講演会:『健康リスクをベースにした自然由来汚染のマネジメント』 ― 2011/10/12 12:14

標記講演会が,土壌環境評価学セミナー2011として北海道大学工学部オープンホール(B21教室)で,10月7日午後1時から開かれました.
北海道大学大学院 工学研究院の環境循環システム部門に土壌環境評価学分野(寄附分野)というのがあります.オハイオ州立大学地球科学科の茨木 希氏(いばらき もとむ:北大客員准教授),北大大学院工学研究院の米田哲朗氏(よねだ てつろう)が所属しています.今回の講演会は,この土壌環境評価学分野の主催,(社)北海道開発技術センターの共催で開かれました.
まず,茨木氏が「もしレベッカが地下水の「マネジメント」をしたら」と題して講演しました.
レベッカ(Rebecca)というのはアメリカによくある女性の名前で,もし女性が地下水汚染のマネジメントをしたらどうするかという意味です.「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海,2009)に引っかけています.
RBCA(レベッカ)と言うのは,アメリカで行われている「リスク評価に基づく修復措置」(Risk-Based Corrective Action)のことです.
この方法では,汚染源でリスクを評価するのではなく,人の健康に影響を与える地点(暴露地点)でリスク評価を行って修復措置を取ります.修復の目標は生涯超過ガンリスクを100万分の1以下にすることです.超過リスクであることに注意が必要です.
例えば,かっての商業地や工業地などの汚染された遊休地(ブラウンフィールド)を再利用する場合,駐車場にする場合は1日あたりの暴露時間は短く15分,利用期間も10年程度として利用者の超過健康リスクが100万分の1になるような修復措置を取ります.住宅地として利用する場合は,暴露時間は1日24時間,利用期間は30年として措置を取ります.
このような考え方で地下水汚染に対処することで,健康に対する影響を最低限に抑え,経済的に合理的なリスクマネジメントが出来ると言うことになります.
米田哲朗氏は「重金属類特に砒素の存在状態と溶出特性についてー熱水変質岩の研究事例をもとにー」と題して講演しました.
浅熱水性鉱床では,1)マグマから分離した蒸気ー熱水が周辺の岩石・地下水と反応して還元的で中性の熱水が生じる「低硫化タイプ」と 2)マグマから分離した蒸気ー熱水によって約400℃以下で起こる硫酸イオンの自己酸化還元反応や塩酸・硫酸の分離によって酸性の熱水が生じる「高硫化タイプ」とがあります.それぞれのタイプで晶出する鉱物は異なりますが,黄鉄鉱はどちらのタイプでも形成されます.
砒素は,水素イオン3つと結合した砒化水素(揮発性ガス),水酸化物イオン3つと結合した亜砒酸塩,水酸化物イオン3つと酸素1つと結合した砒酸塩の3つの形態で存在します.亜砒酸塩は還元的な条件で安定な水溶液となり,砒酸塩は酸化的水溶液中で安定です.
札幌西部で稼行していた高硫化タイプ+中間タイプの手稲鉱山と低硫化タイプの轟鉱山を比較すると,黄鉄鉱中の砒素含有量は手稲鉱山の方が高い傾向にあります.
黄鉄鉱に富む試料で砒素の溶出試験を行った結果では,高硫化タイプの手稲鉱山の試料では黄鉄鉱含有量と溶出量は相関が見られます.ただし,方解石を含んでいるとほとんど砒素の溶出は起きません.
低硫化タイプの轟鉱山の試料では砒素の溶出量は検出限界以下でした.
以上のように,砒素の産出状態,溶出形態など詳細な検討を行い,リスク評価に結びつける検討が必要です.
この二つの講演のほかに,自然由来重金属類の対策事例,リスクコミュニケーション,重金属含有岩の酸性化,不溶化材,吸着材についての講演がありました.
参考文献
島田充尭,2005,地下水からなぜヒ素が検出されるのかーグローバルな環境問題ー.深田研ライブラリー,No.87.
*ヒ素についての非常に優れた解説書です.深田研究所での講演を文書化したものなので,分かりやすい説明になっています.
西田道夫,2005,RBCA:リスク評価に基づいた修復措置―“環境リスクの低減”という考え方―.㈱リック『産業と環境』.
<http://www.getrec.or.jp/admin/tmp/1204780815.pdf>
*RBCAについては,インターネット上に様々な資料があります.
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