日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会 令和8年度 特別講演会・特別報告会 ― 2026/05/03 18:25
2026年4月22日(水)午後2時50分から午後4時50分まで、表記行事が行われました。会場は北大学術交流会館で、私はZoomで視聴しました。
特別講演と特別報告の概要を紹介します。
<本山 功氏>
山形大学 学術研究院 教授
「北海道日高・十勝地域の白亜系・新生界の地質と放散虫化石層序」
本山氏は現在、山形大学で環境変動、深海掘削計画、自然災害などの研究を行っています。
1964年生まれで、卒業研究は大夕張地域の有孔虫化石層序です。修士論文は十三湖東方地域の放散虫の研究を行い、博士論文は北西太平洋亜寒帯の放散虫の研究でした。微化石による地質年代学が専門です。琉球大学、筑波大学を経て山形大学に移りました。
放散虫は二酸化ケイ素の殻を持つ大きさ0.1mmほどの動物性プランクトンで海洋のどこにでもいます。放散虫化石帯が確立されています。
東北地方太平洋沖地震の震源断層掘削では、仙台東方沖のプレート境界での深海掘削によって、深度800m〜840mでプレート境界断層を捉えました。断層には多量のスメクタイトが形成されていることが分かりました。
放散虫化石は、断層の上下で種が異なっていました。また、断層直下は地層が逆転していました。大陸プレートの堆積物は二つの分岐断層で乱されていました(Iwai,M. et al,Island Arc,2025)。
山形大学には災害環境科学研究ユニットがあります。
バーチャルの研究所で、大学や民間の研究者が手弁当で災害緊急調査、災害についての普及活動や教育連携、災害についての基礎研究を行っています。
( https://yu-rcned.amebaownd.com )
2022年8月の山形県南部の大雨、2026年3月の鶴岡市の土砂災害、2019年6月の山形県沖地震、2022年12月31日の鶴岡市で2名の死者を出した地すべりなどの調査を行いました。
2018年9月に発生した胆振東部地震の時は、学生の一人が卒業研究で北海道のクジラ化石の研究をすることになっていましたが無理となりました。
そこで急遽、地震による墓石の転倒率の調査に切り替えました。由仁町や日高町で1ヶ月かけて62の墓地を調査しました。
墓石の移動形式は、転倒、回転、並進などがあり、墓石の形式は和型、洋型、五輪塔、無縫塔などがあります。
震源を中心に同心円状の震度分布を示しましたが、谷底低地では転倒率が小さく、斜面上部では転倒率が高いことが分かりました。転倒方向はランダムでした。
穂別・平取の白亜系の調査を行っていたところ、中新世の地層から白亜紀の化石が出ました。穂別と振内の境界付近です。地質図を作成し化石に記載を行いました(内村ほか、地球科学、2020)。
日高のクジラ化石の調査を行いました。日高町の波恵川(はえ・がわ)の河川改修工事で出たノジュールに含まれていました。波恵川のルートマップを作りました。770万年前〜740万年前(後期中新世)の地層の分布域です。露頭の岩石の年代は1,000万年〜930万年前です。この露頭から、770万年前〜650万年前の別のクジラの化石が出ました。これは、謎です(本山ほか、むかわ町穂別博物館研究報告、)2016)。
波恵川の河床には日高前縁褶曲帯の衝上断層である平取断層の露頭が出ています。この断層を水中めがねで観察し追跡しました。
浦幌町厚内から釧路市阿寒にかけての白糠丘陵周辺の放散虫化石層序を調査・研究しました。
阿寒地域で言えば、前期中新世のチチャップ川層、中期中新世の知茶布層、後期中新世〜鮮新世の古譚層などです。海陸環境での放散虫生層序を確立し、白糠丘陵全体の地史を編みたいと思っています。
2022年12月31日に鶴岡市で地すべりが発生し、2名が死亡したことは前に述べました。この地域は、1970年代から1980年代にかけて採石を行っていました。地すべりを起こした地質は、強風化した赤褐色の玄武岩質安山岩で一部は自破砕状になっています。形成されている鉱物は、ハロイサイトと赤鉄鉱、針鉄鉱です。すべり面は不明で、全体の岩盤強度が低下したことが原因と考えられます。前兆はなく、音もなく滑ったと言われています。深層風化による岩盤強度の低下と長雨が原因と考えられます。土砂の移動距離が大きい長距離流動の地すべりでした。2024年12月に頭部切土と法枠工で復旧しました。
(この地すべりについては、地すべり学会誌の2025年5号に二つの論文が載っています。)
<長川善彦氏>
独)鉄道・運輸機構 北海道新幹線建設局 技術管理部 技術調整課 課長補佐
「北海道新幹線(新函館北斗・札幌間)のトンネル施工について」
北海道新幹線は、2016年に函館までが開通しました。札幌までの延伸は当初予定では2035年度だったものが、一度2030年度に前倒しされました。現在は、2038年度末(2039年3月)頃開通となっています。総距離は約212kmで、そのうちトンネルが約170km(8割)となっています。
工事が難航しているのは延長32.7kmの渡島トンネルと延長9.7kmの羊蹄トンネルです。
渡島トンネルの台場山工区の地質は、上磯層群で硬質な破砕された頁岩です。2022年3月に天端崩落を起こしています。天端沈下量が50mm、内空変位が150mmです。円形断面を採用し脚部補強と注入式先受け工(AGF工法)で施工していますが、突発湧水にも見舞われ、月間20mの掘進です。
同トンネルの南鶉工区では熱水変質帯に遭遇し、内空変位が平均100mm、最大200mmに達しました。円形断面を採用し仮インバートを施工しながら掘進しています。月間30mの掘進量です。
延長9.75kmの羊蹄トンネルの地質は、湖成堆積物で地下水位が高く、高圧湧水に見舞われています。
比羅夫工区では羊蹄山の岩屑なだれ堆積物の巨大岩塊に遭遇しました。事前調査の予想では、礫に当たったとしても最大径50cm以下としていました。調査不足でした。
対応は迂回トンネルを掘削し、巨大岩塊を前方から砕いて除去しました。岩塊は一軸圧縮強度が150MPaと非常に硬質でした。2年4ヶ月掘削が停止し、弾性波探査とボーリングで前方の地質状況を把握して再開しました。
これらのことを教訓として、地質リスク管理を見直すと同時にオンラインでの勉強会を行っています。
<感 想>
本山さんは、学生たちと山を歩いて地質図を作ることを基本に、放散虫を武器に地質史を編む研究を行っています。学生は地質コンサルタントに就職している人も多いとのことですが、最近は公務員志望が多いそうです。
地質分野でもレーザによる高精度の測定やAIを使った地質判定などが使われています。しかし、山を歩いて地質図を作るというのは、人間にしかできない作業だと思います。
長川さんが羊蹄トンネルの岩塊遭遇について、調査不足だったと述べているのは印象的でした。低土被りでの掘削が長くなるのでシールド工法を採用したことは仕方ないのかもしれませんが、岩塊に遭遇することは事前に予想できたはずです。
渡島トンネルの松前層群の区間で難工事となったのは意外な気がします。松前層群はジュラ紀付加体なので、ある程度の変位が出ることは考えられます。しかし、円形断面にしなければならなかったというのは、それだけでは説明しきれないように思います。