2025年度土砂災害予測に関する研究集会 ― 2025/12/15 21:32
2025年12月2日(火)10時から17時まで、防災科学技術研究所主催の表記集会が開かれました。
テーマは「DX・生成 AI 時代に向けた調査・解析技術の現状と課題」で、2015年に開いた第1回集会と同じ「新技術」を取り上げていました。
Zoomで視聴しました。
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研究集会プログラム
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<原口 強氏>
原口氏は調査設計会社に勤務したあと、大阪市立大学などで教鞭を執ってきました。
近年、災害の重層化が進んでいます。豪雨が発生し、その後地震が発生、さらに豪雨が発生するといった連鎖が起きています。このような事態では、崩れる前の地形の「表情」が大切です。
地形判読では個々人の判読結果を翻訳して、市民レベルで分かるようにする必要があります。地形画像診断では微地形が表現されています。 レーザ測量で得た地形図を持って地質踏査をすることで地形の表情を読み取り、違和感を持つことが大事です。航空レーザ測量や衛星画像などのデジタル画像では、河道の変遷など地形の時間的な変化を捉えることができます。毎日、毎時間データを更新することができます。
SAR画像は全天候での観測が可能で、全国の地形画像を残すことができます。さらに、時系列での変化を捉えます。
デジタルツインによって継続監視が可能となります。専門家が判断の意味を翻訳することが必要です。
AIをどう活用するか。
AIを使って地形画像から地形分類をすることは可能です。しかし、その地形がどうしてできたのかといったことを説明することはできません。ヒトが納得する形で説明するのは人間です。
現実の世界で取得したデータをコンピュータ上の仮想空間で再現するデジタルツインでは、差分解析により時間の変化を扱えます。地形・降雨・地質・植生などを一体として解析できます。これにより、複合的なリスクを抽出できます。
地形の違和感、地形の表情の変化を色で表現することで、住民の納得を得ることができます。災害による危険度を示すマップの更新ができます。危険を理解した上で行動することを支援する仕組みを作ることが大事です。理解に基づく行動を促します。住民の五感は大事ですが正常化のバイアスを破る必要があります。
デジタルツインでは離れてみることができます。それによって、住民は理解した上で避難行動に移ることができます。臨床医としての防災です。防災地図は毎日更新が可能です。
さまざまな気象・災害データを地図やグラフ上に一元的に可視化する防災ダッシュボードがあります。必要な情報を一目で見ることができるようにして、迷っている時間をなくして瞬時に避難するための道具です。
AIと人間の関係についてです。
AIは危険を指摘することはできます。人間は地形の記憶を持っています。災害後の復興では透明性のある復興が重要です。住民の防災リテラシーを高めると同時に、危険を可視化し説得する方法に工夫が必要です。
<杉本宏之氏>
土木研究所ではBIM/CIMの活用を行ってきました。
*)BIM/CIM は、計画、調査、設計段階から3 次元モデルを導入することにより、その後の施工、維持管理の各段階においても3 次元モデルを連携・発展させて事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図る取り組みです。(とよおかBIM/CIMポータル より)
地すべり災害対応では、関係機関との情報の共有が重要です。その手段の一つとして、カラー点群データを用いてバーチャルな災害現場を作ります。BIM/CIMモデルの点群データに等高線を加えた画像です。
能登半島の地震と豪雨による斜面崩壊の地形変化を災害前と後の写真を用いて表現します。さらに、UAVの画像を集めて見える化します。
長野県の犀川左岸地すべりは、凝灰岩と泥岩の境界ですべりが発生しました。水が集中する地形です。まず、現状把握を行い、発生機構を推定しました。今回の地すべりは旧地すべりの再活動で、末端の押し出しにより渓流が埋積されました。
本体の対策、末端の対策、河川閉塞対策、地下水排除工、小崩落防止、事前通告体制の構築など、九つのリスクそれぞれに対応するためマトリクスの対応表を作成しました。
現地調査を行い、発生機構を推定し、今後どんな現象が起きるか予測しました。
行政面ではじ事業の申請と予算措置、手続きと判断をウェブ会議で行いました。本局、地方整備局、国道事務所の合意形成を一気に行いました。
ワークフローを作成し、災害対応の標準化とデジタル化を行い、デジタル化を前提とした諸制度の構築が今後必要です。
<竹林洋史氏>
土砂災害のうち土石流災害対策を研究しています。
土砂災害警戒区域の土石流は、扇頂部から下流の勾配が2度以上の渓流が該当します。人的被害が発生する可能性のある地域は、特別警戒区域になります。
問題は、建物ごとのリスクが違うこと、警戒区域は70万箇所以上になることです。警戒区域内でも安全な場所があります。土石流の流動特性、土石流が流下中に分波を作ること、複数回の土石流が発生することなどが問題です。
iRIC-Morpho2DH を用いて土石流のシミュレーションを行いました。広島市の安佐南区の現場です。
土石流は渓岸を削って流れていきます。規模、速度からは逃げる時間は80秒で、土石流が発生したら、すぐ逃げることです。ただし、鉄筋の建物は壊れませんから、近くの鉄筋の建物に避難するのが良いです。
通過土砂量は発生源に近いほど少ないですから、砂防ダムは発生源に近いほど小さなポケットですみます。
安芸郡熊野町川角では土石流の分波が発生し、一部は道路を流れました。微高地には土石流は到達しませんでした。避難しない方が良い場合があります。
<古木宏和氏>
土砂災害の危険度予測を行っています。
画像をAIに深層学習させます。ヒトによる判読はバラツキが生じます。
広域の地すべり地形判読を行いました。画像を分類し画像変換して地すべり領域を検出します。教師データの選別を行い頭部と末端に注目して判読テストの評価を行いました。結果は8割は当たっていました。紀伊半島の地すべりを教師データとして四国の地すべりを判読しました。斜面のリスクポイントは抽出できています。
AIで危険度判定を行いました。60枚の訓練データで学習させ20枚のテストデータの危険度判定を行いました。
伝統技術を継承しAIに取り込んでいくことが大事です。
<千葉達朗氏>
地形判読に適した赤色立体地図を作ってきました。
日本列島の接峯面図を250mメッシュの赤色立体地図を用いて作成しました。1989年に藤田和夫氏が作成したものと同じような結果になりました。
DEMのメッシュサイズによる地形の見え方の違いを検討しました。全体として8mメッシュまでは滑らかです。
房総半島、丹沢山地、富士山南斜面の大淵溶岩流、多摩丘陵、高知県本山町の棚田、北部フォッサマグナ、裾花川などの赤色立体図で検討しました。
<鈴木雄介氏>
2021年に発生した熱海土石流についてです。
2021年7月3日16時過ぎに盛土崩壊と土石流が発生しました。事前に静岡県の3次元点群データがありました。点群データを活用できる人たちでチームを組み、2009年の国交省データ、2019年の静岡県のデータで盛土量と崩壊土砂量を推定し、盛土の体積は54,000立方メートルと出しました。
7月4日にドローンで撮影を行いました。動画からSfMで三次元立体図を作成しました。この際、問題となったのはライセンスでした。
崩壊の引き金となった水の供給ルートは、狭い範囲の流域からでした。
7月7日にドローンのデータが届き、8日に地形図が完成しました。その結果、崩れ残りの土砂があり、その体積を推定することができました。
AIは人間の思考を拡張し判断の幅を広げる相棒として使えます。データの可視化から知識インフラへと発展させるためにAIが活用できるデータ基盤の整備が重要です。
<宇佐美星弥氏>
干渉SAR画像の時系列解析で斜面変動の抽出を行っています。
SAR画像が分かりにくい理由の一つは、干渉縞で表現されることです。可視化しやすい表現方法を研究しています。
SAR画像解析の誤差は、1.5〜1.6cmです。干渉SAR画像の時系列解析での誤差は1cm以下にでき年間0.6cm程度です。
問題としては、衛星視線方向の変位量を過小評価する場合があることです。マイクロ波の散乱場の影響と考えられます。
地すべり地形に適応したフィルタをかけることで解決できると考えています。
<杉本 惇氏>
SARのピクセルオフセット解析で地表変動を捉える研究です。
2024年能登半島地震で隆起した若山川の変動をSARピクセルオフセットで解析しました。結果は、若山川の南側の山地斜面で北向きの変動があることが分かり、現地で変動を確認しました。ただし、ノイズによって変動と紛らわしい変位が出ます。
課題としては、ノイズを低減すること、数十cmの誤差が出ることです。ただし、大きな変動には有効と考えます。
<吉田一希氏>
高解像度のDEMで2024年能登半島地震の斜面変動を解析しました。
国土地理院の高解像度DEMは全国の5割をカバーしています。
2024年の能登半島地震の時、災害直後の調査のために被害の全体像を把握することを目的にDEMデータを使用しました。
斜面崩壊としては、地すべり、表層崩壊、落石、土石流、クリープがあります。DEM解析は属人的です。判読を自動化するには教師データが必要です。データの公開数を増やすことが必要です。
国土地理院では、都市域のオルソ画像の公開も始めます。
<向山 栄氏>
数値地形画像解析で地表面の変位を計測しています。
数値地形画像解析では机上で地形モデルができ、三次元計測が可能です。
2007年の能登半島地震では航空レーザ計測で地表面変位を計測しました。水平変位は鉛直変位を乱すノイズとなります。
2016年の熊本地震では布田川断層の東端の右ずれ断層を検出しました。
2024年の能登半島地震の低角並進地すべりを検出しました。
1911年に発生した稗田山(ひえだやま)崩れを長期にわたって観測しています。10年間の動きを検出しています。
数値地形画像解析は計測手法として使えます。2011年の東北地方太平洋沖地震では、10cmの誤差で変位を検出しています。広域変動と局所的変位とその他の変位を分離可能です。地表の面的な変動を追跡できるので、地表踏査の事前準備として有効です。また、海底での変位検出も可能で、土層の流動や岩塊流でも使えます。
課題としては、誤判定があること、データの品質が重要であること、不動域の判定方法、地質との関連などがあります。
斜面変動発生の前と後の地形データがあれば、変位量と変位領域の広さを計測できます。変動速度の三次元表示ができ応力マッピングも可能です。これらは解釈が大事です。
斜面災害では、現場で何が起こっているのか診断しコミュニケーションを取ること、そして、どんな社会を造るのかが大事です。
<総合討論>
この後、原口氏の司会で活発な総合討論が行われました。
「AIを使うことは当たり前で、AIを使っていのちを守ることが大事」(原口氏)というのが結論のようです。
<感想>
AIは、必須の技術になっていることがよく分かりました。特に画像解析では手間を省き、解析時間を短くできる点で非常に有効と感じました。
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