本の紹介:キーウの遠い空 ― 2024/02/03 11:48
オリガ・ホメンコ、キーウの遠い空 戦争の中のウクライナ人。中央公論新社、2023年7月。
「あの日のこと」から始まるこの本は、2023年5月で終わっています。ロシアがウクライナに侵攻する前の状況、戦争が始まってからことが述べられています。
ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)のなかのウクライナで生まれた著者は、十歳ころに日本の墨絵と版画に強い印象を受けました。ウクライナ語で書かれた日本の昔話を読んで不思議な思いを抱きました。
キーウ国立大学の文学部でウクライナ語学科に入った二年生の時に、ウクライナは独立しました(1991年8月24日)。これをきっかけに東洋学科ができ、迷わず日本語を学ぶことを決めました。最初60人くらいいた同級生は、卒業する時には2人でした。
日本に留学し福沢諭吉や日本の戦後の婦人雑誌の商品広告における女性のアイデンティティーにつて研究しました。
ロシアの侵攻以来、日本でもウクライナのことが色々報道されるようになりましたが、そこでは語りきれない部分が残っていると感じたので、このエッセイ集を出しました。
著者の思いは「ウクライナの人びとの心にどのような変化が起きたのか知らせたい」と言うことです。
令和6年能登半島地震・1ケ月報告会 ― 2024/02/06 21:01
2024年1月31日、能登半島地震が発生してから、ほぼ1か月が過ぎました。この日、防災学術連携体では「1ケ月報告会」を開きました。 すでに1月19日に緊急報告会を行っていて、3月25日(月)には『3ヶ月報告会、シンポジウム「人口減少社会と防災減殺」』を予定しています。
ここでは、1か月報告会の概要を紹介します。
2024年2月5日現在、この報告会の資料は、『防災学術連携体のホームページ>近年の自然災害に関する情報>最新情報>防災学術連携体「令和6年能登半島地震・1ヶ月報告会」』で入手できます。また、YouTubeで視聴できます。
1か月報告会のプログラムは次のとおりです。
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司会:米田雅子(防災学術連携体代表幹事)
田村和夫(防災学術連携体幹事・事務局長)
開会挨拶:大西 隆(元日本学術会議会長、東京大学名誉教授)
【セッション1:令和6年能登半島地震について】
日本地震学会「2024年能登半島地震と日本地震学会の取り組み」 山岡耕春(名古屋大学)
日本活断層学会「能登半島沖の海底活断層と変動地形」 後藤秀昭(広島大学)
日本地質学会「能登半島周辺海域の活断層」 岡村行信(産業技術総合研究所)
日本自然災害学会「令和6年能登半島地震による津波の発生と被害―今後の課題と教訓」 今村文彦(東北大学災害科学国際研究所)
日本地形学連合「山間地および沿岸部における地形変動と今後の見通し: 地形学の観点から」 松四雄騎(京都大学防災研究所)
日本第四紀学会「能登半島地震による海岸隆起と過去の隆起痕跡(海成段丘・生物遺骸)との関係」 宍倉正展(産業技術総合研究所)
質疑応答
【セッション2:地震に関連する情報と活用について】
日本計画行政学会・地理情報システム学会「令和6年能登半島地震発生後の情報通信技術の有効性と課題」 山本佳世子(電気通信大学)
日本地図学会「SNSの被災情報の地理空間情報としての活用」 古橋大地(青山学院大学)
日本地理学会 「津波浸水分布図の作成とその意義」 岩佐佳哉(大分大学)
質疑応答
【セッション3:被災状況と対策について】
土木学会「土木学会地震工学委員会の調査活動とインフラ被害」 小野祐輔(鳥取大学)
日本建築学会「令和6年能登半島地震被害(建物被害について)」 村田晶(金沢大学)
日本地すべり学会「令和6年能登半島地震を誘因として発生した地すべりの分布と特徴―空中写真等を用いた地形判読を基に―」 佐藤剛(東京都市大学)
地盤工学会「令和6年能登半島地震に係る地盤関連被害速報」 新保泰輝(石川工業高等専門学校)
日本火災学会「令和6年能登半島地震で発生した地震火災の概要」 廣井悠(東京大学先端科学技術研究センター)
質疑応答
【セッション4:避難・救援活動について】
日本災害医学会「令和6年能登半島地震への災害医療対応」 近藤久禎(厚生労働省DMAT事務局長)
日本災害看護学会「令和6年能登半島地震における先遣隊活動」 酒井明子(福井大学)
質疑応答
閉会挨拶 和田章(防災学術連携体代表理事、東京工業大学)
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<大西 隆氏>
能登半島地域は、60歳以上の高齢者が44%を占めます。避難生活中の生活の質(QOL)を確保することが重要です。半島の北岸が80kmにわたって隆起し、最大隆起量は4mに達しました。志賀原発では震度7、柏崎刈羽原発では震度6が記録されました。原子力発電所については慎重な検討が必要です。
<山岡耕春氏>
地震学会では2月に4回の懇話会を予定し、能登半島地震の情報を提供することにしています。
今回の地震前の2023年11月30日に地震予知連絡会は、非定常モデルを用いて余震活動の解析を行い、地震活動は衰えていないと結論しました。
今回の地震の余震活動は、余震の範囲が長く、1月1日には西端、1月9日には東端でマグニチュード6.1の余震が発生しました。
国土交通省などがまとめた日本海東縁の海底活断層図のF42とF43が動きました。国土地理院の地殻変動観測では、水平方向に最大2m移動しています。上下変動は最大1mでした。だいち2号のレーダー観測では2-4mの隆起が観測されました。
2024年1月20日時点での余震の累積頻度は、北海道南西沖地震と同じくらいの頻度となっています。
断層の破壊時間は40秒で、半島の下で断層が破壊しました。津波の大きさは想定内でしたが、1月1日の16時13分に富山で津波の第1波が観測されました。異常に早い到達時間で、海上保安庁の海底地形調査で海底地すべりと考えられる地形変化が観測されました。
日本海東縁の海底活断層については、繰り返し間隔が不明で評価ができていません。
<後藤秀昭氏>
航空レーザによるマルチビーム測深で海底活断層の調査を行っています。
能登半島の北岸の海底活断層は、氷期には陸上の活断層でした。
今回の地震では、半島北部の海岸が90㎞にわたり隆起し、海岸が100m-200m陸化しました。地震による隆起によって海成段丘は20万年前と13万年前に形成され、繰り返し活動しています。海陸一帯の地形図と変動地形の判読が必要です。
<岡村行信氏>
能登半島の地形は台地状の高まりで、台地には半島方向の凹地が形成されています。500万年前から逆断層の活動が始まり、350万年前から東西圧縮が顕著になりました。100万年前から活断層が活発化しています。
産総研が行った日本海東縁の海底活断層調査では、北海道から能登半島までは逆断層で変位が大きく、敦賀湾までは逆断層と横ずれ断層で変位は中程度、それ以西は横ずれ断層で変位は小さいです。
能登半島北岸の海底の調査は、2008年に漁船で反射法探査を行いました。北岸沖は南東傾斜の断層で、半島の先端沖は北西傾斜の断層です。富山トラフが構造境界となっています。
能登半島北岸の海底活断層沿いに今回の地震の余震が起きています。2007年の能登半島地震は南西部で余震が多く、今回は中部から北東部で多くなっています。
断層の評価は進行中で、北西岸沖では2万年で20m以上のズレなので、平均変位速度は1000年で1mm程度です。南西端は複数の断層があります。
<今村文彦氏>
国土交通省が2014年に「日本海における大規模地震に関する調査検討会報告書*」を発表しまた。
*報告書の概要は<Microsoft PowerPoint - 資料2概要説明資料0826.pptx (mlit.go.jp)>で見ることができます。
能登半島周辺の海底は、北東端は富山トラフにつながる谷で水深が深くなっていて、その南に飯田海脚という浅い海が広がっています。
日本で発表された過去の大津波警報の6事例中、今回の例を含めて3事例が日本海側です。日本海側の津波は、第一波が早い、最大波が後から来る、継続時間が長いという特徴があります。上越市では6mの津波が来ました。富山では引き波から始まっています。2007年の能登半島地震の時に海底地すべりが発生しましたが、今回も海底地すべりが発生しました。
珠洲市・三崎町は2000年前に創建されたと言われる須須神社があるところですが、迅速な避難をしたために住民全員が無事でした。最大遡上高は4-5mでした。上越では7m以上と言われています。
今回の地震について土木学会内の連携と情報の一元化のために対策本部を設置しました。
<松四雄騎氏>
能登半島は北側が隆起していて北岸の段丘は狭いです。能登半島北部で3,000箇所以上の崩壊があり、その面積は4.2×105平方メートル(?)です。崩壊は大起伏山塊の高標高域で多発しています。
震源断層からの距離と崩壊面積・起伏指数の関係を出しました。岩盤の節理、層理、風化程度、粘土鉱物の生成の有無などが作用しています。
崩壊地の土砂は降雨や融雪により二次移動する可能性があります。野町川の支流域で山麓土砂の移動が確認されています。
<宍倉正展氏>
今回の地震のあとの現地調査の結果、鹿磯漁港で3.8-3.9mの地盤の上昇がありました。これは、だいち2号のデータと整合的です。余効変動は顕著ではありません。
鹿磯漁港の北の海岸の波食棚の高さから半島北岸全体で6,000年間に3段の段丘が識別できました。一番高い段丘(L1)は標高6-7mで半島の西の方が高くなっています。L2段丘は標高5mほどで、L3段丘は2-4mです。
2007年の能登半島地震では半島西端の門前町付近のみが上昇しました。猿山沖では9世紀、12-13世紀に隆起しています。輪島沖は1729年の地震で隆起しています。能登半島では地震の階層性が見られ、セグメント毎に数百年間隔で地震が起き、M7以上の地震は幾つかのセグメントが連動して6,000年に3回発生しています。
セクション2およびセクション4でも興味深い講演がありました。以下、列挙します。
・志賀原発では情報がくるくる変わりました。
・地震による道路の寸断と光ケーブルの切断によって携帯電話が使えませんでした。衛星通信サービスを使えるようにする必要があります。
・人工地震であるだとか窃盗団が入ったとか流言がありました。情報に対するリテラシーが必要です。
・デジタル地図の利用が進み、オープン・ストリートマップもそれなりに使えます。
・述べ2,000人のボランティアによって建物、道路の被災状況のマッピングを行いました。
・地理学会では1月3日に公開された空中写真を用いて1月4日には被災カ所、津波遡上高や到達距離を公開しました。1月6日には半島北岸の標高、隆起量、海底地形、波源域のデータを公開し、1月9日に第3報、1月15日に第4報を出しました。舳倉島の津波浸水被害も明らかにしました。
・津波浸水範囲の予測には、地盤隆起を想定した図も必要です。
・建築学会では1月2日から調査を開始しました。
・建物倒壊を起こしやすいキラーパルスと言われる周期1-2秒の成分が卓越していました。
・旧耐震基準の建物が深刻な被害を受けています。
・地震による崩壊などは2,000カ所以上です。土砂ダムができたり集落が孤立したりしました。
・国道249号のトンネル坑口が被害を受けました。
・崩壊は急傾斜な斜面ほど崩れていますが、斜面傾斜30-35度に集中しています。
<感 想>
今回の地震は、半島先端部付近で大きな被害が発生した場合、緊急の対応をどうするかを考える必要を教えていると思います。また、地震による海岸の隆起で港が使えなくなるということも考えなければならない課題です。
南海トラフ地震が発生した場合の紀伊半島、相模トラフでの地震時の房総半島、千島海溝地震の時の襟裳岬周辺などが思いつきます。
防災学術連携体による総合的な検討は、非常に貴重な知見をもたらしてくれます。今回の報告会は1,800人の参加があったとのことです。この活動が大きく広がってほしいと思います。
北海道応用地質研究会 令和5年度技術講習会 ― 2024/02/11 10:30
2024年2月9日(金)13時50分から17時00分まで、令和5年度技術講習会・技術研修会「周氷河斜面の特徴と調査について」が、札幌市の「かでる2・7」で開かれました。主催は、(一社)日本応用地質学会北海道支部、北海道応用地質研究会、(一社)北海道地質調査業協会でした。zoomで視聴しました。
石丸 聡氏(エネルギー・環境・地質研究所):周氷河斜面の特徴と調査について
倉橋稔幸(としゆき)氏(寒地土木研究所):道路土工における周氷河斜面
海岸に面した急崖とその背後の緩やかな斜面とさらに背後の傾斜20度程度の平滑な斜面がセットになっています。急崖の途中から崩壊しました。
講演の概要を記します。
<石丸氏>
エネルギー・環境・地質研究所では「周氷河斜面調査マニュアル」を発行する準備をしています。2024(令和6)年度には発行したいと考えています。
1. 周氷河斜面とは
まず、周氷河斜面とは何かですが、一般的には氷河の周辺に分布する凍結破砕作用が卓越する地域に分布している斜面です。尾根は凍結融解作用によって丸みを帯び、斜面の形態は傾斜が20°〜30°の平滑な斜面です。この斜面では、面的な凍結破砕作用によって生産された土砂が緩慢に斜面を移動します。つまり、面的に土砂が生産されて移動するのが特徴です。
この土砂は角礫混じり細粒土で、粒径が不均質ですが弱い層理構造を持つ部分があります。多様な堆積物からなり明確な基準はありません。
現在、北海道ではトムラウシ山や大雪山に周氷河環境でできる構造土があります。8万年前から1万年前頃は、北海道全域が周氷河環境でした。
最終氷期(海洋酸素ステージ2)は約1万年前で、寒冷・乾燥気候でした。夏は豪雨が少なく河川による下刻作用が小さかったです。冬は水分の供給が少なく積雪は少ないという環境でした。日高山脈や礼文島にはこれらの時代の地形が残っています。
10年確率日降水量は、オホーツク沿岸では100mm以下です。2010年以降、雨の降り方が変わってきています。2014年8月24日には礼文島で豪雨が発生し斜面が崩壊して2人が犠牲になりました。
2016年8月17日〜23日には台風7号、11号、9号が、29日〜30日にかけて台風10号が北海道中部から東部を襲いました。国道274号の日勝峠で崩壊が発生し、羅臼町海岸町でも規模の大きな崩壊が発生しました。
海岸町の崩壊は、後氷期開析前線の上方に周氷河斜面があり厚い周氷河堆積物が載っています。高い所から崩れて遠くまで土砂が移動しました。
2. 周氷河斜面の特徴
周氷河斜面は、傾斜量図を作るとはっきりします。傾斜30度前後の平滑な斜面で、後氷期開析前線の上方に広がっています。
尾根付近は凸型縦断面を示し、岩屑生産域で土砂の厚さは1m以下です。その下は直線縦断面の岩屑移動域で土砂の厚さは3-4mです。末端は岩屑堆積域で段丘面上に堆積している場合、厚さは10-20mになります。
3. 堆積物の特徴
佐幌川支流のペケレベツ川の河岸で「周氷河性」堆積物を見ることができます。
層相は、角礫混じり褐色シルトで粒度が不均質、礫が覆瓦構造をとることがある、融雪期の流水によって局所的に層構造を取るといった特徴があります。段丘堆積物の上にこの堆積物が載っている場合があります。
これまでのボーリングの記載では、シルト質火山灰などと一括して記載されていますが、層相区分をする必要があります。
大きく分けると、1)角礫層、2)シルト質砂層、3)シルト層に分けられます。
斜面の上部と下部で特徴が異なり、クリープ変形をするため斜面下部で細粒になります。
日勝峠の札幌側9合目付近では9千年前の樽前dテフラの下に周氷河性堆積物が分布しています。
斜面方向に地中レーダー探査と簡易貫入試験を行った結果、堆積物の厚さは3m程度で斜面下部では6mほどの厚さになります。
その北の串内牧場の露頭では、シルト主体で砂が混じる層相で下位に砂、上位にシルトとなり、上位の層は粒度の山が二山(バイモーダル)になります。
4. 周氷河斜面の崩壊
周氷河斜面の崩壊には、1)浅層タイプ、2)渓岸タイプ、3)深層タイプ、4)ガリータイプがあります。
深層タイプの例です。
日勝峠9合目の崩壊は、侵食前線(後氷期開析前線)の上下を含めて深層タイプの崩壊が発生しています。侵食前線の上方で浅層タイプの崩壊が発生しています。
2014年8月の礼文島・高山の斜面崩壊は、海洋酸素ステージ5eの段丘堆積物の上に20mほどの厚さの斜面堆積物があり、その下部が崩壊しました。難透水層の直上が崩壊面でした。
2016年に発生した羅臼町・海岸町の崩壊は、斜面の下に5eの堆積物があり、その上に厚さ10m以上の斜面堆積物が載っていました。下から基盤岩である安山岩溶岩、段丘堆積物、細粒土、斜面堆積物の順に堆積しています。
斜面堆積物は透水性が中途半端で、悪くて良いといった状態です。斜面上方からの地下水による内部侵食が崩壊の原因です。
地下水位が限界を超えると斜面堆積物の性質が粘性土的な状態から砂質土の状態に変化し、急激な崩壊を引き起こしたと考えられます。
南富良野町の串内牧場の崩壊は、厚さ4mほどの斜面堆積物が下から上に向かって順次崩壊したと考えられます。
浅層タイプは、浅い谷型の崩壊でササやハイマツごと崩壊しています。上位の土層が水を含んで崩壊していて、樽前dテフラと黒土が崩れました。
ガリータイプは表土直下の地下で侵食が起きトンネルが形成され落ち込んでいます。上部谷壁斜面で発生しています。
5. 調査・分析手順
調査は次のような手順になります。
地形判読→地形地質踏査→簡易貫入試験などの試験→地中レーダー探査(電気探査)→高品質ボーリング
地形判読では地形区分を行い、周氷河斜面を抽出します。開析前線、傾斜量、斜面の平滑性、縦断面による斜面区分、微地形抽出を行います。DEMやレーザー測量図などを利用します。
注目点は、平滑性の固有値比が4以上の斜面、傾斜30度以上の斜面、微地形、谷頭凹地などです。
現地踏査では過去の崩壊・斜面変動の痕跡、パイピングホールの層準、黒土より下の地層の層厚、層序、層相、落ち残りの斜面などに注意します。
地質については層厚、色調、粒度、堆積構造、礫径、礫の円摩度、礫種、風化程度、礫の配列・基質との関係などのほかに、湧水やパイピングホールの跡などにも注目します。
簡易貫入試験は傾斜変換点に注意して位置を決めます。
地中レーダーは平滑斜面では土砂の厚さが割合よく出ますが、斜面下部では反射波が増えて複雑になります。
高品質ボーリングのコアは層相の細分化に有効です。場合によってはCTスキャナーにより構造を把握します。検鏡により層相の細分化を行います。
注意することはコアの洗浄です。
室内試験では、粒度分布、間隙比、飽和度などを求めます。簡易貫入試験からφを推定します。必要に応じて三軸圧縮試験(CUbar)を行います。
<倉橋氏>
道路土工指針には周氷河堆積物についての記述はありません。
2016年8月28日から31日に日勝峠で土石流を含む盛土・切土の崩壊が発生しました。ほぼ20カ所に上ります。
崩壊した切土のり面の勾配は、30-40度で1:1.5から1:0.8ののり勾配の所で崩れていて、18カ所が浅い崩壊でした。排水溝からのオーバーフローと のり面からの湧水が誘因でした。
切土のり面の崩壊は、伊東ほか(2017)が5つに分類しました。日勝峠での崩壊は、類型3と類型5に相当します。
類型3は、のり面小段排水溝からの溢水による崩壊で地表水の集中によるものです。
類型5は、斜面に堆積した土砂の含水比が上昇して崩壊するものです。この場合、のり面の途中から崩れ、のり面上方にガリー地形が形成されています。規模は小さいですが多数の崩壊が発生しました。
背後に周氷河性斜面があるので長大のり面を抱えた状態と言えます。 切土勾配は1:1.5より急勾配で、沢地形が斜面堆積物で隠されているので集水範囲の決定が難しいです。
対応方法としては、類型3の場合は、のり面の排水系統のレイアウトを変える、設計流量を見直すなどが考えられます。
類型5の場合は、地質の特性に応じたのり面勾配を検討する、暗きょ排水を検討するなどが考えられます。日勝峠の崩壊事例では、かご工の部分が崩壊していないので有効です。
のり面勾配の検討、層相変化を詳細に記載して堆積物の基質の固さを考慮することが大事です。道路土工指針の分類でいえば、「岩塊混じり砂質土の密実でない」に相当すると考えられ、1:1.0〜1:1.5の勾配が適用されますが標準化は難しいです。特に、湧水している場合は注意が必要です。
海外での周氷河堆積物は、礫主体の堆積物で砂・シルトの基質に角礫・亜円礫が含まれていて基質支持です。覆瓦構造を取る箇所があったり、粒径変化が大きかったりします。透水性は高く、せん断強度は低いです。弾性波速度は1.0-1.5km/secです。
礼文島の周氷河斜面堆積物の地山弾性波速度は、乾燥している部分は0.5-0.9km/sec、含水している部分では1.45km/secとなっています。
粘土が主要な堆積物で再堆積の粘土デブリが含まれています。斜面上方では岩に近い礫から構成されていて粘土の せん断面が認められます。
今後どう対応するかですが、斜面堆積物の記載を詳細に行うこと、適切な切土勾配の採用と水の処理を合わせて行うこと、堆積物中の含水比を上げない工夫をすることなどが考えられます。
<感 想>
2014年の礼文島での悲惨な崩壊からすでに10年が経過しようとしています。崖錐堆積物や段丘堆積物の崩壊とも違い、水を含んだ土砂が高速で流れ下るのが、周氷河斜面堆積物が崩壊した場合の特徴です。その典型が羅臼町・海岸町での崩壊で、町の職員が撮影した貴重な映像が残っています。
< https://video.mainichi.jp/detail/video/5712505304001 >
北海道の場合、ほぼどこでも火山があるので、火山灰が斜面堆積物中に挟まっているとすべり面になる可能性があります。
高品質ボーリングのコアを詳細に観察して水を通しやすそうな層や逆に不透水層を見分けることが重要です。
本の紹介:まちがえる脳 ― 2024/02/14 19:06
櫻井芳雄、まちがえる脳。岩波新書、2023年4月。
2024年1月2日、羽田空港で日航機と海上保安庁の飛行機が衝突する事故が起きました。この事故にもヒューマンエラーが絡んでいる可能性があります。
著者は「これまでにわかっていることは、人に働きかけ、人の集中力や行動を変えようとする方法には限界があるということである。(中略)最も効果的な方法は、工学的な対策、つまり装置や道具の工夫であるという。」と述べています。
以下、本書の概要の概要です。
脳のニューロンはシナプスを介して信号を受け取り、それが伝わっていきます。しかし、この信号伝達は30回に1回しか成功しないという頼りないものです。脳は、この伝達の低確率をニューロン集団の同期発火で補っています。つまり、脳は絶え間なく自発的発火を繰り返していて、リズムを持った揺らぎとして現れます。このような状態にある脳は、まちがえることは避けられません。
記憶がどうやって形成されるのか、ニューロンとグリア細胞が連なった神経回路の隙間にある間質液を通して情報が伝わっているらしいこと、などが説明されます。
脳は精密機械ではなく、神経回路の動作をデジタル信号の伝達だけに例えるのは不十分です。
なんといっても、心が脳の活動を制御できることが分かってきました。脳を制御する心が同じ脳から生じているにもかかわらず、制御される側の脳からは独立して働きうるのです。ニューロンの発火を自ら増減させることができるのです。
麻酔などによって特殊な状況に置かれた脳ではなく、生きている脳の活動について具体的で本質的な疑問が幾つもあります。例えば、
・脳が自発的に活動できる理由
・脳のなかの情報はどのように存在しているのか
・脳の情報伝達に基づく情報処理とは、どのような活動で行われているのか
といったことです。
<感 想>
脳の活動を電気信号の伝達としてだけ捉えることの間違いが強調されています。特に、脳では自らを制御する心が独立に働くというのは、人間を理解する上で非常に重要なことだと思います。
AIと人間の脳との違い、左脳と右脳の役割分担はどうなっているか、女性の脳と男性の脳の違いはあるのか、脳には使われていない部分がたくさんあるのか、などについて具体的に述べられています。
このような優れた機能を持つ脳がどうして生まれたのか、畏怖の念さえ持つようになる内容です。
本の紹介:ガザとは何か ― 2024/02/15 17:24
岡 真理、ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義。大和書房、2023年12月。
ガザを支配しているハマースというのは、イスラーム主義を掲げる、イスラエルからの民族解放を求める運動組織です。2006年のパレスチナ立法評議会選挙で多数を占め、政権を獲得しました。
これに対して、イスラエルは2007年にガザを完全封鎖し、現在もその状態が続いています。完全なイスラエルの植民地としているのです。
パレスチナの問題の核心は、「イスラエルとは何か」を建国の歴史から捉えることです。そして、イスラエルという国家とユダヤ人を同一視しないことです。
2023年の10月下旬に京都大学と早稲田大学で行われた講義をまとめ、同年12月31日に発行されたのが本書です。
二つの講演は下のQRコードから見ることができます。
ぜひ、多くの人が、本を読み、講演の動画を見て、声を上げてほしいと思います。
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京都大学での講演(YouTube)
< https://www.youtube.com/watch?v=8TtXbIi446I&t=1s >
45分ほどです。
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早稲田大学での講演(YouTube)
< https://www.youtube.com/watch?v=-baPSQIgcGc >
2時間ほどです。
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