令和6年能登半島地震・1ケ月報告会2024/02/06 21:01

 2024131日、能登半島地震が発生してから、ほぼ1か月が過ぎました。この日、防災学術連携体では「1ケ月報告会」を開きました。 すでに1月19日に緊急報告会を行っていて、325日(月)には『3ヶ月報告会、シンポジウム「人口減少社会と防災減殺」』を予定しています。

 

 ここでは、1か月報告会の概要を紹介します。

 202425日現在、この報告会の資料は、『防災学術連携体のホームページ>近年の自然災害に関する情報>最新情報>防災学術連携体「令和6年能登半島地震・1ヶ月報告会」』で入手できます。また、YouTubeで視聴できます。

 

 1か月報告会のプログラムは次のとおりです。

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司会:米田雅子(防災学術連携体代表幹事)
           
田村和夫(防災学術連携体幹事・事務局長)

開会挨拶:大西 隆(元日本学術会議会長、東京大学名誉教授)

【セッション1:令和6年能登半島地震について】
日本地震学会「2024年能登半島地震と日本地震学会の取り組み」 山岡耕春(名古屋大学)
日本活断層学会「能登半島沖の海底活断層と変動地形」 後藤秀昭(広島大学)
日本地質学会「能登半島周辺海域の活断層」 岡村行信(産業技術総合研究所)
日本自然災害学会「令和6年能登半島地震による津波の発生と被害―今後の課題と教訓」 今村文彦(東北大学災害科学国際研究所)
日本地形学連合「山間地および沿岸部における地形変動と今後の見通し地形学の観点から」 松四雄騎(京都大学防災研究所)
日本第四紀学会「能登半島地震による海岸隆起と過去の隆起痕跡(海成段丘・生物遺骸)との関係」 宍倉正展(産業技術総合研究所)
質疑応答

【セッション2:地震に関連する情報と活用について】
日本計画行政学会・地理情報システム学会「令和6年能登半島地震発生後の情報通信技術の有効性と課題」 山本佳世子(電気通信大学)
日本地図学会「SNSの被災情報の地理空間情報としての活用」 古橋大地(青山学院大学)
日本地理学会 「津波浸水分布図の作成とその意義」 岩佐佳哉(大分大学)
質疑応答


【セッション3:被災状況と対策について】
土木学会「土木学会地震工学委員会の調査活動とインフラ被害」 小野祐輔(鳥取大学)
日本建築学会「令和6年能登半島地震被害(建物被害について)」 村田晶(金沢大学)
日本地すべり学会「令和6年能登半島地震を誘因として発生した地すべりの分布と特徴―空中写真等を用いた地形判読を基に― 佐藤剛(東京都市大学)
地盤工学会「令和6年能登半島地震に係る地盤関連被害速報」 新保泰輝(石川工業高等専門学校)
日本火災学会「令和6年能登半島地震で発生した地震火災の概要」 廣井悠(東京大学先端科学技術研究センター)
質疑応答


【セッション4:避難・救援活動について】
日本災害医学会「令和6年能登半島地震への災害医療対応」 近藤久禎(厚生労働省DMAT事務局長)
日本災害看護学会「令和6年能登半島地震における先遣隊活動」 酒井明子(福井大学)
質疑応答


 
閉会挨拶 和田章(防災学術連携体代表理事、東京工業大学)

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<大西 隆氏>

 能登半島地域は、60歳以上の高齢者が44%を占めます。避難生活中の生活の質(QOL)を確保することが重要です。半島の北岸が80kmにわたって隆起し、最大隆起量は4mに達しました。志賀原発では震度7、柏崎刈羽原発では震度6が記録されました。原子力発電所については慎重な検討が必要です。

 

<山岡耕春氏>

 地震学会では2月に4回の懇話会を予定し、能登半島地震の情報を提供することにしています。

 今回の地震前の20231130日に地震予知連絡会は、非定常モデルを用いて余震活動の解析を行い、地震活動は衰えていないと結論しました。


 今回の地震の余震活動は、余震の範囲が長く、11日には西端、19日には東端でマグニチュード6.1の余震が発生しました。

 国土交通省などがまとめた日本海東縁の海底活断層図のF42F43が動きました。国土地理院の地殻変動観測では、水平方向に最大2m移動しています。上下変動は最大1mでした。だいち2号のレーダー観測では2-4mの隆起が観測されました。

 2024120日時点での余震の累積頻度は、北海道南西沖地震と同じくらいの頻度となっています。

 断層の破壊時間は40秒で、半島の下で断層が破壊しました。津波の大きさは想定内でしたが、1月1日の1613分に富山で津波の第1波が観測されました。異常に早い到達時間で、海上保安庁の海底地形調査で海底地すべりと考えられる地形変化が観測されました。

 

 日本海東縁の海底活断層については、繰り返し間隔が不明で評価ができていません。

 

<後藤秀昭氏>

 航空レーザによるマルチビーム測深で海底活断層の調査を行っています。

 能登半島の北岸の海底活断層は、氷期には陸上の活断層でした。

 今回の地震では、半島北部の海岸が90㎞にわたり隆起し、海岸が100m200m陸化しました。地震による隆起によって海成段丘は20万年前と13万年前に形成され、繰り返し活動しています。海陸一帯の地形図と変動地形の判読が必要です。

 

<岡村行信氏>

 能登半島の地形は台地状の高まりで、台地には半島方向の凹地が形成されています。500万年前から逆断層の活動が始まり、350万年前から東西圧縮が顕著になりました。100万年前から活断層が活発化しています。

 産総研が行った日本海東縁の海底活断層調査では、北海道から能登半島までは逆断層で変位が大きく、敦賀湾までは逆断層と横ずれ断層で変位は中程度、それ以西は横ずれ断層で変位は小さいです。

 能登半島北岸の海底の調査は、2008年に漁船で反射法探査を行いました。北岸沖は南東傾斜の断層で、半島の先端沖は北西傾斜の断層です。富山トラフが構造境界となっています。

 能登半島北岸の海底活断層沿いに今回の地震の余震が起きています。2007年の能登半島地震は南西部で余震が多く、今回は中部から北東部で多くなっています。

 断層の評価は進行中で、北西岸沖では2万年で20m以上のズレなので、平均変位速度は1000年で1mm程度です。南西端は複数の断層があります。

 

<今村文彦氏>

 国土交通省が2014年に「日本海における大規模地震に関する調査検討会報告書」を発表しまた。

 

*報告書の概要は<Microsoft PowerPoint - 資料2概要説明資料0826.pptx (mlit.go.jp)>で見ることができます。

 

 能登半島周辺の海底は、北東端は富山トラフにつながる谷で水深が深くなっていて、その南に飯田海脚という浅い海が広がっています。

 日本で発表された過去の大津波警報の6事例中、今回の例を含めて3事例が日本海側です。日本海側の津波は、第一波が早い、最大波が後から来る、継続時間が長いという特徴があります。上越市では6mの津波が来ました。富山では引き波から始まっています。2007年の能登半島地震の時に海底地すべりが発生しましたが、今回も海底地すべりが発生しました。

 珠洲市・三崎町は2000年前に創建されたと言われる須須神社があるところですが、迅速な避難をしたために住民全員が無事でした。最大遡上高は4-5mでした。上越では7m以上と言われています。

 今回の地震について土木学会内の連携と情報の一元化のために対策本部を設置しました。

 

<松四雄騎氏>

 能登半島は北側が隆起していて北岸の段丘は狭いです。能登半島北部で3,000箇所以上の崩壊があり、その面積は4.2×105平方メートル(?)です。崩壊は大起伏山塊の高標高域で多発しています。

 震源断層からの距離と崩壊面積・起伏指数の関係を出しました。岩盤の節理、層理、風化程度、粘土鉱物の生成の有無などが作用しています。

 崩壊地の土砂は降雨や融雪により二次移動する可能性があります。野町川の支流域で山麓土砂の移動が確認されています。

 

<宍倉正展氏>

 今回の地震のあとの現地調査の結果、鹿磯漁港で3.8-3.9mの地盤の上昇がありました。これは、だいち2号のデータと整合的です。余効変動は顕著ではありません。

 鹿磯漁港の北の海岸の波食棚の高さから半島北岸全体で6,000年間に3段の段丘が識別できました。一番高い段丘(L1)は標高6-7mで半島の西の方が高くなっています。L2段丘は標高5mほどで、L3段丘は2-4mです。

 2007年の能登半島地震では半島西端の門前町付近のみが上昇しました。猿山沖では9世紀、12-13世紀に隆起しています。輪島沖は1729年の地震で隆起しています。能登半島では地震の階層性が見られ、セグメント毎に数百年間隔で地震が起き、M7以上の地震は幾つかのセグメントが連動して6,000年に3回発生しています。

 

 セクション2およびセクション4でも興味深い講演がありました。以下、列挙します。

・志賀原発では情報がくるくる変わりました。

・地震による道路の寸断と光ケーブルの切断によって携帯電話が使えませんでした。衛星通信サービスを使えるようにする必要があります。

・人工地震であるだとか窃盗団が入ったとか流言がありました。情報に対するリテラシーが必要です。

・デジタル地図の利用が進み、オープン・ストリートマップもそれなりに使えます。

・述べ2,000人のボランティアによって建物、道路の被災状況のマッピングを行いました。

・地理学会では13日に公開された空中写真を用いて14日には被災カ所、津波遡上高や到達距離を公開しました。16日には半島北岸の標高、隆起量、海底地形、波源域のデータを公開し、19日に第3報、115日に第4報を出しました。舳倉島の津波浸水被害も明らかにしました。

・津波浸水範囲の予測には、地盤隆起を想定した図も必要です。

・建築学会では12日から調査を開始しました。

・建物倒壊を起こしやすいキラーパルスと言われる周期1-2秒の成分が卓越していました。

・旧耐震基準の建物が深刻な被害を受けています。

・地震による崩壊などは2,000カ所以上です。土砂ダムができたり集落が孤立したりしました。

・国道249号のトンネル坑口が被害を受けました。

・崩壊は急傾斜な斜面ほど崩れていますが、斜面傾斜30-35度に集中しています。

 

<感 想>

 今回の地震は、半島先端部付近で大きな被害が発生した場合、緊急の対応をどうするかを考える必要を教えていると思います。また、地震による海岸の隆起で港が使えなくなるということも考えなければならない課題です。

 南海トラフ地震が発生した場合の紀伊半島、相模トラフでの地震時の房総半島、千島海溝地震の時の襟裳岬周辺などが思いつきます。

 

 防災学術連携体による総合的な検討は、非常に貴重な知見をもたらしてくれます。今回の報告会は1,800人の参加があったとのことです。この活動が大きく広がってほしいと思います。