本の紹介:ドキュメント 豪雨災害−そのとき人は何を見るか ― 2014/08/01 20:32

稲泉 連,ドキュメント 豪雨災害−そのとき人は何を見るか。岩波新書,2014年6月。
2011年9月3日から4日にかけて紀伊半島を中心に発生した豪雨と土砂災害がどんな様子だったのかを記録した第1章と第2章,そして,東京都荒川を中心とする低平地の過去の水害がどんな様子だったのかを述べた第3章からなる。
2011年の紀伊半島大水害は,各所で深層崩壊を発生させたことでも記憶に残る水害となった。雨の降る音と川の激流とともに大きな石が流れていく音,そして,川の水位が,これまで考えられなかった速さで上がっていく様子が証言をもとに描かれている。
周囲が水だらけでどこに身を置いたら良いのか分からないという恐怖にさらされる時間が長いという点で,大地震に勝るとも劣らない怖さを伴うことが,このドキュメントから伝わってくる。
1時間に100mmの雨が降るという状態がどんなものか,経験しないと分からないだろう。気象庁では1時間80mm以上の雨を「猛烈な雨」と呼んでいる。息をするのが苦しくなるような猛烈な雨で,雨そのものに恐怖を感じるという。
第3章の東京堤平地の問題も対応の難しい問題である。人口減少の社会動向と併せて,数十年以上の長いスパンで減災にどう取り組むのかが問われているという著者の指摘はうなずける。
豪雨災害に興味のある方には,是非,読んで欲しい本である。
せたな町太田神社 ― 2014/08/03 14:46
北海道渡島半島の日本海側にあるせたな町大成区には,北海道で一番古いとされる太田神社があります。
太田神社の拝殿は,帆越山トンネル北坑口の旧道脇に建っています。また,昔の灯台であった定灯籠が復元されています。
太田神社の本殿は,太田山の西斜面,標高350m付近の洞窟の中にあります。
帆越山トンネルの北坑口までの海岸線は白亜紀の花こう閃緑岩が分布していますが,ここから太田神社本殿の鳥居を経て太田の集落付近までは,粘板岩を主体とし砂岩やチャートを挟む地質で,ジュラ紀付加体の久遠コンプレックスと呼ばれる地層が分布しています。太田の集落付近は中新世の流紋岩を主とする地質です。
久遠コンプレックスは付加体堆積物であることと鉱化変質作用を受けて全体が脆くなっているために,浸食されやすく海岸線が緩く湾曲していると考えられます。
また,久遠の富磯から北檜山区太櫓の水垂岬までは海成段丘が残っていません。富磯付近ではmT7(約21.4万年前)と呼ばれる高位段丘とmT5e(約12.5万年前)と呼ばれる低位段丘があり,この地域の北の太櫓付近ではmT5e段丘のみが分布しています。
このような地質的な条件が太田神社本殿の崖をつくったと言えます。
写真1 帆越山と太田山
左が帆越山で,右の遠くが太田山と思います。帆越山を含めてこの付近の海岸は,白亜紀花こう閃緑岩の全面露頭です。太田山の海側の裾に旧道のロックシェッドが見えます。
写真2 花こう岩類らしからぬ節理が発達する花こう閃緑岩
写真3 帆越山トンネル北坑口
右に延びる道路は旧道で,太田神社の拝殿と定灯籠が海側にあります。
写真4 太田神社本殿への階段
この階段の怖いところは,全体に勾配が急で階段の幅が狭いことがまず挙げられます。それと同時に,この写真のしめ縄付近から上でさらに勾配がきつくなっているので,一層恐怖感が強くなります。この新しい門柱では「太田山神社」となっています。
写真5 上から見た階段
手すりと綱があるので何とかなりますが,怖いです。
階段のあとは,ひたすら登ります。綱がずっと付いているので大分楽です。女人堂を過ぎた付近から露頭が見えます。
写真6 最初の露頭
粘板岩と砂岩だろうと思いますが,御山ですので石を叩くわけにはいきません。堆積構造のほかに細かい割れ目が入っていて褐色化しています。
登ること約30分で最後の階段に到達します。
写真7 本殿手前の階段
ここからは,全面露頭です。この階段の左に本殿へ登る鉄輪の梯子があります。
写真8 最後の梯子
この鉄の輪を登って行った洞窟の中に本殿があります。よくもまあ,こんな洞窟を見つけたものだと感心します。
写真9 本殿下からの眺め
拝殿と定灯籠が見えます。
写真10 落石
露岩部は脆い岩盤で,今も落石が続いていていて沢に堆積しています。
札幌の北3条通 ― 2014/08/05 20:19
札幌の旧道庁赤レンガ庁舎から東へ延びるのが北三条通です。この通りの旧赤レンガ庁舎正門から駅前通までの間が,レンガで敷き詰められ歩行空間として2014(平成26)年7月に一般解放されました。
北三条通を東に行くと札幌ファクトリー,昔のサッポロビール工場に行きます。札幌の東西の道路は,現在では北1条通や大通,南4条通が主要な道路になっていますが,明治の頃は北一条通りと北三条どおりが,東へ抜ける主要な道路でした。北三条通は札幌通と呼ばれ,札幌農学校,製網所,麦酒所,葡萄酒所などが通りの南側に並んでいました。
旧道庁赤レンガ庁舎前は,1924(大正13)年にブナ材による舗装道路として完成しました。現在の赤レンガ舗装の下には,このブナ材の木塊がそのまま埋められています。
なお,この歩行空間の区間は,「道庁正門前木塊舗装・銀杏並木」として2011(平成23)年に土木学會選奨土木遺産に選定されています。
写真1 西4丁目・駅前通付近から旧道庁赤レンガを望む
手前の石は,札幌国際芸術祭2014に出品されたもので「一石を投じる」(Stone from Nibutani)。島袋道浩(しまぶく・みちひろ)氏の作品です。緑色岩,赤色チャート,それに多分,石灰岩が混在した岩でつくられたものです。
写真2 レンガ歩道から東を見る
イチョウ並木もこの空間の売りのようです。
写真3 北側の歩道
この歩道の広さと通りに面した建物の高さが抑えられていることが,開放感をもたらしています。
本の紹介:絵でわかるプレート・テクトニクス ― 2014/08/08 21:56

是永 淳,絵でわかるプレートテクトニクス 地球進化の謎に挑む,2014年5月,講談社サイエンティフィク
イェール大学地球科学科教授の是永氏のプレートテクトニクスの解説書です。理論と現象の両方からプレートテクトニクスの原理について述べています。
この本で一番面白く読んだのは,「第3章 プレートテクトニクスはどのような現象か」です。
「プレートテクトニクスにおけるプレートとは,マントルが地球表面で冷やされてできた境界層のことで,この境界層が重力的に不安定になり沈み込むことで,マントル対流が起こっているのです。」
この原理を使って,プレートテクトニクスの様々な現象を説明できるとしています。
是永氏のブログ➡によれば,<http://jun.korenaga.com>
「この本は僕が学部2、3年生向けに教えている講義をもとにしている。アメリカの大学では理系でも学部2年だと微分方程式や線形代数をまだ履修していない学生がほとんどなので、出来るだけ数式を使わずに簡単に教える必要がある。地球の進化を支配しているマントル対流を数式を使わずに教えるのはかなり無理があるのだが、色々試行錯誤して、なんとか本質は掴めるように工夫してきた。その経験が今回思わぬ形で役に立ったというわけである。」
と言うことですので,内容は多岐にわたり,かなり高度な内容を含んでいます。
プレートテクトニクスがいつ始まり,あと何年したら寿命が尽きるのかについても述べています。地球の遠い過去と未来に興味のある方には,是非一読することをお薦めします。
真夏のモエレ沼公園 ― 2014/08/09 18:27
しばらく続いた雨模様の天気が去り,札幌は夏らしい土曜日となりました。
久しぶりにモエレ沼公園の「海の噴水」を堪能しました。
噴水と言えば,高く噴き上がるものというのが相場ですが,海の噴水の一番の見どころは,台風の時の大波のようにしぶきを上げながら池の中の水が増えていくところです。そして,しぶきがおさまった後のうねりのような波の動きです。
写真1 海の噴水
荒れ狂う海の迫力が感じられる。だんだんと水が増えてくる。
写真2 うねりの噴水
嵐はおさまった。うねりが残っている。
写真3 静かな海
さっきまでの荒れた海が嘘のよう。
写真4 霧が立ち上る
写真5 噴水らしい噴水
現在,モエレ沼公園のガラスのピラミッドで,札幌国際芸術祭2014の一つとして,『坂本龍一+YCAM InterlLab「フォレスト・シンフォニー in モエレ沼」』が行われています。会場には,どでかい画面に映像が映され,音が流されています。私には,何を楽しめば良いのかが分かりませんでした。理念と現場とが,かい離している印象を受けました。
この装置一式は,「札幌や道内をはじめ国内外の11ヶ所の樹木にセンサーを設置,それぞれの期の生体電位のデータを音楽へと変換するインスタレーションです。」と言うことです。
<http://www.sapporo-internationalartfestival.jp>