「北海道の自然」特集╱福島第一原発事故2014/04/09 15:33

 北海道自然保護協会の「北海道の自然」52号は,福島原発事故の自然への影響を特集している。




 大久保達弘:福島原発事故による森林生態系への放射線影響−里山林の恵みに関連して−
 山田文雄:福島第一原発事故による放射能汚染の小型哺乳類への影響と野生動物問題

 秋本 信:福島原発事故に伴う放射性降下物によるワタムシ(アブラムシ科昆虫)の形態異常と集団の回復

 山本 裕:放射性物質の鳥類への影響−鳥類への蓄積と望まれる継続的なモニタリング−

 小埜恒夫:東電福島第一原発事故の海洋生態系への影響

 大久保論文は,栃木県東部の中山間地域で里山林と農地を一体的に利活用することよって農業の6次産業化を進めていた活動が,福島第一原発事故によってどのような影響を受けたかの報告である。
 落葉樹林内の落ち葉を集めて水田に投入したり腐葉土として利用していたのができなくなった。そこで,異なる空間線量の地域で放射性Csがどのように蓄積されているかを調査した。空間線量率が 0.1μSv/時以下の地域でも表層の堆積有機物層(A0層)で900Bq/kg 以上で,空間線量率0.7μSv/時の地域では最大約49,000Bq/kg であった。腐葉土の暫定許容値は400Bq/kgである。
 この状況は,線量の高い福島の5年とか10年後の姿ではないかという指摘があるという。

 秋本論文では,2012年に福島第一原発から32kmの地点で採取したワタムシで13.2%の形態異常があったが,2013年には健全個体の割合が有意に高くなったと報告されている。ワタムシは,1年間で約10世代が経過するという。2012年の採取時の1m高空間線量は4.0μSv/時,2013年には同じく2.4μSv/時であった。35mSv/年〜21mSv/年 の空間線量である。
 尻が二つになったり,足の付け根にこぶができたりと言った形態異常の写真も掲載されている。

 山本論文は,水鳥コロニーのモニタリング,ウグイスの放射能汚染,シジュウカラ,ヤマガラの巣の放射能汚染,ツバメの部分白化などについて述べている。
 福島県や宮城県のツバメには約1割にチェルノブイリと同じような現象が起きていて,今後の経年変化を調べる必要があると言う。
 福島県浪江町のウグイス4羽のうちの1羽から,おできが見つかった。羽毛の線量は約53万Bq/kg であった。
 鳥類への放射能の影響については,今後その経緯を見守る必要があるとしている。森林に降下した放射性物質は森林土壌の表層に沈着してあまり移動しないと考えられている。そのため,森に住む鳥類への影響は長期にわたる可能性がある。野生生物の継続的なモニタリングが必要である。

 小埜論文では,福島第一原子力発電所の港内の魚は,放射線の影響を考えなければならないレベルの放射線被曝を受けているが,港外の福島県海域では同様のレベルを超えていないことが明らかになったとしている。
 福島第一原発港内の放射性物質の濃度は3月末から4月初めにピークとなり,ヨウ素137が約20万Bq/L,セシウム134と137がそれぞれ約7万Bq/Lであった。その後は数Bq/Lから10Bq/L程度となっている。
 港外の放射性物質のピーク濃度は,3月末頃に第一原発南放水口で数万Bq/Lになっている。その後は港内と同じ程度の濃度で推移している。
 原発から20km以上沖合では,2011年4月初めにセシウム137が最高100Bq/Lほどの濃度となり,2012年11月以降は0.1Bq/L以下となっている。
 福島県海域では,底魚類が2011年4月初めに10,000Bq/kg(湿潤重量)の最高値を記録し,2011年10月以降は3〜40Bq/kg(湿潤重量)となっている。

 今回の大地震と津波,そして原子力発電所の破壊による甚大な被害は,「敗戦」と呼ぶにふさわしい事態だと思う。環境中に放出された放射性物質の影響への対処はもちろん,使用済み核燃料の処理,廃炉処理など「敗戦処理」を行わなければならない問題は山積している。
 このような状況に加えて,南海トラフ地震が確実に迫っている状況で原子力発電所を再稼働させるというのは,「1億玉砕」に向かっているようなものだと思う。


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