第41回地質調査総合センターシンポジウム ― 2024/11/19 10:31
2024年10月25日(金)午前10時から午後5時まで、表記シンポジウムが開かれました。今回の表題は「デジタル技術で繋ぐ地質情報と防災対策〜活断層-火山-斜面災害-海洋地質〜」でした。
Microsoft Teamsで視聴しました。
午前の司会は小松原純子氏で、まず、中尾信典センター長と経済産業省の大出真理子氏の挨拶がありました。午後の司会は古川竜太氏でした。
以下、講演の概要を述べます。メモをもとに書いていますので、勘違いしているところがあるかもしれません。
口頭発表のほかにポスター発表もありました。講演要旨は、下のURLから入手できます(2024年11月19日現在)。
( https://www.gsj.jp/index.html>
https://www.gsj.jp/publications/pub/openfile/openfile0758.html )
藤原 治氏(活断層・火山研究部門長)が趣旨説明を行いました。
産総研 地質調査総合センターでは、高精度デジタル情報の整備を進めています。国が進める国土強靱化では、情報を集約して提供することが求められます。知的基盤整備では高精度のデジタル情報が必要です。
自然災害による死者は年間数百人です。近年、災害は頻繁に起こり激甚化しています。活断層、海洋地質、火山情報、斜面災害などの情報が重要です。
災害に対しては、第一に人命を失わないこと、重要な社会的機能を維持できること、人びとの財産を守ること、そして復旧・復興に資することが必要です。
活断層については、都市直下型の地震を起こす活断層や都市沿岸部の海底活断層に注意が必要です。活断層の位置、長さ、走向、ズレの向き、傾斜、平均変位速度、最新活動時期、平均活動間隔、30年間の発生確率などを明らかにしてきました。5万分の1地形図に表示して公開しています(地質図ナビなど)。
火山については、50の火山について火口位置データベースを作成し、2.5万分の1デジタル地形図に表記しています。
斜面災害については、凡例の構造化を行い、衛星情報と現地調査を組み合わせ、災害履歴を調査しています。衛星データでは干渉SARにより斜面変動を抽出し、それを参考に斜面変動発生の地質的要因を推定しています。
海洋については、データのデジタル化とシームレス化を行い、統合表示を行っています。
地質については、機械で利用可能な形でデータを提供し、図幅とその説明書を公開しています。さらに、API(アプリケーション・プログラム・インターフェイス)を整備することにより利用しやすくします。
災害に強い社会とすることに貢献するため、デジタル化の一層の推進とワンストップでのデータの活用をすすめます。
西山昭一氏(全地連情報化委員会):地盤情報・地盤モデルの利活用と確実な継承に向けて
地盤情報は、国土地盤情報センターや産総研 地質調査総合センターによって公開されていて、ボーリングデータや主題図を見ることができます。
地盤モデルについては、土木地質図やダム建設に伴う地質平面図や断面図があります。
地質リスクについては、構造物ごとに地質リスク・スコアで表示するという方法があります。
3次元地質解析システムは、資源分野での開発が先行していました。システムの流れは同じです。
建設分野でのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデル)は、オブジェクト指向となっています。オープンBIMには、さまざまなものがありますが、BIM/CIMが連携し地形モデル、地質・土質モデル、線形モデルなどを使い情報の受け渡しを行います。地盤モデルを継承するための継承シートがあります。
宮下由香里氏(地質調査総合センター 活断層・火山研究部門):防災情報はどこにある?−活断層データベース、地質図ナビの活用−
2016年に熊本地震が発生しました。この時活動した布田川断層帯・日奈久断層帯については、2013年に地震調査研究推進本部(地震本部)が評価を行っていて、新聞報道もなされました。しかし、大半の住民は、熊本地方に活断層があることを知りませんでした。
自然災害には、地震・気象・火山・土砂などの災害があります。災害マネジメントサイクルは、災害が発生した場合、緊急対応→復旧・復興→次の災害に向けた防止・減災対策→次の災害に向けた事前準備という四つの段階を言います。
地域防災計画は、1961(昭和36)年の災害対策基本法がもとになっています。
災害発生時には情報を瞬時に理解して行動することです。熊本地震の時、海沿いの地域の人たちは津波を予想して山側に逃げました。ところが、地震によって発生した活断層によって行く手を阻まれてしまいました。
地震調査研究推進本部では、産総研、気象庁、防災科研、国土地理院、海上保安庁、大学が連携して調査研究を行っています。地震本部の中に地震調査委員会があり地震の評価と自治体への説明を行っています。
それとは別に、内閣府には中央防災会議というのがあります。これは、1961(昭和36)年の伊勢湾台風を契機に造られた組織です。地震本部は文科省の管轄で全国を一律に評価し発生確率を予測します。
活断層は約2,000あると言われていますが、そのうちの114の活断層の長期評価を地震本部で行っています。海底活断層も含まれます。地震本部では揺れの予測図を作っています。これらを分かりやすい情報として発信すること、活断層の正確な位置を決めること、揺れの予測・地盤情報・活断層からの距離などを情報ポータルとして公開しています。
大上隆史氏(地質調査総合センター 活断層・火山研究部門):レジリエンス向上に向けた都市・沿岸域における活断層調査
2016年の熊本地震で布田川断層帯・日奈久断層帯が活動しました。その北西側に水前寺断層と立田山断層があります。
1995年、地震本部は長さ20km以上で都市・沿岸域にある活断層の調査を行いました。立田山断層は1889年の地震で出現しました。水前寺断層は2016年の熊本地震で出現しました。
立田山断層の調査は熊本城公園で群列ボーリングを行い、断層を確認しました。
海域の活断層調査の例としては、周防灘での調査があります。音波探査と海上ボーリングを行いました。瀬戸内海は活断層調査の空白域です。周防灘には北西−南東方向の菊川断層帯、ほぼ南北方向の宇部南方沖断層、北東−南西方向の小郡断層があり、これらが会合しています。
海上での音波探査では、震源により探査深度が異なります。エアガン(GIガン)では200万年前までの地下構造が明らかになり、ブーマー震源では数十万年以降の地質構造を把握できます。
周防灘で実施した音波探査で得られたサブボトムプロファイラー(SBP)では、海底直下では地層は撓んでいないことが分かりました。周防灘で掘削深度40mのボーリング、炭素年代測定、火山灰同定を行って、大きな地震が発生したのは4千年前以前と分かりました。
周防大島周辺など坊予諸島地域にも海底活断層の存在が予想されます。
及川輝樹氏(地質調査総合センター 活断層・火山研究部門):噴火口図・火口位置データの作成とその活用
地質調査総合センターでは、全国の51火山について火口位置を特定しています。位置の確実度、噴出が予想される位置、噴火口図を付けています。
きっかけとなったのは2014年9月27日の御嶽山の噴火でした。御嶽山では北西−南東方向に火口が並んでいます。確実度、地形判読によって噴出物の分布・構成する地質を示し、既存文献を表示しています。1mDEMの地形図で赤色立体地図を作成し判読しました。
日光白根火山は、既存の火口の北西に火口があることが分かりました。噴火口図で火口の位置とイベントを表示しています。
石塚 浩氏(地質調査総合センター 活断層・火山研究部門):伊豆大島火山−海陸統合調査の試み−
沿岸海域の海底火山と陸上火山の噴出物を総合的に見る必要があります。そのために、水中ドローン、グラブ・ドレッジなど、すべての探査手法を使います。
伊豆大島は、北西−南東方向に火山列が並んでいます。ある程度の水深があれば観測船で調査できますが、水深の浅い岸付近のデータが欠損しています。これらを補う形で探査した結果、大島空港の西にある三ッ峰から北西に延びる火山列が明らかになりました。塊状溶岩や枕状溶岩が分布していて、斜面勾配の変化が観測されました。2,170年前に海底溶岩の活動があったようです。火口の大きさは500m規模です。
島の南東側の波浮の港付近には割れ目噴火を示す火口があり、1,500年より新しい後カルデラ期の火口です。
島の南西にある千波岬は、12,550±40BPの年代の溶岩があり、北北東−南南西の火口列があります。
大島火山はマグマ組成の変化があり、Ba/Laの変化と年代が対応しています。
川端大作氏(地質調査総合センター 地質情報研究部門):地すべりハザードマップにつながる地質情報
斜面変動によって斜面災害が発生します。斜面変動には素因と誘因があります。
斜面変動は、時間スケールとしては何年かに一度発生し、空間スケールとしては広域的な場合もあり構造物単位の場合もあります。
経産省では知的基盤整備計画で九州地方を対象として、斜面リスクマップを整備しています。地すべりハザードマップとしては、過去の発生場、地すべりの起こりやすさを示す感受性マップの作成、地質と地すべりの情報の統合を行っています。
九州北部地方と佐世保地域で斜面災害評価に役立つデジタル地質情報の整備と災害リスク主題図を作成しています。九州の特徴は火山岩地域が多いこと、テフラや熱水変質を素因とする地すべりが多いことです。
地すべり感受性マップの改良やパラメーターをどう選定するかなどの課題を解決していきます。
内藤一樹氏(地質調査総合センター 地盤情報基盤センター):地質DXのためのデータ統合とデータ連携
地質情報をより広く活用するためには、デジタル化と機械可読化が必要です。
地質図はベクトルデータで提供し、説明書はXLMデータとして示します。専門用語を分かりやすく解説します。
ネット空間で、それぞれのデータを結合させます。「Findable(見つけられる)、Accessible(アクセスできる)、Interoperable(相互運用できる)、Reusable(再利用できる)」のフェア原則を採用しています。
位置を緯度経度で検索できるようにします。データの流通性にも留意しAPIは国際標準を用います。地質標本、データカタログなども提供します。
信頼性と品質を保持し生成AIとの区別もつけ、改ざん対策を行い、高品質な学習データを提供します。同時に機械可読性が高いデータとします。
<感 想>
地質調査業務に携わっていた者としては、比較的早い時期から行われていた地質図ナビの整備は、広域の地質を掴むのに大変役に立ちました。5万分の1地質図幅とその説明書をネットで見ることができるのも大いに助かりました。元データを簡単に見ることができるというのは、かなり大事なことだと思います。
地すべりの安定度の評価は災害防止の点で大事で、地すべり学会など色々な機関が評価方法を提案しています。その一つの重要な要素として地質構成・地質構造があります。地質調査総合センターに期待するのは、最新の地質学的観点から地質データを整備することです。
これからも、色々なシンポジウムが計画されているので大いに期待しています。