本の紹介:本当に役に立つ「汚染地図」 ― 2014/03/16 21:35

本当に役に立つ「汚染地図」(沢野伸浩,2013年12月,集英社新書)
地理情報システムの利用によって様々なことができることを,自らの体験に即して解説した本である。
福島第一原子力発電所の事故の時(2011年3月11日)に「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)が,住民の避難対応に全く使われなかったことは有名な話である。このシステムは,当時日本測地系のデータを取り扱うようになっていたというのが,この本の最初の話である。
日本で,日本測地系(ベッセル1841楕円体)から世界測地系に移行したのは,2002年4月1日である(測量法一部改正の施行)。SPEEDI は10年近く,日本測地系のまま放置されていたことになる。
アメリカ国家核安全保障局(NNSA:National Nuclear Security Administration)は,横田基地を拠点にして,航空機によって2011年3月19日までに福島第一原発から30km圏内の計測を終了していた。これらのデータは,1日から3日ほどの遅れで日本側に渡されていた。3月23日にはアメリカ側から公表されている(2012年7月10日参議院予算委員会での枝野幸男経済産業大臣の答弁)。
このデータは,ここで止まっていて活用されていない。初期線量の記録として非常に重要である。
NNSAは,2011年10月21日にウェブサイトでこのデータを公表している。緯度,経度,高度,セシウム134とセシウム137の計測値である。著者はこのデータを使って汚染地図を作成している。
その他に,1997年1月に発生した「ナホトカ号重油流出事故」の処理によって発生した海岸線浸食の事例,ベトナム戦争「枯葉剤」の影響解析などの事例が載っている。
「本当に役立つ」という言葉の中に,著者の様々な思いが込められていると思う。科学技術のあり方についても考えさせられる内容である。