2014年土木の日記念行事2014/11/21 18:13

 2014年土木の日記念行事が11月18日(火)午後1時から4時まで,札幌ガーデンパレスで行われました。

 今年の選奨土木遺産は,新釧路川と松前港福山波止場です。

 釧路川では1920(大正9)年に洪水がありました。これを契機に1921(大正10)年〜1931(昭和6)年に11.2kmの新釧路川が開削されました。工事では,掘削機にエクスカベーターが使用され,コンクリート護岸が施工されました。これらは当時の最新技術でした。

 松前港福山波止場は,福山城のほぼ正面につくられた波止場で東側が65間,西側が85間の長さです。福山城の石を使ったとされていて,18758明治8)年に完成しました。


講演する高松 泰氏

 記念講演 I は,北海道大学特任教授の高松 泰氏「北海道総合開発の新たな典型に向けて」でした。
 今後急激な人口減少を迎える中で,北海道をどのようにしていくのかという話です。


講演する山田 正氏

 記念講演 II は,中央大学教授の山田 正氏「不確実性の中での治水計画と避難行動」です。
 物事には幅があって,これと決められないと言う性質があります。例えば,サイコロを振って1が出る確率6分の1ですが,最初は20%くらいの誤差が出ます。1万回振って,やっと5%程度の誤差の幅に収まります。これは,誤差と言うよりも現象の持っている固有の幅です。
 現在,天気予報にはレーダー観測による雨量が使われていますが,この観測雨量は10mmに対して上下3mm程度の幅を持っています。このような確率評価を用いてリスク評価を行うとこれまでと違ったものとなります。
 その他に,水の安全保障の問題,日本近海には海底湧水が大量にある話,東京の外堀の水質浄化のために玉川上水を使って水を取り入れる話,日本橋川をきれいにする地道な活動の話などがありました。

 なかなか迫力のある話でした。


人口減少時代の北海道のインフラを考える2014/11/22 09:03

人口減少時代の北海道のインフラを考える
−地域戦略と技術者確保の課題−


小野慎吾氏
挨拶する小野慎吾氏(建設コンサルタンツ協会北海道支部 業務委員長)

 私の講演会シリーズの最後は,建設コンサルタンツ協会北海道支部の講演会です。
 2014年11月19日(水)午後2時から5時まで,ホテルニューオオタニイン札幌で開かれました。


植村哲士氏
講演する植村哲士氏

 植村哲士氏(野村総合研究所)
 「伊勢神宮の式年遷宮からの示唆〜人口減少時代の社会資本の維持管理・更新のための技術継承と技術者確保に向けて〜」

 日本は2009年から,はっきりとした人口減少時代に入りました。その中で,北海道は全国の人口減少速度を上回って人口が減少しています。2010年に約550万人であったものが,2040年には約420万人になると予想されています。76%の人口になると言うことです。
 これを地域別に見ると,札幌,千歳,帯広などの一部の都市を除いて30%以上の人口減少が起きます。小樽市を見てみると,中心部の人口が多い地域での人口減少が激しいという予測になっています。
 建設業に従事する人の数は,2050年には2010年の5分の1になると予想されています。また,2025年には建設業従事者の8割が40才以上になると予想されています。
 
 伊勢神宮の式年遷宮は技術継承と同時に,木材などの資材の確保や木造建物の寿命の短さの効果についても示唆的です。例えば,社殿の屋根のワラは,時が経つとだんだん薄くなってきます。20年でふき替えるというのがちょうど良い期間です。
 遷宮で取り払われた木材は,格下の神社や鳥居に使われ「リユース」されます。最後は,御札として使われます。神宮には森があり,200年で伐採できるように運営されています。いわば,地産地消が行われているのです。
 遷宮では新しい神社の建築は標準化されているので,技術を絞り込むことができます。同時に,神宮では30人を常時雇っているので暗黙知も含めて継承することができます。

 人口減少時代の技術はどうするのか。利便性は維持しながら構造物などを減らしていく工夫が必要です。例えば,最初から将来減らすことを考慮して設計するという方法が考えられます。下水管などは大きなものを1本通すのではなく,小さなものを何本か造っておいて必要がなくなったら,そのうちの幾つかを撤去すると言うことが考えられます。
 自助による社会資本の維持管理も有効な方法で,いくつかの地域で行われています。


金谷年展氏
講演する金谷年展氏


 金谷年展(かなや・としのぶ)氏(東京工業大学 特任教授)
「国土強靱化(ナショナル レジリエンス)と地域戦略」

 国土強靱化は,基本法が2013年12月に成立し,政策大綱で行程も示されました。これまで,基本法は数多くありましたが,この国土強靱化基本法が最も上位の法律と位置づけられています。さらに,2014年6月に国土強靱化基本計画が閣議決定されました。
 ここで言うレジリエンスというのは,抵抗力に回復力をプラスしたもので,非常時だけでなく平時の体質を強くすることを含んでいます。すでに,4.6兆円の予算が組まれていて,そのうちの3.7兆円が公共事業です。例えば,住宅などを耐震化することで被災規模を90%減らせるという試算があります。このような事業を進めることが強靱化です。このことにより,住宅に資産価値が高まります。
 エネルギーについては,メタンハイドレートの利用,コジェネレーション発電あるいはトリジェネレーション発電など新たな分野の開拓が期待できます。
 水については,地下水利用が新たな市場になり得ます。水を使うだけでなくエネルギーを取り出すことで非常時にレジリエーション・ステーションとなります。

 レジリエンスジャパン推進協議会と言う組織が活動をはじめています。会長は,日本電信電話株式会社(NTT)会長の三浦 惺(みうら・さとし)氏,副会長が京大の藤井 聡氏です。

 感想です。
 今回,金谷氏の話を聞いて,国土強靱化のイメージが大きく変わりました。金谷氏の話では,国土強靱化とは,技術革新を産・学・官・民・(金)で進めることのようです。金というのは金融機関です。財政健全化が至上命題となっている状況の下で,新たな市場を作り出すのが「国土強靱化」と言うことのようです。
 植村氏の話は,それなりに納得できるものでした。技術の伝承は結局,人であるというのは,納得できる話です。人から人へ繋がることで,暗黙知も継承されます。システム化し,省けるところは省くのも重要ですが,問題にどう対処するのかを決めることができる考え方と技術を伝えることが重要と思います。