宍倉正展「次の巨大地震はどこか!」(MPミヤオビパブリッシング) ― 2011/09/08 18:54
北海道東部太平洋岸の巨大津波は1694年の駒ヶ岳噴出物の直下にあって,繰り返し間隔が約400年だから,確かにいつ起きてもおかしくないと思う.南海・東南海・東海地震は2050年頃までには起こる可能性はあるという.社会的影響は,南海・東南海・東海地震の方がずっと大きい.日本の社会はこの試練に耐えられるのだろうか.

西暦869年(貞観11年)に起きた巨大地震を古地震学の手法で研究してきた宍倉さんの書いた本です.図,写真が豊富で非常に分かりやすい内容となっています.第1部は古地震学で解明できることを述べています.第2部は質問に応える形で調査・研究の最前線について述べています.
まず,東日本大震災が,想定していた地震であると言うことが述べられています.この中では,何が分かっていて何が分からなかったのかを示しています.特に,地震の予測では「いつ起こるのか」が最も難しく,「どこで」は比較的容易に予測できるそうです.しかし,「どの程度の規模か」を予測することも難しいのが現状のようです.
貞観(じょうがん)地震規模の津波は,500年から1000年間隔で起こっていることは,はっきりしています.
房総半島と三浦半島の段丘の研究から,過去の地震の規模(地盤の隆起量),発生間隔(段丘の数と年代)が分かるという話は,著者が学生時代から手がけてきた問題だけに非常に分かりやすい内容となっています.
首都圏の地下での地震の起こり方の説明も分かりやすいものとなっています.ここでは,太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込んでいて,過去の地震がどの部分で起こったのかが分からない状況だそうです.したがって,首都圏直下型地震は予測が非常に難しいものとなっているのが現状だとのことです.
第2部は,かなり具体的な話が述べられていて非常に興味深いものとなっています.地震研究を手がけた経緯,スマトラ島沖地震やチリ地震の調査方法などが述べられています.
北大・東北大対抗戦 陸上競技 ― 2011/09/09 20:56
今年夏に千台で御駒割れる予定だった北大・東北大対抗戦が,地震のために仙台で出来なくなり,9月3日(土)に小樽市の手宮競技場で開かれました.
北大だって七大戦で優勝したこともあるし,何で東北大に勝てないのだろう.もっとも.女子はいつも勝っているみたいだけど.
手宮陸上競技場は小樽港の北西の台地にあります.札幌駅発6時12分の普通列車に乗って7時小樽駅に着きました.地図を見た感じでは30分も歩けば着けるので歩くことにしました.

小樽運河を北の端から見る:右側のこんもりした山は天狗山です.天狗山から流れてくる於古発川が小樽運河に注いでいます.
小樽運河の北の端も,整備されて石造りの倉庫が並んでいます.ここの倉庫群の石材は札幌軟石(支笏火砕流堆積物の固結部)を使っているものもありますが,白っぽい小樽軟石あるいは桃内軟石(新第三紀の軽石凝灰岩)と呼ばれるものも使われています.旧広海倉庫は軽石の目立つもので多分,桃内軟石だろうと思います.

旧広海倉庫:札幌軟石に比べると白っぽいのが特徴です.軽石を多く含んでいるためです.
手宮の交通博物館を過ぎたところに,旧手宮鉄道施設の擁壁があります.石炭の積み出しのために手宮ー幌内間の鉄道が開通したのが1882(明治15)年です.この擁壁は,1912(明治45)年に使われ始めたそうです.なかなか威厳のある擁壁です.

緑の中の煉瓦積み擁壁:イギリス積みで作られています.

石炭積み出しのための高架桟橋の写真:なかなか壮観です.現地の看板です.
結局,大きく遠回りをして手宮陸上競技場に着きました.8時近くになっていました.朝早いうちは猛烈な暑さでした.しかし,競技が始まる頃から雨が降り出し,結局1日中,雨と風の天気でした.なんせ,台風接近中でしたので.トレールランニング用に買った薄手のカッパが威力を発揮しました.
一番面白かったのは,マイルリレー(1600mリレー)でした.様々なチームが出場し,みんな楽しみながら走っていました.今年の世界陸上では,最終種目の座を400mリレーに奪われてしまいましたが,バトンパスでの緊張感が無く楽しく走れて,大逆転も起きやすいので楽しい種目です.
太鼓戦は,今年も男子は東北大,女子は北大が勝ちました.
帰りは送迎バスに乗せてもらい,札幌駅まで学生達と一緒に戻ってきました.なかなか楽しい1日でした.
地下構造物の耐震性能照査と地震対策ガイドライン(案) ― 2011/09/19 17:44
上に記したガイドラインの講習会がありました.
どうして,指針やガイドラインの講習会というのは,これほどつまらないのだろうかと考えてしまいます.話す方にしてみれば,当たり前のことを話すので迫力が出ないというのは分かりますけど,苦労してまとめたものですから,注目すべきところ,書かれている文言の背景を話して欲しいと思います.
唯一興味を持って聞けたのは,このガイドライの小委員会副委員長の竹内幹雄氏((株)日水コン)の話でした.
どうして,指針やガイドラインの講習会というのは,これほどつまらないのだろうかと考えてしまいます.話す方にしてみれば,当たり前のことを話すので迫力が出ないというのは分かりますけど,苦労してまとめたものですから,注目すべきところ,書かれている文言の背景を話して欲しいと思います.
唯一興味を持って聞けたのは,このガイドライの小委員会副委員長の竹内幹雄氏((株)日水コン)の話でした.

このガイドライン(案)は,本編169ページ,研究成果編122ページ,資料編299ページ,総ページ数591ページという大冊です.総ページ数と各編のページ数の合計が合っていないのは,白紙でページが打ってないけどページ数に入っているページが1ページあるためです.
以下,関心を持った点について述べます.
竹内幹雄氏は,開会のあいさつで次のような話をしました.
1985年9月のメキシコの地震では,日本で言えば岐阜が震源で東京で大きな被害が出たような状況となりました.メキシコシティは湖を埋め立てた場所につくられているので被害が大きかったのです(古いメキシコシティの地図を見るには「モーリス・コリス,コルテス政略誌.107p.講談社学術文庫が手軽です).この地震によって地下構造物の免震構造の必要性が認識されました.
そして,1995年1月の兵庫県南部地震で地下は地震に対して安全であるという常識が覆されました.
高層ビル,地下放水路,横浜市の地下鉄駅,そして今年完成したばかりの札幌駅前通地下歩行空間などで免震構造が採用されるようになりました.新素材を使うことにより経済的な免震構造を構築できるようになってきました.
野津 厚氏(港湾航空技術研究所)は入力地震動の設定について述べました.
これまで,「レベル1地震動」,「レベル2地震動』としていたものを改め,「使用性照査用 地震動」,「安全性照査用 地震動」とします.使用性照査用地震動とは「設計供用期間内に発生する可能性が高い地震動」,安全性照査用地震動とは「当該地域で考えられる最大級の強さを持つ地震動」のことです.
古川愛子氏(京都大学大学院工学研究科)は応答値の算定と性能照査について述べました.
地下構造物の地震時の応答の特徴は,地盤の変形の影響を受けることです.地盤と構造物の剛性比によって構造物の変位が異なってきます.例えば,構造物の剛性を地盤に対して2倍にしても変位は7割程度しか小さくなりません.構造物の剛性を半分にした場合,構造物の変形は3割程度しか大きくなりません.したがって,地下構造物の地震時応答を検討する場合は,構造物と地盤との剛性比を考慮できる手法を採用することが重要です.

講演する竹内幹雄氏
竹内幹雄氏は地震対策技術について述べました.
トンネルの剛性を一定とした場合,硬質地盤では軟質地盤に比べて接線方向外力は小さくなり,トンネルに発生する曲げモーメントは小さくなります.一般的には柔らかくて,じん性に富んだ地下構造物の方が地震に対しては有利であると言えます.
トンネルやカルバートの周りに免震層を設ける場合は,新素材のソフトコーティングとすると経済的に桁違いで有利となります.
札幌駅前通地下歩行空間は地下鉄南北線の上に地下道が設けられました.この地下空間に接する建物との間に免震構造を採用しました.2003年十勝沖地震の地震動を用いて解析しています.
地震に伴う津波で地下構造物が浸水する可能性があります.これについては,地震による地下構造物の浸水対策として藤間功司氏(防衛大学システム工学群)が講演しました.
浸水対策としては,人的被害を防ぐことと施設の被害を防ぐことに2段構えで検討しています.下水道終末処理場は海岸付近に設置されている例が多く,津波の被害を想定する必要があります.静岡市の安倍川河口にある中島浄化センターで検討したところでは,4mの津波で浸水する可能性があり,復旧に長くて12ヶ月,76億円の費用が必要という結果になりました.3月11日の地震で被災した仙台市の蒲生浄化センターでは復旧に最大3年かかると想定されています.
この本は,資料編が充実していて,「地中構造物の耐震補強に関する文献一覧」,CDも付いています.
私は,山形県の古い亜炭鉱山の調査をしている時に坑内で地震に遭いました.木枠で支保しただけの坑道の壁につるしていた電球がきれいに波打つのを見て,地震ではトンネルは大きな被害は受けないだろうという感想をずっと持っていました.しかし,地盤と構造物との相互作用次第では構造物に被害が出ることがあると言うことで,認識を改める必要があると感じました.
竹内幹雄氏は地震対策技術について述べました.
トンネルの剛性を一定とした場合,硬質地盤では軟質地盤に比べて接線方向外力は小さくなり,トンネルに発生する曲げモーメントは小さくなります.一般的には柔らかくて,じん性に富んだ地下構造物の方が地震に対しては有利であると言えます.
トンネルやカルバートの周りに免震層を設ける場合は,新素材のソフトコーティングとすると経済的に桁違いで有利となります.
札幌駅前通地下歩行空間は地下鉄南北線の上に地下道が設けられました.この地下空間に接する建物との間に免震構造を採用しました.2003年十勝沖地震の地震動を用いて解析しています.
地震に伴う津波で地下構造物が浸水する可能性があります.これについては,地震による地下構造物の浸水対策として藤間功司氏(防衛大学システム工学群)が講演しました.
浸水対策としては,人的被害を防ぐことと施設の被害を防ぐことに2段構えで検討しています.下水道終末処理場は海岸付近に設置されている例が多く,津波の被害を想定する必要があります.静岡市の安倍川河口にある中島浄化センターで検討したところでは,4mの津波で浸水する可能性があり,復旧に長くて12ヶ月,76億円の費用が必要という結果になりました.3月11日の地震で被災した仙台市の蒲生浄化センターでは復旧に最大3年かかると想定されています.
この本は,資料編が充実していて,「地中構造物の耐震補強に関する文献一覧」,CDも付いています.
私は,山形県の古い亜炭鉱山の調査をしている時に坑内で地震に遭いました.木枠で支保しただけの坑道の壁につるしていた電球がきれいに波打つのを見て,地震ではトンネルは大きな被害は受けないだろうという感想をずっと持っていました.しかし,地盤と構造物との相互作用次第では構造物に被害が出ることがあると言うことで,認識を改める必要があると感じました.
待望の書「珪藻古海洋学 完新世の環境変動」 ― 2011/09/22 18:26
まさに待望の書ですね.珪藻という微化石で,どこまで環境変動を明らかに出来るのかを示しているのがすごい.そして,気候変動を理解するには,宇宙や太陽による地球外からの影響と磁気圏を含めた地球の気候システム内部の要因とに分けて考えることの重要性が書かれていて,非常に視野の広い内容となっているのが魅力です.

「珪藻古海洋学 完新世の環境変動」(小泉 格,2011年9月,東京大学出版会)の紹介です.
目次は次のようになっています.
最1章 珪藻古海洋学
第2章 深海掘削における珪藻古海洋学
最3章 完新世古海洋環境の復元
第4章 日本列島における気候変動
最5章 完新世の気候変動史
最6章 西暦年間の気候変動
第7章 太陽ー大気ー雪氷ー植生ー海洋の気候リンケージ
引用文献は,35ページにわたっています.
もっとも参考になると私が思ったのは,第5章と第6章です.古気候プロキシ(間接指標)の記録が表にまとめられ出典が示されています.これを見ると珪藻はもちろんですが有孔虫,サンゴ,洞窟の石筍,氷床コアなど様々な試料が古気候の解明に使えることが分かります.
太平洋の鹿島沖と日本海の隠岐堆のコアで,1万3千年前以降の年間表層海水温の変化を解析しています.この解析では1,000年後の海水温変化を示していますが,鹿島沖と隠岐堆では予測が違ってくることが示されています.
古気候の分解能が上がることによって,将来起こる気候変動の予測精度も上がることが期待されます.
「本書は,日本近海を中心とした北太平洋の古海洋研究の成果を,次世代の研究活動を期待される学部学生や大学院生のために集大成したものである.」(本書はじめに)という著者の目的が果たされるために,多くの若い人に読んで欲しいと思います.