千木良雅弘氏の講演 ― 2023/02/15 16:58
2023年2月10日(金)午後2時30分から16時30分まで、北海道地すべり学会・研究調査委員会が開かれました。寒地土木研究所でのオフラインとズームによるオンラインの二つの方法で行われました。私はオンラインで視聴しました。
ドーコンの山田 司氏が国道276号千歳市美笛峠付近での岩盤崩壊について講演し、深田地質研究所の千木良雅弘氏がテフラ層の地震時地すべりについて講演しました。
山田氏が講演した岩盤崩壊は、2023年3月15日に発生しました。支笏火砕流が厚く堆積している箇所での岩盤崩壊です。ここは溶結度が高い部分の下に溶結度の低い部分がありオーバーハングが形成されている崖面です。崩壊した岩塊や土砂が、国道まで到達しました。
この状況は札幌開発建設部のウェブサイトで見ることができます。
千木良雅弘氏(深田地質研究所):テフラ層地震時地すべりの発生場
地震時にテフラ層がすべりを起こします。その特徴は次の点にあります。
・1回の地震で広い範囲わたり膨大な数のすべりが発生します。
・流動性が高く移動土砂は高速移動します。
・不安定なテフラ層が斜面から無くなるまで発生の危険性があります。
2018年の胆振東部地震では樽前dテフラ(Ta-d:約9千年前)の下底付近ですべっています。すべり面付近には風化して粘土質となった軽石層があります。このような軽石層は、こね繰り返すと流動しやすくなります。軽石の構造は残ったままですが、粘土化しています。また、Ta-dの下底付近には不規則な波状の構造ができます。この構造は液状化ではなく、天水による風化と考えられます。
2016年の熊本地震では、一か所だけですが液状化による噴砂を示す縦の脈を見ることができました。
テフラ層が多くの場所で地震によって崩壊した事例として、1923年の関東地震、1949年の今市地震、1968年の十勝沖地震の例を示します。テフラ層のすべりでは不安定な地層がなくなるまで、リスクはなくなりません。
1923年の関東地震では、秦野市の南で地すべりが発生し川がせき止められて湖ができました。震生湖と呼ばれていますが、周辺には震生湖地すべりに似た地形がたくさん分布していて、将来すべる可能性があります。
このようなテフラ層のすべりに備えるためには、どこが、いつ、どのような地震で、どのようにすべるのかを明らかにする必要があります。現段階で地震予知はできませんので、いつすべるかは分かりません。
降下火災物が地震時に崩壊した事例を比較してみます。
1923年の関東地震、1949年の今市地震、1968年の十勝沖地震、1978年の伊豆大島近海地震、1984年の長野西部地震、2011年の東北日本地震、2016年の熊本地震、2018年の胆振東部地震です。
*この時示された表は、千木良雅弘、2018,災害地質学ノートの128ページの表に加筆したものです。
共通するのは次の2点です。
・すべり面は軽石とその直下の層にできている場合が多い。ハロイサイトが形成されている層である。
・すべり面が形成されているテフラ層の年代は、9千年前から10万年前(あるいは12万年前)である。
ハロイサイトの形成にはある程度の時間がかかること、あまり古くなると地形に沿って一面に覆っているテフラ層の層構造が失われることが年代を決める要因となっている。
そのほかの崩壊の要因としては、下部切断があります。斜面に並行にテフラが堆積している場合、斜面の下部が沢によって浸食されると斜面全体のテフラ層を受け止める力が弱くなりすべりやすくなります。
地震の前に降雨(先行降雨)があると崩壊しやすいという結果にはなっていません。
地震によるテフラ層すべりに備えるには、9千年前~12万年前の軽石層の分布を全国規模で拾い出す必要があります。東日本でいえば、樽前火山噴出物(Ta-d:約9千年前)、十和田カルデラ噴出物(十和田八戸テフラ:To-HP)、赤城火山噴出物(赤城鹿沼テフラ:Ag-KP) 、箱根火山噴出物(東京軽石:HK-Tp)などがあります。
「新編火山灰アトラス」(町田・新井、2003)より詳細なテフラの分布と厚さの調査を行って絞り込むことが必要です。
なお、この講演の主要な点を知りたい場合は、
「千木良雅弘・田近 淳・石丸 聡、2019、2018年胆振東部地震による降下火砕物の崩壊:特に火砕物の風化状況について。京都大学防災研究所年報 第62号 B、348-356」
を見るのが良いと思います。