「原発賠償の行方」 ― 2011/12/05 11:38

井上 薫「原発賠償の行方」(新潮新書,2011年11月)
今回の福島第一原子力発電所事故の賠償はどういう法律的な枠組みで行われるのが妥当なのかという話です.今,政府が進めようとしているやり方は,法律に則っていないということです.
この本で指摘されている問題点は納得できますが,じゃあどうすれば良いのかについて法律家としての提案がないのが残念です.
今回のような原子力発電所の事故に対しては,「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法:1962(昭和37)年施行)があります.
その第1条は,「この法律は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする」となっています.つまり,被害者を保護するだけでなく,原子力事業が健全に発達するようにすることがこの法律の目的です.
原賠法第3条1項では,「原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係わる原子力事業者がその損害を賠償するの責めに任ずる」となっています.この条文は,故意か過失かに関係なく責任を取る「無過失責任」を規定したものなのだそうです.
一方,原発事故の法律問題は民法の「不法行為」に該当します.民法709条では,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」となっています.つまり,わざとやった場合や過失で事故を起こした場合でなければ責任はないと言うことです.「過失責任の原則」と言うそうです.
もう一つ重要な指摘として,「過失相殺」があります.原子力発電所を誘致したことによって地元は利益を得てきたので,損害の全額が保障されないことがあり得ると言うことです.法律的には考慮すべきことだそうです.
そのほか,例えば東京電力が破産しても電力供給が止まることはない,株主代表訴訟に対処するには支払い義務があるかどうかの法的根拠を示さなければならない,浜岡原発の停止を菅首相が要請したが法的根拠はない,東電に融資していた金融機関に債権放棄を求めるのは違法である,原発事故の国際賠償に関する三つの条約のどれにも加盟していない日本は,外国の裁判所の判決で賠償金額を決められてしまう,賠償に不満な場合,裁判所は使いかってが悪いので紛争審査会が重要である,と言ったことが書かれています.
今回の事故に対処する際,法律的に適切な手続きがなされていないことが良く分かります.このことが,将来に禍根を残さないと良いのですが.
今回の福島第一原子力発電所事故の賠償はどういう法律的な枠組みで行われるのが妥当なのかという話です.今,政府が進めようとしているやり方は,法律に則っていないということです.
この本で指摘されている問題点は納得できますが,じゃあどうすれば良いのかについて法律家としての提案がないのが残念です.
今回のような原子力発電所の事故に対しては,「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法:1962(昭和37)年施行)があります.
その第1条は,「この法律は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする」となっています.つまり,被害者を保護するだけでなく,原子力事業が健全に発達するようにすることがこの法律の目的です.
原賠法第3条1項では,「原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係わる原子力事業者がその損害を賠償するの責めに任ずる」となっています.この条文は,故意か過失かに関係なく責任を取る「無過失責任」を規定したものなのだそうです.
一方,原発事故の法律問題は民法の「不法行為」に該当します.民法709条では,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」となっています.つまり,わざとやった場合や過失で事故を起こした場合でなければ責任はないと言うことです.「過失責任の原則」と言うそうです.
もう一つ重要な指摘として,「過失相殺」があります.原子力発電所を誘致したことによって地元は利益を得てきたので,損害の全額が保障されないことがあり得ると言うことです.法律的には考慮すべきことだそうです.
そのほか,例えば東京電力が破産しても電力供給が止まることはない,株主代表訴訟に対処するには支払い義務があるかどうかの法的根拠を示さなければならない,浜岡原発の停止を菅首相が要請したが法的根拠はない,東電に融資していた金融機関に債権放棄を求めるのは違法である,原発事故の国際賠償に関する三つの条約のどれにも加盟していない日本は,外国の裁判所の判決で賠償金額を決められてしまう,賠償に不満な場合,裁判所は使いかってが悪いので紛争審査会が重要である,と言ったことが書かれています.
今回の事故に対処する際,法律的に適切な手続きがなされていないことが良く分かります.このことが,将来に禍根を残さないと良いのですが.
コメント
_ 常識人 ― 2012/01/27 21:03
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意味がない。
要請するのは自由。要請に従うのも拒否するのも自由。
>東電に融資していた金融機関に債権放棄を求めるのは違法である,
違法でも何でもない。
債権放棄を求めるのは自由。債権を放棄するのも拒否するのも自由。
>原発事故の国際賠償に関する三つの条約のどれにも加盟していない日本は,外国の裁判所の判決で賠償金額を決められてしまう,
逆である。
条約に加盟していない以上、外国の裁判所の判決に強制力はない。
もちろん、外国の裁判所の判決に従うのは自由、拒否するのも自由。