都出比呂志著「古代国家はいつ成立したか」2011/11/09 22:02


都出比呂志,2011,古代国家はいつ成立したか.岩波新書.(720円+税)

 この本を読むと,律令制国家成立までの様子が,かなり具体的にイメージできます.考古学の進歩で弥生時代は紀元前1,000年,今から3,000年前まで遡るのです.そして,弥生時代の終わり,古墳時代始まりは西暦240年とされています.西暦180年から西暦240年までは弥生終末期で卑弥呼が君臨した時代だそうです.

 考古学的資料,日本書紀や古事記などの史料,そして魏志倭人伝などのアジアの史資料を総合的に視野に入れて,古代国家の成立を分かりやすく述べています.特に,畿内を拠点とした勢力が,東北から九州南部まで勢力を広げていく様は非常に説得力のある内容になっています.

 今回は,ざっと読み通しただけですが,メモを取りながら読み返すと弥生時代から古墳時代の日本列島の社会の様子を総合的に理解できると思います.

 そして,「あとがきに代えて」で述べられている「私の原体験」は,強烈な印象を与えます.

 日本の国の成り立ちを知りたい人にとっては必読の本です.


シンポジウム 北海道博物館と魅力ある地域づくり2011/11/17 13:54

 北海道博物館となれば,北海道の人類史を旧石器時代から展示すること,北海道の中心博物館として各地の博物館を支援することがどうしても必要でしょう.さらに,自然史をどこまで遡って展示できるかも問われると思います.

 2011年11月16日,かでる2・7で標記シンポジウムが行われました.
 北海道開拓記念館が1971(昭和46)年に開館して40周年を記念しての催しでした.同時に,2010年9月に「北海道博物館基本計画〜北海道開拓記念館のリニューアルから北海道ミュージアムへ〜」が策定されたことを受け,今後の北海道の博物館の中心施設をどのような理念で造っていくのかという内容を含めたシンポジウムでした.

写真1 講演する丹保憲仁氏


写真2 壇上のパネリスト
 左から,司会の小林孝二氏,佐々木史郎氏,萬谷宏之氏,村木美幸氏,西谷榮治氏.


 基調講演で丹保憲仁北海道総合研究機構理事長は,近代以降の長い視野の中で人口減少期を迎えた日本がこれからの世界のあり方をリードする位置にいるという視点を持つことの重要性を話しました.その中で,北海道は6,000年々の歴史を持つ稲作の最北限であり同時に氷海が出現する最南限であるという地理的位置にあり,このような特長を活かした博物館を造る必要があるとしました.

 その後のパネルディスカッションは,小林孝二開拓記念館副館長の司会で進められました.

 パネリストである国立民族博物館副館長の佐々木史郎氏は,開拓記念館が地理的な特徴を持っていると同時に,後発の博物館でありフロンティアへの挑戦を続けられる立場にあると述べました.

 文科省社会教育課企画官の萬谷宏之氏は,余暇活動の中で博物館の利用は増えていて地域の中で重要性が増していること,学校の学習と連携することで子供たちがより深い理解を得れると述べました.

 アイヌ民族博物館副館長の村木美幸氏は,白老にあるアイヌ民族博物館は民族教育の場でもあり,新しく出来る北海道博物館がアイヌ文化の視点からの展示を行うことに期待を表明しました.

 西谷榮治利尻町立博物館学芸課長は,本州から利尻へ移住した人たちの入植年次と郷土の文化の移入のズレから,明治期の北海道への入植の実体が分かると述べました.

 会場からは,アイヌ文化の展示をどう行うのか,つまり,開拓の歴史ではなく北海道の文化を創ってきた歴史をどう扱うのかとの質問がありました.村木氏は,アイヌの長い歴史の中でアイヌがどういう生活をしてきたのか,どんな文化を築いてきたのかを展示する必要性を述べました.また,サハリン,シベリア,千島列島を含めた北方文化の中で,北海道の歴史を扱う必要があるとの指摘が,佐々木氏からありました.
 博物館を含む文化予算が必ずしも豊富でない状況で,国としてどのような対応をしていくのかという質問も出されました.

 なお,「北海道博物館基本計画」(平成22年9月)は<http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/dbs/hakubutukan.htm>で見ることができます.


「メンタルヘルス対策について」講習会2011/11/17 16:11

 私の周りにもウツ病になった人が何人もいました.地質調査の会社というのは,当然現場に出ることが多く,束縛されることはそれほど多くないと思うのですが,それでも知っているだけで10本の指に余るほどの人がウツ病に罹っていました.今回の講習会は非常に参考になりました.

 講師は(財)日本産業カウンセラー協会北海道支部の志賀千栄子氏でした.講演のタイトルは「職場のメンタルヘルスと快適な職場づくり」です.
 
 まず,ストレスの基礎知識の話です.職場でのストレスの原因は「人間関係」が第1位で,「仕事の質」,「仕事の量」の順です.自殺者は1997(平成9)年に約2.4万人だったものが1998(平成10)年には約3.3万人に跳ね上がり,以後2010(平成22)年まで毎年3万人を超えています.自殺の原因・動機には身体の病気,勤務問題,多重債務,生活苦などがありますが,最も多いのはウツ病で40%を占めています(2010年調査).
 
 人にとってストレスは必要なものです.しかし,過剰になると身体や心にストレス症候群と呼ばれる症状が出てきます.頭痛,肩こり,息切れなどであったり,神経症,心身症であったり,そしてウツ病であったりするわけです.

 では,ストレスを減らすための対応はどうしたら良いのかというと,コミニュケーションを取るときに,1)相手の話を丸ごと受け止める,2)内容・意味とその背景にある気持ちを含め能動的に相手を理解するように聴く,3)内面からあるがままに理解して本音で応じる,ことだそうです.
 これを分析する方法として,「交流分析」と言う方法があります.また,エゴグラムのパターンによって自我状態を診断することが出来ます.

 予防はどうすれば良いかと言うと,適度な運動,気持ちの切り替え,ものの見方を変える,ことです.また,質の良い睡眠を確保することも重要です.1日は24時間ですが体内時計は約25時間の周期で活動しています.このズレは日光でリセットされます.ですから,朝起きて朝日を浴びて散歩なりジョギングなりをするというのは,身体にとって非常に良いことです.
 また,簡単な精神統一と運動で,1)ストレスを解消して不安や緊張をほぐす,2)筋肉を弛緩させ自律神経系の働きのバランスを整え内蔵機能を整える,3)心身の変化に気付きやすくなり全体的に気づきの能力が高まるそうです.この方法は,自己催眠の一種ですので必ず「取り消しの動作」を行う必要があります.

 なお,エゴグラムによる性格診断,自律訓練法についてはインターネットで検索するとたくさん出てきます.
 自律訓練法は専門家に訓練を受けて始める必要があります.
 エコグラムは自分の性格をある程度客観的に見ることができます.ただし,どのパターンが良いと言うものではないので間違えないことが肝心です.


松村博文氏(札幌医科大学准教授):アジア人 はるかなる旅ー現生人類の拡散移住史ー2011/11/26 22:26

 最近の人類移動の研究成果では,約15万年前にアフリカを出た現生人類は,旧人と混在しながら東へ西へと移住していったと言うことらしいのです.この時に,ユーラシアに渡った人類は海岸沿いに南へ移動したグループとカスピ海の東を通ってシベリアへ進出したグループの二つがあったことが分かってきていると言うことです.
 縄文人は南から日本列島に来たと考えられていましたが,北から日本列島に渡ってきたグループがいたようです.これらの縄文人の世界に稲作を持ったグループ「弥生人」が移住してきて,現在の日本人が形成されたというのが最新の成果と言うことです.

 松村氏は,人類の起源から始まり,人類の脱アフリカの経路,日本人の祖先がどこから来たのかについて分かりやすく説明してくれました.頭蓋や歯の形がどのように違うのかを写真で見せてくれたので納得できました.
 自分の周りを見ても,この人は縄文の血が強いのかなとか,この人は顔が長いし何となく平べったいので北回りの血を強く引いているのかなとか思いながら聴いていました.

 この中で大事だと思ったのは,人類が一本の線でつながって現在のホモサピエンスになったというのではなく,絶滅した種が数多くありその中で環境に適応できた種が生き残ったと言う点です.

 人や物の交流が容易になり世界が狭くなった現代以降,人類が生物としてどのような進化をしていくのか興味のあるところです.

 なお,松村博文氏は1984(昭和59)年に北大理学部地質学鉱物学科を卒業し,国立科学博物館などを経て札医大准教授になられています.

 この講演会は,2011年11月26日(土)午後2時から午後4時まで札幌市中央図書館で「第11回サイエンス・フォーラム in さっぽろ」として開かれました.

ホロコーストからガザへ2011/11/27 11:51

 2009年11月に発行された本です.イスラエルが,ガザで行なっている無法がどんなものかを読むには,かなりの精神力が必要で読み終わるのに今までかかってしまいました.

 イスラエルがパレスチナでやっていることは,本の帯にあるようにパレスチナ人の社会を壊すことです.幼い子供を殺すと言うことは,民族を滅ぼすことです.イスラエルは,まさにパレスチナ人を滅ぼすために様々なことをしていると言うことです.
 ある日突然,自分の家がブルドーザーで押しつぶされると言うことを想像できるでしょうか.自分の土地に建っている自分の家がです.畑のオリーブの木が,やはりブルドーザーでなぎ倒される.そして,それを誰も止めることが出来ないし,どこへも訴えることが出来ないのです.

 あれだけの悲惨な目に遭ったユダヤ人が,なぜこういう非道なことが出来るのか不思議でなりませんでした.この本を読んで少し分かったように思いました.
 イスラエルでは自分を守らないと,またあの悲惨な目に遭うという考えが広く行き渡っているそうです.ホロコーストを生き残った人たちは,自ら戦おうとしなかった弱虫と見られているそうです.ですから,ミサイル攻撃を受ければ,それの何倍もの反撃をする.虫が葉っぱを食べるように,西岸地区とガザ地区にユダヤ人の入植地をつくっていく.

 最後のサラ・ロイと除京植(ソ・キョンシク)の対話で,希望の芽があることが語られているのが救いです.


サラ・ロイ,ホロコーストからガザへ.2009年11月.青土社.2,600円(税別)


本の帯.