本の紹介:巨大地震の科学と防災2014/04/27 14:18


金森博雄,構成:瀬川茂子・林 能成,巨大地震の科学と防災。2013年12月。
 表紙下の文章の「地震職人」という文言に注目。

 カリフォルニア工科大学教授の金森博雄氏が,自身の研究を振り返りながら地震の科学について分かりやすく説明した本である。AERA編集部の瀬川茂子氏と関西大学の林 能成(はやし・よしなり)氏が,インタビューなどで聞き取った話をまとめたものであるので非常に分かりやすい。

 これまでの地震予知研究についての批判書は,例えば,R.ゲラ−東大教授の「日本人は知らない「地震予知」の正体」(2011,双葉社)など幾つか出版されている。しかし,これらの本では,ではどうすれば良いのかが,ほとんど述べられていない。

 この本が非常に優れていると感じるのは,地震発生過程の研究を分かりやすく述べていると同時に,何が分からないのかを具体的に述べている点である。
 例えば,アスペリティという言葉は,東日本大震災以後かなり知られるようになっている。しかし,アスペリティが分かれば地震の発生機構が分かるかと言うと,ことはそう簡単でないというのが著者の考えである。アスペリティモデルが地震の予測に成功した事例を紹介しながらも,大きな地震では相互作用が複雑で,単純に予測することはかなり難しいとしている。

 Wフェーズ(ウィスパリング・フェーズ:Whispering Phase)の話も面白い。これは,P波とS波の間に観測される周期が200秒〜1,000秒くらいの地球内部を伝わってくる実体波である。これを上手に解析すると地震断層が動くメカニズムやずれの方向,大きさなどが正確に分かる。このWフェーズ発見のいきさつが興味深い。
 Wフェーズを使えば東日本大地震の時,地震発生後7分でマグニチュード9.1と計算できたという。気象庁が東日本大地震のマグニチュードを9.0としたのは,発生から2日後であった。津波警報の出し方も違っていたと考えられる。

 なお,金森氏(1936年生まれ)のお父さんは,戦前,1934年から1936年まで法制局長官を務め,戦後吉田茂内閣で憲法担当国務大臣を務め,その後,国会図書館の初代館長となった金森徳次郎氏(1886年3月7日−1959年6月16日)である。


火山によるいろいろな種類の災害2014/04/27 21:33

 火山による災害は,噴火に伴う噴出物による被害のほかに,山体崩壊による岩屑なだれ,山麓に溜まった火砕物による土石流,火砕流が海などに突っ込んで生じる津波など,様々な形の火山災害がある。富士山宝永噴火では,噴火後少なくとも数十年は堆積した火砕物によって酒勾川で土砂流出が頻発したことは有名である。

 雑誌「地理」2014年5月号は,「特集:火山災害は噴火だけじゃない◆豪雨による土石流災害など様々な火山災害の特徴と事例。有珠山、富士山、伊豆大島、桜島ほか」を組んでいる。
 北海道立総合研究機構地質研究所の石丸 聡主査が「北海道の火山における土砂災害とその対策:十勝岳・恵山・駒ケ岳・有珠山・雌阿寒岳」を執筆している。

 なお,この特集の以下の論文は,ウェブサイトで公開されている。

■小山・鈴木論文「伊豆大島の噴火史からみた2013年10月の火山泥流災」
 <http://sakuya.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/etc/onlinepaper/KoyamaSuzuki_chiri2014.pdf

■早川論文「火山災害の種類とリスク」
 *この中で早川氏は,日本列島で1万年に1回程度の頻度で発生しているカルデラ破局噴火に触れている。
 <http://kipuka.blog70.fc2.com/blog-entry-653.html

 富士山宝永噴火の災害の実態については,永原慶二「富士山宝永大爆発」(2002,集英社新書)が非常に面白い。