北海道地すべり学会 令和7年度 第1回技術委員会2025/10/02 16:14

 2025926日(金)13時から16時まで、表記委員会が開かれ二件の発表がありました。

 Zoomで視聴しました。

 

 平元 万晶氏(国土防災技術北海道株式会社):地すべり調査設計業務で活用する三次元モデリングの基礎

 杉本 宏之氏(土木研究所):能登半島地震による地すべり被害と今後の課題

 

<平元万晶氏>

 

 平元氏はCADを使って、具体的に地すべりブロックと対策工を作成する方法を示してくれました。

 一度もCADを扱ったことのないわたしは、口を開けてみているだけでした。

 対策工の妥当性をチェックするには三次元CADが有効であることは、充分に分かります。

 平元氏がCADYouTubeで習得したと言っていましたが、まさに今の時代の人だなと感心しました。

 なお、国土地理院のホームページで<平元>と検索すると平元氏の「治山事業における点群データの調査、解析、設計への応用」という講演資料を見ることができます。

 

杉本宏之氏>

 

 杉本の経歴は次のとおりです。

 2004H16)年 中越地震の時は、湯沢砂防事務所で復興対応しました。

 2007H19)年 能登半島地震の時には北陸地方整備局の本局にいました。

 2008H20)年 岩手宮城地震、2011(平成23)年太平洋東北沖地震、2016H28)年熊本地震、2024(令和6)年1月能登半島地震を経験しています。

 

 2024年能登半島地震では、土砂災害は456件発生し、河道閉塞は6河川、14箇所で発生しました。

 災害の規模が大きいので、国道249号は直轄支援を行い、能登復興事務所を立ち上げました。河川、道路、海岸の復興を担いました。

 2024920日からの豪雨では総降水量が350mmを越え、これまで聞いたことが無い降水量となりました。数百年確率の降水量で、震度7の地震の後という悪い条件が重なりました。

 

 国道249号の直轄地すべりは7箇所でした。

 珠洲市清水地区は、もともと地すべり地で深度7mの集水井の深度3mで移動しました。

 珠洲市仁江地区は、急斜面の崩壊で規模が大きいです。

 渋田地区は、ほぼ初成地すべりで流れ盤構造です。

 名舟地区は、斜面の風化と岩盤の破砕が進んでいました。深見地区、大野地区も同様の状況です。

 

 大野地区の表層崩壊では三次元的に考えることが大事だと思いました。特に、現場で地元の人に説明するのに有効です。また、地震と豪雨の二つの斜面崩壊の拡大状況の説明にも威力を発揮します。

 

 市ノ瀬地区の崩壊性地すべりでは、崩壊直後に泥流が発生しました。尾根状地形の場所が崩壊しています。もともとの地すべり地形はありましたが、上部は初成地すべりです。斜面に向かって右の水系が地すべり土塊によって切られました。

 LPデータの標高差分解析を行いました。地すべりの発生域の規模は、奥行き650m、幅200mほどで緩い斜面で発生した大規模な地すべりです。

 このような大規模な地すべりが発生する原因として、一つは山頂付近では地震加速度が増幅される、二つに斜面の足下に弱部があり応力がかかることが考えられます(若井、2008)。

 地形的には、尾根は凸型で斜面下部は急傾斜になっていて、側部は侵食されています。ナマコ型の尾根です。水系の発達が悪く、透水性が高いです。

 

 地震地すべりの特徴として、火砕物の風化、ケスタ地形、弱層の存在、流れ盤、風化、岩盤クリープなどがあります。

 節理が多くかつ風化している、小断層が随所に見られる、赤色風化泥岩である、母岩の礫の混ざった粘土層がある、すべり面が連続していなくて全体像が分からない、流れ盤地すべりであるが単純な流れ盤に沿ったすべり面ではない、風化フロントの上がすべる、などの特徴があります。斜面下部が急斜面になっている場合、移動土塊が停止しません。

 

 市ノ瀬地区のすべり面の傾斜は9°ですが、末端は14°になっています。 移動土塊は向かって左側の渓流に流入し河道を閉塞しました。流入角(土塊の移動方向と渓流の角度)は57°で、,河床勾配は4°でした。

 移動土塊の水分量が多く、すべり面強度が低下していたと考えられます。

 凸型斜面、斜面下部が急傾斜、側部侵食、流れ盤、初成地すべりなどが特徴です。

 

 地震地すべりの危険性を評価する手法を実装したいと考えています。その場合、既存の地すべり対策工の効果をどう評価するかが問題です。今回の能登半島の地すべりでは、地すべり防止区域で対策をしていなかった箇所が被災しました。地すべり対策工を検討する際、地すべりが動いているかどうかが対策工実施の判断材料になります。事前防災ができるかが課題です。

 

 実務で使える評価手法が必要です。危険度ランク点数法が行われていますが、動いていないと対策工を事業化できません。

 評価手法の確立のために、地すべり危険度を14人が独立に判定しブレーンストーミングにより課題を洗い出しています。

 重力変形、尾根の形、斜面下部の急傾斜、側部の開放、湧水・湧泉の有無などが指標になります。

 土塊の抵抗力については、すべり面、末端、側部、地下水状況などを考慮します。駆動力としては自重と地震力です。

 

 2024年能登半島地震では、地すべり防止施設が被災しています。地震に強い施設にする必要があります。

 大野地区ではアンカー工が実施されていました。地震に耐え効果がありました。アンカーが過緊張状態になっていることが確認されました。

 

 鹿磯(かいそ)地区では急斜面に施工されたアンカー工の下部が動きました。斜面下部に施工したアンカーの頭部への移動土塊の乗り上げが発生しました。この斜面の地質は砂丘堆積物で、土塊としての一体性が乏しい性質です。アンカー頭部での跳ね上げ(受動破壊)の検討、土塊の一体性の確認が必要です。

 

 池原地区ではアンカーのFRP受圧板が変形・破断しました。場所によって地すべり土塊による応力が異なるものと考えられます。

 

 深見地すべりでは排水トンネルが変形しました。対策の対象とした地すべりより深い深度で地盤変動が生じた可能性があると考えています。

 

 清水地区では集水井の深さ14m3mのズレが発生しました。集水井の機能は損なわれていません。このように、壊れながらも機能を失わない施設とすることが大事です。

 

 地震地すべりでは、雨による地すべりとは地すべりブロックやすべり面深度が異なります。局所的変動が発生します。不動岩盤に施設をつくり機能が失われにくいものとする必要があります。

 

 河川砂防技術基準設計編を性能規定化しようと考えています。

 同時に技術開発を進め、ここまではできるけど、あとは逃げてもらう、というふうにします。施設は被災しても機能は生きるようにします。その場合、求められる機能はなにかが問題となります。

 



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