IPCC第5次報告書2014/02/16 20:54

 IPCCの第5次評価報告書の暫定訳が気象庁のウェブサイトに掲載されている。
( http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar5/ )

 本文は,IPPCのウェブサイトからダウンロードできる。400MB弱と大きなファイルなのでダウンロードには時間がかかる。
( http://www.ipcc.ch )


 この報告書は,第1作業部会報告書の政策決定者向け要約(暫定版)である。気候変動の自然科学的根拠を述べたものである。今後,2014年3月末に第2作業部会報告書(気候変動の影響および適応策),同年4月中旬に第3作業部会報告書(気候変動の緩和策)が公表され,同年10月末には統合報告書が公表される予定になっている。

 この報告書では,略語が多く使われている。以下では,それについて解説する。

 今回のIPCCの報告書は。「AR5」と略称されるが,これは第5次アセスメント・レポート(5th Assessment Report)の略である。

 報告書の中に出てくる「SPM」というのは,「政策決定者向け要約(Summary for Policy Makers)」のことである。

 「SREX」は,"Special Report Managing the Risks of Extreme Events and Disasters to Advance Climate Change Adaptation" の略で,「気候変動への適応推進に向けた極端現象及び災害のリス ク管理に関する特別報告書」のことである。

 「RCP」は,Representative Concentration Pathways の略で「代表的濃度経路」のことである。RCPシナリオは4つある。末尾に付いている数値は,21世紀末の人の活動に起因する放射強制力を表している。

 RCP8.5:2100年以降も放射強制力の上昇が続く「高位参照シナリオ」。21世紀末の平均気温の上昇は3.7℃と予測。
 RCP6.0:2100年以降に安定化する「高位安定化シナリオ)。気温上昇は2.2℃。
 RCP4.5:2100年以降安定化する「中位安定化シナリオ」。気温上昇は1.8℃。
 RCP2.6:2100年にピークを迎え,その後,減少する「低位安定化シナリオ」。気温上昇は1.0℃。

 放射強制力というのは,「対流圏界面における放射強度の変化」のことで,放射強制力が「正」の場合には地表は加熱され、放射強制力が「負」の場合には地表は冷却される。ICCP報告書では,放射強制力の値は1750年を基準とした変化として表し,単位はワット毎平方メートル(W/m^2)である。

 IPCCの報告書については様々な議論があり,クライメート・ゲート事件なるものが報道され,信憑性に疑問符がつけられたこともある。しかし,この事件に関しては,様々な調査が行われ,IPCCの報告書に恣意的な結論が盛り込まれていることはないということが明らかになった。
 結果的に,この事件はIPCCの活動をより客観的で正確なものとすることに役立ったと考える。

 最近の気象状況を見ていると異常気象が多発していることは事実で,これまであまり公の場で発言しなかった気象研究者などが,気象現象の振幅の大きさを事実で示している。おそらく,温暖化は直線的に進むのではなく,気象現象の振幅が大きくなりながら地球環境が変化していくのだろうと思う。

 約2万年前の直近の最寒冷期から,ほぼ現在の気候になる約1万年前まで1万年の時間がかかっている。この間には,約1.2万年前のヤンガー・ドリアス期と呼ばれる急激な気温の低下があった。この時には,気温が約3℃も急激に低下し,その後,約50年間で6℃も急上昇したと考えられている。

 もう一つ,忘れてならないのが,全世界的な二酸化炭素濃度の上昇である。1960年から2010年の50年間だけを見ても,二酸化炭素濃度は約310ppmから約390ppmへと25%ほど増加している。この急激な変化が何をもたらすのかは不気味である。

 科学的なデータの積み重ねと過去の気候の自然変動とその原因の解明が重要である。

 地質調査に携わってきたものとしては,豪雨による斜面災害が問題である。
 記憶に新しいところでは,2013年10月16日に発生した伊豆大島の土砂災害がある。原因は,局地的な豪雨で,大島測候所の記録では24時間降水量が824mmであった。平均でも時間当たり34mmである。時間30mmという降水量は,車を安全に運転するのが難しい状態である。

 とりあえず対応するとすれば,道路防災点検,急傾斜点検,土石流危険渓流点検などの精度を上げて,「想定外」を可能な限り小さくすることであろう。

 また,過去の災害から教訓を引き出し,危険な状況になったときにその知識を生かせるようにしておくことも重要である。

 1968年8月18日に,岐阜県の国道41号で発生した飛騨川バス転落事故では,観光バス15台のうち2台が土石流に巻き込まれ104名が亡くなった。
 事故発生に到る経過やその後の対応などは,ウィキペディアに詳しく掲載されているので,そちらを見て欲しい。

 事故が発生した場所は,北緯35度33分38秒,東経137度11分3秒で,道路の標高は約165mである。土石流が発生したのは,飛騨川東岸の沢である。対岸には高山線が通っていて,上流にある取水ダムに水を引く導水トンネルの入口がある。地理院地図では,沢の上流,標高500mの所に崩壊地形が描かれている。この崩壊源から道路までの水平距離は約580mであるので,沢の平均傾斜は,約30度である。
 この沢から350mほど下流に「天心白菊の塔」がある。

 バスは全部で15台で,午後10過ぎに犬山を出発し乗鞍岳に向かっていたが,雨がひどく引き返すことにした。引き返す途中で消防団員に止められたが,先行する1号車から7号車までの6台(4号車は欠番)は,さらに先まで行くことにして事故に遭ってしまった。土石流に巻き込まれたのは,5号車と6号車の2台であった。後続の8号車から16号車の9台は,消防団員に従って安全な場所に引き返した。

 この事故は,道路防災点検のきっかけとなった。

 ここでの教訓は,第一に,地元の人の忠告には従うと言うことである。第二に,沢の出口には車を止めないことである。もちろん,崖崩れもあるので,どこに車を止めて避難するかは難しいが,豪雨の時に沢の出口付近に車を止めるのは自殺行為であることを肝に銘じて欲しい。

 今後も,気象の極端化が進む可能性があり,災害に対する体験を学び身を守る知識を身につけることが,ますます大事になってくる。


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