変成岩があります。接触変成岩類の分布域では地すべりは少ないですが、土石流の危険性は高いです。

 

<総合討論>

 総合討論で出された意見を列記します。

・どこで崩れるかを判断するには、歩いて地質を把握することが大事です。テフラ層のマッピングや接触変成岩の分布マップが必要です。

・崩壊予測は難しいです。ただ、崩壊深度は予測可能と考えています。崩壊地と崩壊地の間が崩壊しやすいことも注意が必要です。

・地すべり感受性マップのような手法を用いて、地質が斜面災害にどのように効いてくるか、データを整備する必要があります。

・過去の地質情報資産は価値があります。いろいろな情報を統合することが必要です。それぞれの地域と結びついた情報の検証が必要です。

・情報をどういう風に出すか検討が必要です。地形的要件のみで的を絞り、地質的要件を付加するという方法もあると思います。いずれにしても、不確実であること、地域によってリスクが異なることを考えることです。

・風化は岩石に固有の性質です。花こう岩は深層風化します。このような風化の程度は地形に現れます。福島では弱溶結の火砕流堆積物の風化が崩壊を起こします。

・岩石ごとの風化様式を整備すること、岩石をグループ分けしグループごとの地質情報を結合することで斜面災害の起こりやすい場所、条件を示すのが良いと思います。

 

<感 想>

 地形学に比べ地質学では定量的な取り扱いができていないことは大分前から言われてきました。地質の場合は「質」が重要な要素なので定量化が難しいのは当然と言えば当然です。そこでは時間的要素が、かなり重要な役割をしています。堆積岩類の固化過程や逆に岩石の風化過程などです。2018年の北海道胆振東部地震の斜面崩壊では、9千年前に噴火した樽前dテフラの軽石がハロイサイト化して脆弱になり、崩壊発生の素因となったことが指摘されています。

 斜面災害のリスク評価に地質的要素をどう取り入れていくのか、今後も様々な試みが必要と感じました。



久しぶりのモエレ沼公園2025/01/13 08:09

 2025112日(日)、久しぶりにモエレ沼公園に行ってきました。

 滝野公園は、歩くスキーのコースが3kmしか使えないみたいなので、行くのにも時間がかかるしモエレ沼公園で我慢しました。

 

 軽いし扱いやすいと思ってスマホだけを持って出かけましたが、手袋をした手では扱いにくく失敗でした。カメラを開くのに暗証番号が必要ですが、うまく解除できません。画面に水準器がないので雪原では水平を取りにくいです。

 暖かいガラスのピラミッドの中で自作のサンドイッチを食べて帰ってきました。それなりに気持ちの良い1日でした。

 

正月のモエレ沼公園

写真1 モエレ山

 

正月のモエレ沼公園

写真2 プレイマウンテン

 

ガラスのピラミッド

写真3 ガラスのピラミッド