地学団体研究会第70回理論の学習会2024/11/15 20:02

  表記学習会が、20241110日(日)10時から午後3時半まで昼休みを挟んで行われました。Zoomで視聴しました。

 

 今回は、午前中が

 山田博文氏(群馬大学名誉教授)の「物価高・異次元リスクに沈む国と21世紀の展望」、

 午後が

 原田浩二氏(京都大学医学部准教授)の「有機フッ素化合物PFASによる汚染と健康影響」

でした。参加者は最大で51名でした。

 

<山田博文氏>

 現在、世界の大変動が起きています。アメリカ大統領にトランプ氏がなり、世界の株価が暴騰しています。トランプ氏は、中国に対して60%の関税をかけ、他の国に対しても20%の関税をかけると言っています。

 

 日本では物価高が進んでいますが、賃金の上昇がそれに追いついていません。2022年は値上げ率14%・賃金上昇率1.4%、2023年は同15%・2.1%、20024年は同17%・5.1%です。

 この現象は、円安→輸入物価の高騰→企業の物価高騰→国内の物価高騰→生活と経営の破壊という流れで起きています。

 

 円安の原因は、海外が高金利であるのに対して日本は低金利ですから、日本からマネーが出て行っているためです。中期的には貿易が赤字になり、長期的には日本の国際的地位が低下します。1億ドルの物資を輸入するのに、1995年は84億ドルで済んだのですが、2023年に149億ドルが必要となり、国民は2023年で年14万円の負担増となっています。

 政策金利は、日本が0.25%に対して、アメリカ4.75%、ユーロ3.65%となっていて、日本から金利の高いアメリカに資本が逃避しています。

 

 日本の公的年金積立金は、258兆円ありますが128兆円(約50%)が海外への投資となっています。アメリカ、中国、ASEANなどは外国法人の比率は30%程度です。円安と株式バブルが崩壊すれば価値は1/10になります。

 

 2012年〜20233年の間に、「持つ者」は株の時価総額2.9倍、利益剰余金1.9倍となっています。それに対して、「持たざる者」は消費税が10兆円から23兆円に、税などの負担率は約40%から48%に増えています。賃金が減って負担が増えているのです。政府債務は、991兆円から1,339兆円に増えました。

 

 アベノミクスで円安と株高が進行し、政府債務はGDP2.6倍となっています。終戦後は、ハイパーインフレが進行し、新円に切り替えることなどで債務を解消しましたが、国民はタケノコ生活を強いられました(タケノコの皮を剥ぐように、持っている物を売って金に換えて生活すること)。現在、海外に逃避した資産は411兆円、富裕層の資産は333兆円、企業の内部留保は678兆円です。しかし、経済成長率は0.2%で大企業は海外へ出て行っています。日本は、日昇る国から日沈む国になりました。

 

 現代の経済は、カジノ型金融独占資本主義です。モノの生産をするより、デジタル空間を利用してカネを瞬時に動かして儲けをあげます。資本の自由が最優先で、社会保障は国家による富の窃盗という考え方です。

 世界の金融資産は約274兆ドルで実体経済の規模は約92兆ドル、日本は約18兆ドルに対して約5兆ドルです。日本は海外投資から35兆円の配当・利子を受け取っています。貿易黒字国・物づくり国から貿易赤字国・海外投資国へと変貌したのです。

 

 アジア経済圏を見てみると、1820年には中国とインドが世界の6割を占めていました。2023年にはアジア3割、北米3割、ヨーロッパ2.5割となっています。経済圏の中心はアジアへ移りました。

 そして、日本の貿易相手国は中国(22兆ドル)、ASEAN15兆ドル)、アメリカ(14兆ドル)、EU10兆ドル)、台湾と韓国が5.5兆ドルの順になっています。観光収入も中国からの観光客による収入が4.8兆円で、アメリカ分は0.32兆円です。

 ですから、中国と戦争をして中国からの輸入の8割が2ヶ月止まれば、生産額で53兆円が消失し日本はたちまち破綻します。食糧不足になるのは目に見えています。

 

 日本は、東アジア連合を結成し平和・福祉国家として立ちゆくことです。国民生活と国民の権利を大切にし、アメリカに従属することをやめるのです。

 今の日本は、企業国家+軍事国家に向かっています。しかし、福祉と経済成長は両立できます。地域内循環を作り出し、富の公平な分配を行うことです。

 

 最後に、世界のニュースを知るには、

1.ブルームバーグ社:https://www.bloomberg.co.jp 

2.ロイター社:https://jp.reuters.com 

3.中国人民網:http://j.people.com.cn/94476/index.html 

がグローバルな視野で世界を分析しています。いずれも日本語版をネットで見ることができます。

 

<原田氏>

 PFASは、「ペル/ポリフルオロアルキル物質」の略です。炭素とフッ素を含む人工の有機物です。これまで4,700種以上が使われてきていて、10,000種以上はあるといわれています。分解しにくく耐熱性、耐光性に優れています。今、特に注目されているのがPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)です。

 用途は、撥水・撥油コーティング剤や泡消火剤に使われていて、3M社が開発したゴアテックスにも使われています。PFAS1940年代に3M社が開発し、2002年まで使われていました。

 

 原田氏は、2003年にはPFASの分析法を確立しました。

 その前、2002年に多摩川の河口から奥多摩までPFOSの調査をしました。多摩川上流下水処理場の下流では36-157ng/LPFOSが検出され、その下流の砧浄水場の水道水からは43-50ng/LPFOSが検出されました。軍事基地や航空関連施設、半導体工場などから出ていることが分かります。

 *ng/L1リットル当たり10-9グラム(10億分の1グラム)の含有量。

 

 淀川水系では、河口で非常に高い値を示します。京都市や大阪市の下水処理場、ダイキンの工場、フッ素樹脂製造工場などが原因です。

地下水がPFASに汚染されている例として、手水に使うお寺の井戸から57,000ng/L検出されました。大気によって運ばれたものが地下に浸透したと考えられます。

 

 世界各地で汚染が広がっています。生物への蓄積では、ホッキョクグマやペンギンなどの海棲哺乳類、鳥類、魚類などに蓄積されています。1970年代から鳥の卵で含有量が上がっています。

 

 普段の食事から人が摂取していると考えられます。化粧品では,水に濡れても落ちない種類に含まれています。バーガーを包む耐油紙にも含まれています。

 樹脂製造工場から大気によって拡散していると推定されます。

 

 健康への被害としては、甲状腺異常や腎臓ガン、肝ガン、胎仔成長阻害などが報告されています。低出生体重、発達障害、前立腺ガンなどもあります。

 

 沖縄の宜野湾市では、2016年から企業局が調査を始めました。北谷浄水場の取水源や普天間飛行場周辺の湧水から高濃度のPFOSが検出されています

 2020410日には普天間飛行場からでた泡消火剤の泡が飛び回りました。2021226日には自衛隊の那覇基地からPFOSを含んでいる泡が飛び散りました。

 

 健康へ影響が出る血中濃度は、ドイツではPFOS20ng/mLPFOA10ng/mLとされています。

 

 多摩地域では、国分寺市を中心にPFOAなどの血中濃度が高いことが分かってきました。

 全国的には、各務原市、自衛隊浜松基地、三沢基地、岩国基地、東広島市の米軍弾薬庫、静岡市清水区、四日市市のキオクシア工場、吉備中央町、熊本市、綾部市、相模原市などで汚染が見つかっています。水を浄化するために使った活性炭の廃棄物から検出されています。

 

 日本では50ng/Lが環境基準になる可能性が高いです。ドイツなどのように血中濃度の基準が必要でしょう。

 

<感 想>

 最近の物価上昇の原因は、円安やウクライナ戦争だと言うことが言われます。しかし、一番の元凶は、アベノミクスによって日本の金利が低いままであることだと、山田氏は指摘しています。

 政府は、NISAなどで一般市民を投資に向かわせようとしています。しかし、預金は元本が保証されているのに対し、株は元本割れをする危険性が高いという違いがあります。このことを考えて「自己責任」で投資をすることが必要でしょう。

 中国とは社会体制の違いを認め、お互いを尊重して経済的に付き合うことが大事であるというのはもっともな話です。南西諸島に自衛隊基地を造っている現状では、もしアメリカが中国と戦争を始めた場合、真っ先に攻撃されるのはアメリカ軍基地を含めたこれらの施設でしょう。

 日本は未だに主権国家ではないです。日米地位協定によるアメリカ軍の特権を見れば、はっきりしています。つまり、この協定は、「米軍の様々な行政上の特権(国や地方自治体の立入りを拒否し、基地を管理・警護する権限、課税を免除される特権等)を定めています 」(日本弁護士連合会、20243月、日米地位協定の改定を求めて−日弁連からの提言(新版)−)。アメリカの51番目の州から抜け出す必要があります。

 そして、日本国内に関しては、選挙の投票率が7080%位までいかないとダメです。若い人が政治を語る風土をつくっていくことが大事だと感じます。

 日本の文化には俳句や季語などで中国、韓国、インドなどのDNAが流れています。歴史的に深い結びつきがあるのです。

 

 新しい環境汚染問題が有機フッ素化合物によって引き起こされています。石綿汚染と似た状況にあります。つまり、有機フッ素化合物は分解しにくく、体内に入ると長いこと留まり続けます。そして、健康被害を起こします。

 最新の研究成果をもとに早急に基準値を制定し、人びとの健康を守ることが大事だと感じました。