技術士の過去・未来 ― 2007/04/12 21:07
応用理学部門の技術士の役割
今年は技術士法が出来て50年になります.これを機会に技術士制度を考えようという機運があります.例えば,日本技術士会では,50周年行事を計画しています.
技術士の位置付けは,技術分野の最も権威ある資格と言うことになっていますが,実際の社会的認知度は部門によって,分野によって大きく違っているのが現状でしょう.
以下は,地質調査業に携わってきた者の意見です.
技術士の過去
私は1974年に地質調査業のコンサルタントに入社しました.この時,300人ほどの社員数のコンサルタントで技術士を取得している技術者は3人でした.当時,技術士の応用理学部門を主任技術者の要件としていたのは鉄道建設公団のみで,当時の建設省関係,農林省関係では,そのようなシバリはありませんでした.
ですから,当時は技術士資格を取る動機は「自分の技術力を客観的に評価してもらう」という考えが多かったと思います. 1970年代以降,しばらくは建設ラッシュでしたので大型公共工事が多く,技術力を磨くのに適当な業務が数多くありました.新幹線,高速道路,ダムなどが典型です.業務をこなす中で技術力を向上させ資格を取るというパターンが出来ていました.
技術士の現在
現在,技術士資格は管理技術者の要件として国交省,農水省など多くの役所で採用されています.また,提案型発注方式(プロポーザル方式)では技術士資格が必須です.30年前と比べると雲泥の差があると言えます.
この10年くらいは公共事業が減少し続けており,大型工事も減少しているために技術的な向上を目指すのには厳しい状況となっています.社会的に技術士に対する要請が増加しているにもかかわらず,面白い仕事が減ったこと,経費節減の影響で体力的にきつく技術的検討の時間が取りにくいこと,などから技術士取得に対する意欲が減退しているという状況です.
一方で,RCCMのような資格が出来たために,そこで満足して技術士の取得に向かわない層が増えています.
技術士の未来
まず,未来を語るには若い技術士が多くなることが必要と思います.この間,JABEEにより技術士補の取得が可能となり,最短,大学卒業5年目で技術士を取得することが出来ます.この制度を十分に活用して若い有能な技術士を増やすことが重要です.
ただし,その場合,これら若い技術士を技術士会に組織するには現在の年会費2万円は大きなネックになっています.現在,私の勤めている会社には50人ほどの技術士がいますが技術士会に入っているのは5人程度,約1割です.技術士会に入会するメリットがないことと会費が高いことが大きな要因です.ただ,各地域の技術士会支部では,かなり活発に若い人たちが活動しているのは大きな希望です.
地質調査業を含む建設関連分野では,技術士の必要性は高まっています.構造物の品質を確保する上からも,一定の技術力を有する技術者が社会的に評価される制度ができてきたのですから,これをさらに発展させる必要があります.
将来は,社会的に認められたければ技術士を取得することが当然となり,出来れば弁護士や建築士などのように,技術士でなければ中心となって仕事が出来ないという制度となることが望ましいと考えます.
技術士は60歳〜80歳をどう構築するか
年を取っても自分の分は稼ぎたいし,社会に役立ちたいと考えている人は多いはずです.特に,技術士として活躍してきた人たちは,自分の技術に誇りを持っているでしょうし,社会的にも活用しないのは損失だと思います.
その意味で,会社を定年退職した人たちの活躍の場が,社会的に広く設けられる必要があると感じます.
さらに,ボランティア的に技術的経験を生かす工夫があってよいと思います.
資源地質学会という鉱物資源探査などをテーマとする学会があります.そこでは,リタイア組のネットワークが造られています.大学や会社をリタイアして第二の人生に踏み出した研究者,技術者のネットワークで,趣味の話から実際的な話までが話題となっています.このようなネットワークの中で,それぞれが自分の生き方をどうするか考えていくというのも一つの方向だと思います.
土木学会では「土木学会情報発信サイト」というウェブサイト(http://jsce.jp/)を持っています.ここは,一般の人,土木に従事している人が質問をし,それに答えることの出来る人が答えるというものです.このような社会に開かれた制度を組織として持つことは大事だと思います.ただ,このような掲示板方式のものは,質問者に親切な回答が少ないという欠点があります.「そんな回答なら載せない方がいいのでは?」と思うようなものもあり,実際に「このサイトには失望した」という発言が載ったりします.やはり,組織としてある程度責任を持つような体制が必要なのかもしれません.
技術士会は様々な分野の人が集まっているのですから,広く社会に対して適切な回答が出来る資質は組織として持っているわけです.とりわけ,第一線を引いた経験豊富な人たちが参加すれば的を射た簡潔な回答が可能で大きな力になると思います.
以上
P.S.この文は,技術士会応用理学部会のために書いたものに補足したものです.
今年は技術士法が出来て50年になります.これを機会に技術士制度を考えようという機運があります.例えば,日本技術士会では,50周年行事を計画しています.
技術士の位置付けは,技術分野の最も権威ある資格と言うことになっていますが,実際の社会的認知度は部門によって,分野によって大きく違っているのが現状でしょう.
以下は,地質調査業に携わってきた者の意見です.
技術士の過去
私は1974年に地質調査業のコンサルタントに入社しました.この時,300人ほどの社員数のコンサルタントで技術士を取得している技術者は3人でした.当時,技術士の応用理学部門を主任技術者の要件としていたのは鉄道建設公団のみで,当時の建設省関係,農林省関係では,そのようなシバリはありませんでした.
ですから,当時は技術士資格を取る動機は「自分の技術力を客観的に評価してもらう」という考えが多かったと思います. 1970年代以降,しばらくは建設ラッシュでしたので大型公共工事が多く,技術力を磨くのに適当な業務が数多くありました.新幹線,高速道路,ダムなどが典型です.業務をこなす中で技術力を向上させ資格を取るというパターンが出来ていました.
技術士の現在
現在,技術士資格は管理技術者の要件として国交省,農水省など多くの役所で採用されています.また,提案型発注方式(プロポーザル方式)では技術士資格が必須です.30年前と比べると雲泥の差があると言えます.
この10年くらいは公共事業が減少し続けており,大型工事も減少しているために技術的な向上を目指すのには厳しい状況となっています.社会的に技術士に対する要請が増加しているにもかかわらず,面白い仕事が減ったこと,経費節減の影響で体力的にきつく技術的検討の時間が取りにくいこと,などから技術士取得に対する意欲が減退しているという状況です.
一方で,RCCMのような資格が出来たために,そこで満足して技術士の取得に向かわない層が増えています.
技術士の未来
まず,未来を語るには若い技術士が多くなることが必要と思います.この間,JABEEにより技術士補の取得が可能となり,最短,大学卒業5年目で技術士を取得することが出来ます.この制度を十分に活用して若い有能な技術士を増やすことが重要です.
ただし,その場合,これら若い技術士を技術士会に組織するには現在の年会費2万円は大きなネックになっています.現在,私の勤めている会社には50人ほどの技術士がいますが技術士会に入っているのは5人程度,約1割です.技術士会に入会するメリットがないことと会費が高いことが大きな要因です.ただ,各地域の技術士会支部では,かなり活発に若い人たちが活動しているのは大きな希望です.
地質調査業を含む建設関連分野では,技術士の必要性は高まっています.構造物の品質を確保する上からも,一定の技術力を有する技術者が社会的に評価される制度ができてきたのですから,これをさらに発展させる必要があります.
将来は,社会的に認められたければ技術士を取得することが当然となり,出来れば弁護士や建築士などのように,技術士でなければ中心となって仕事が出来ないという制度となることが望ましいと考えます.
技術士は60歳〜80歳をどう構築するか
年を取っても自分の分は稼ぎたいし,社会に役立ちたいと考えている人は多いはずです.特に,技術士として活躍してきた人たちは,自分の技術に誇りを持っているでしょうし,社会的にも活用しないのは損失だと思います.
その意味で,会社を定年退職した人たちの活躍の場が,社会的に広く設けられる必要があると感じます.
さらに,ボランティア的に技術的経験を生かす工夫があってよいと思います.
資源地質学会という鉱物資源探査などをテーマとする学会があります.そこでは,リタイア組のネットワークが造られています.大学や会社をリタイアして第二の人生に踏み出した研究者,技術者のネットワークで,趣味の話から実際的な話までが話題となっています.このようなネットワークの中で,それぞれが自分の生き方をどうするか考えていくというのも一つの方向だと思います.
土木学会では「土木学会情報発信サイト」というウェブサイト(http://jsce.jp/)を持っています.ここは,一般の人,土木に従事している人が質問をし,それに答えることの出来る人が答えるというものです.このような社会に開かれた制度を組織として持つことは大事だと思います.ただ,このような掲示板方式のものは,質問者に親切な回答が少ないという欠点があります.「そんな回答なら載せない方がいいのでは?」と思うようなものもあり,実際に「このサイトには失望した」という発言が載ったりします.やはり,組織としてある程度責任を持つような体制が必要なのかもしれません.
技術士会は様々な分野の人が集まっているのですから,広く社会に対して適切な回答が出来る資質は組織として持っているわけです.とりわけ,第一線を引いた経験豊富な人たちが参加すれば的を射た簡潔な回答が可能で大きな力になると思います.
以上
P.S.この文は,技術士会応用理学部会のために書いたものに補足したものです.