北海道応用地質研究会 特別講演・報告会 ― 2024/05/01 17:07
2024年4月24日(水)午後2時50分から午後4時50分まで、日本応用地質学会北海道支部・北海道応用地質研究会の特別講演・報告会が開かれました。北大学術交流会館の会場とzoomでの開催で、私はzoomで視聴しました。
プログラムは下のとおりです。
■特別講演
杉田律子氏(科学警察研究所 附属鑑定所 所長):法地質学のこれまでとこれから
■特別報告
永田秀尚氏(有限会社風水土):むかしばなしからホラ話へ:予測・評価・責任
<杉田律子氏>
杉田氏は、1991(平成3)年に北大理学部地質学鉱物学専攻の鉱物学講座を修了し、科学警察研究所(科警研)に入りました。2008(平成20)年には北大で学位を取得しています。
科学警察研究所の職員は、国家公務員の技官で、科学捜査研究所(科捜研)は都道府県本部の一部所で職員は地方公務員の一般職です。
科警研では、土砂などの微細証拠資料(*試料ではなく試料が正しいです)の鑑定と鑑定方法の開発を地質学の技術や知識を用いて行っています。地質学を法科学に適用する分野が法地質学(forensic geology)です。法地質学の活用の始まりはシャーロック・ホームズと言われています。
法科学としては、生物、化学、物理などの分野があります。微細証拠資料の異同識別と由来鑑定を行います。例えば、風船爆弾に付着している砂の分析、1856年に発生した、列車に積まれていた銀貨をすり替えた砂の分析などがあります。そのためにはデータベースが必要です。
科警研は1948年に創設された科学捜査研究所(国家地方警察本部)が前身で、1950年には鹿間時夫(古生物学者、横浜国立大学教授)が犯罪地質学としての岩石鑑定の経験談を語っています。
国際的には大学やコンサルタントが関わっていて、大学に地質関係の法科学関係のコースが設けられています。2000年代まではヨーロッパやアメリカで盛んでしたが、近年は中南米、アジア、南アフリカなどで研究が進んでいます。
2011年にIUGS-IFG(International Unions Geological Sciences-Initiative on Forensic Geology)が設立され、法地質学のガイドブックが発行されました。
ブラジルの例では、貸金庫強奪事件で4つの資料についてシルト以下の粒度の土壌の全岩分析、X線分析、熱分析を行っています。
地中に埋められた物の調査では物理探査を利用します。ブタの死骸を3年間地中に埋めて電気探査と地中レーダーで経年変化を観察した事例があります。人に関しては、死ぬ前に試験体となることの同意を取っておいて試験をします。
遺棄死体の調査事例では、周辺の植生、泥岩・シルト岩の風化した斜面であること、氷河が運んだ巨礫の近くであることなどから地質モデルを想定し、地面の掘りやすさなどを考慮し探索方法を決定します。地質学、考古学、地球物理学、生態学などの知識を応用します。
警察の捜査顧問として現地踏査を行い、警察犬の助けを借ります。
物理探査では、地中レーダー探査では反応がなくても磁気探査や電気探査で異常が検出されることがあります。地下の発掘は考古学者が主導します。土砂のサンプリング、鉱物・浸出液・化学成分の採取、それに事後の知見も重要です。
微細証拠資料としては、土、岩石、人工物があります。試料はグラム単位で、試料の1/3は残します。スコップに付着した土は、塊ごと採取します。重機、タイヤ、車のトランクなどに付着した土もあります。
検査は系統的な検査法として手順が決まっています。色の識別、有機物の量、鉄の酸化物、粘土鉱物、一般鉱物などを分析します。土砂、藻類、岩石、砕石などが対象です。トラバーチン(緻密な、縞状構造をもつ化学沈殿による石灰岩:磯見、2024)の中に覚醒剤を入れて密輸しようとした事例があり、石材をまるごと調査したこともあります。
殺人などの組織的犯罪では、貴重な鉱物が対象となります。人道犯罪、環境犯罪、野生生物犯罪、テロ、金融犯罪などがあります。金融犯罪ではインドネシアのカリマンタン島の金の鑑定を行ったことがあります。
これからの法地質学は、殺人事件などや組織犯罪、貴重鉱物に関する犯罪などに対応が必要です。
客観性の確保、基礎的な部分の検証、標準的な手法の検証などのほか、必要な研究としては土砂の均質性の検証、使用している手法の評価、色・化学分析・粒度の研究、土砂の採取方法の研究などがあります。
法科学、法地質学についての学生のネットワークが必要です。環境・地質・地盤に関連した事故への対応、自然科学を生活に落とし込むことが必要です。ただ、論文化が難しいので社会にどう役だっているのかを考えることが大事です。
検査手法としては、色による砂の比較法による異同識別、微量元素による異同識別、鉱物の元素組成による異同識別などが重要です。
法地質学については、中南米での活動が盛んで、ほぼ毎年シンポジウムを開いているほか、司法機関の教育を行っていたり、学生グループが活動していたりします。
鉱物関連の犯罪としては、中央アフリカ産の金・タングステンのサプライチェーンを含んだ犯罪や金が暴力団などの資金源になっている問題、現地住民からの搾取、水銀による健康被害、児童労働、自然破壊などがあります。
金の産地推定を微量元素を使って行うことやタングステンの原料である鉄マンガン重石の産地判別などが必要です。
地中レーダーやリモートセンシングを使って違法埋め立てなどの環境犯罪を明らかにすることも重要です。
探査や鉱物に関する国際シンポジウム、遺体の変化と土との関連など犯罪地質学もあります。
<文 献>
杉田律子ほか、2020、特集:法地質学の進歩。地質学雑誌、Vol.126,No.8。
*Google Scholarで「地質学雑誌126巻8号」と入力すると、この特集の幾つかの論文が出てきます。
<永田秀尚氏>
1979年に北大理学部地質学鉱物学科鉱床学講座を卒業し、北海道開発コンサルタント(現 株式会社ドーコン)に入社しました。地質部ダム班に20年ほど勤務し、1997年に有限会社風水土を設立し斜面地質に20年ほど携わってきました。今日はダムの地質調査の話です。
札内川ダムの基礎岩盤は、前弧海盆堆積物の砂岩を中心とする地質で、ほぼ均質な岩盤です。細粒砂岩と中粒砂岩があり、右岸袖部にCL級岩盤がありました。この岩盤を見逃していたため、基礎掘削土量が約2万m3増えました。
滝里ダムの地質は、エゾ層群の付加体堆積物である泥岩砂岩互層です。小断層が発達し凝灰岩の薄層が挟在しています。堤体の のり先 に上流傾斜の凝灰岩層があり対策が必要となりました。
効果的な地質調査を行うには、地質体の形態パターンを認識する必要があります。単純な地質構成なのか複雑な地質構成なのかが重要です。
滝里ダムの場合、5系統の断層系に褶曲が加わっています。不整合面の下位に分布する地層の推定は困難です。
技術者が持っているリスクもあります。例えば、秋田県に設置が予定されたイージスアショアは、断面図の縦横の縮尺違いに気づかず設置場所を決めてしまいました。
上越新幹線の中山トンネルは、子持山と小野子山に挟まれた中山峠の所で、ルートが微妙に曲がっています。これは、異常出水により二度ルートを変更したためです。
地質的な評価を伝えることが大事で、その情報の確実度を表示するのが良いと考えます。