本の紹介:「中国」の形成 ― 2020/08/04 17:10

岡本隆司,「中国」の形成 現代への展望 シリーズ中国の歴史⑤.岩波新書,2020年7月.
中国が明朝から清朝へ交代した西暦1600年代前半以降の歴史です.
明は,もともと中国東北部を本拠としていたマンジュ(ジュシェン<女真>の一集団)が山海関(万里の長城が海に没するところ)を破って北京に進出し樹立した王朝です.以来,400年以上,チベット,新疆,外蒙古,台湾を含む中国を支配してきました.
清朝は,明代に出来上がった漢人社会の構成をそのまま継ぎ受け,行政が民間の社会・経済にあまり関わらない支配を行いました.つまり,「俗に因りて治む」(因俗而治:いんぞくじち)で,その土地の習俗・慣例に即して統治をしました.
このことが,1912年の辛亥革命の伏線になったようです.辛亥革命で清朝は滅亡し,中華民国が成立しました.外国と直結していた中国の各省が「独立」し軍閥混戦になったのです.
現在の中国は,香港や新疆ウイグル自治区での人権侵害,東シナ海や南シナ海での領土拡張の試みなど,「人民共和国」とは思えない大国主義的行動を取っています.
1949年の中国革命以来の指導者は,ほとんど漢人です.明朝がそれぞれの土地の習俗・慣例を尊重して崩壊したことを反面教師にして,強権的な政治を行っているように見えます.
しかし,中国自体は,秦・漢,唐,明は中原(黄河の中下流域の平原)を中心とした王朝でしたが,元(90年間)はモンゴル,清(200年間)は女真の王朝といったように,様々な支配者が統治してきました.
かつて,中国共産党は次のように述べていました.
「われわれ中国人が特別心にとめる必要があるのは,わが国が漢,唐,明,清の四代にやはり大帝国であったことである.わが国は,19世紀の半ば以後の100年のあいだ侵略された半植民地となったし,現在も経済,文化のおくれた国であるけれども,しかし条件が変わったのち,大国主義の傾向は,もしも努力してふせがないなら,かならず重大な危険となるだろう」
(「再びプロレタリアート独裁の歴史的経験について」人民日報編集部,1956年)
今まさに,この指摘が現実のものとなっています.
中国という大国について,いろいろと考えさせられる内容の本です.