「特集 速報 能登半島地震」 月刊地理 2024年8月号2024/09/03 20:25

 月刊地理の20248月号は全て能登半島地震の特集です。

 

月刊地理2024年8月号

月刊地理 200248月号

 

 最初は、小元久仁夫氏(元日本大学:放射性炭素年代測定など))と清水克志氏(筑波大学准教授:歴史地理学)の被災体験です。

 

 小元氏は、和倉温泉の旅館で地震に遭遇しました。避難行動、避難先での様子、バスによる金沢市への移動などについて述べています。

 

 清水氏は、2023年の大晦日に能登半島のつけ根にある氷見市の実家に帰っていて地震に遭遇しました。地震発生時の様子、近所の建物の倒壊、お寺での避難生活の様子、復旧への足取りなどについて述べています。氷見では富山湾を挟んで虻ヶ島と海越しの立山連峰が、『「郷土の誇り」であり「心のよりどころ」であろう』と述べています。

 

 災害の実態として、鈴木康弘氏(名古屋大学教授:災害地理学)、後藤秀昭氏(広島大学教授:変動地形学)、大丸裕武氏(石川県立大学教授:災害地質学)、青木賢人(金沢大学准教授:自然地理学)、山縣耕太郞氏(上越教育大学:自然地理学)、青木雅史氏(群馬大学教授:自然地理学・地形学)の6氏がそれぞれの立場から述べています。

 

 鈴木氏は、災害を予測する上で地理学が果たす役目は重要だと述べます。

 能登半島北岸の海底活断層の存在は太田陽子氏らが50年前から示唆していました。でも、災害予測では活用できる知恵として人びとに地形の成り立ちを知ってもらうことが大事です。今回の地震は、海底活断層が動いたことが予測を困難にした一つの原因です。高校では「総合地理」が必須科目となり、災害予測に活用できれば持続可能な社会づくりにとって有効です。

 

 後藤氏は、地震発生直後に鈴木康弘さん(名古屋大学)、中田 髙さん(広島大学名誉教授)、渡辺満久さん(東洋大学)と情報交換を行い、熊原康博さん(広島大学)、岩佐佳哉さん(大分大学)に加わってもらって、海岸地形の変化と津波浸水域の地図を作成しました。116日までには、どちらの地図も最終報告を日本地理学会のウェブサイトで公開しました。

 さらに、2月と5月に地震による地盤隆起の現地調査を行いました。近年、マルチビームによる測深調査が可能となり、詳細な海底地形が明らかになってきています。今後、海底活断層について陸上と同じように調査することが望まれます。

 

 大丸氏は、能登半島地震による土砂災害の特徴と今後の被災地の防災に与える影響について述べています。

 今回の地震で発生した大規模な地すべり地の周辺には国土地理院のデータでは見えない地盤変動が起きています。尾根に見られる線状凹地の地形が地震後、微妙に変化しています。このような地形変化は航空レーザ測量により明らかになります。能登半島では、このような微妙な地形変化が人びとに生活に影響を与える可能性があります。さまざまな機関や民間企業のオープンデータ活動の進歩は驚異的です。

 

 青木氏は、後藤氏らの仕事を補う形で、志賀町南部以南の日本海側の津波到達状況、志賀町・七尾市以北の富山湾側の津波浸水状況を現地調査によって明らかにしました。

 津波の浸水があったことが報告されている地域でも津波漂着物が確認できない場合がありました。漂着物によって津波浸水範囲を確認するのは限界があります。今回の地震では、津波による死者は2名のみでした。避難行動が奏功したものと言えます。

 

 山縣氏は上越市に住んでいて今回の地震に遭いました。中越地震(2004年)、中越沖地震(2007年)、東北地方太平洋沖地震(2011年)、長野県北部地震(2011年)のどれよりも大きく揺れ、継続時間も長く感じました。

 13日に津波被災地の確認に出かけました。上越市の津波被害は衝撃的でした。そこで、新潟県西部の津波遡上高調査を行いました。地理院地図、ハンドレベルを使って遡上高を出しました。南は新潟-富山県境から北は柏崎市の北までの範囲を調査しました。遡上高は24mでした。防潮堤を越える津波はなく、大きな被害は出ませんでした。しかし、新潟県においても津波被害が出る可能性があり、適切な避難行動をとることが大事です。

 

 青木氏は、新潟市信濃川下流域、高岡市伏木地区、氷見市で液状化調査を行いました。

 信濃川下流域では、旧河道で液状化が発生しました。高岡市では庄川の昔の本川や千保川沿いの地域、庄川・小矢部川河口部で液状化による噴砂が認められました。

 これらの調査を通して得られた知見は、液状化リスクを評価するに当たっては砂丘の内陸側周縁部など地形の特徴と埋め立てたかどうかなどの土地履歴の把握が重要であることが分かりました。

 

 これらのほかに、公共交通の復旧事情、製造業への影響、水産業への影響、観光について、二次避難についてなどの記事があります。

 

 この雑誌は、アマゾンで購入できるほか、kindle版(電子書籍)もあります。