本の紹介:地震による地すべり災害 ― 2020/09/21 15:41

「地震による地すべり災害」刊行委員会編,地震による地すべり災害-2018年北海道胆振東部地震.北海道大学出版会,2020年9月.
タイトルにあるとおり2018年9月6日の北海道胆振東部地震で発生した斜面崩壊についての諸論文を掲載しています.写真・図面類は,すべてカラーです.
「序章 地震動に起因する斜面崩壊」(若井明彦)から始まって「第10部 地震地すべりによる被害を軽減するためにまで」(田近ほか)まで,胆振東部時地震で見られたほとんどの現象について書かれています.
いくつか注目すべき論文を紹介します.名前の後の数字は章番号です.
廣瀬 亘,2.1 地形概要と表層地質・テフラ層序
今回の地震で,広範囲にわたる斜面崩壊が発生した原因は,内陸地震による強振動のほかに次のような原因が考えられる.
・樽前火山や恵庭火山のテフラ層が斜面にとどまっていた.
・テフラ層堆積斜面が傾斜20~30度で地震動をきっかけに崩落した.
・崩落後,斜面下部に到達する程度に厚くテフラ層が堆積していた.
・テフラ層を風化させるための表流水,地下水の集水地形が形成されていた.
池田光良・細谷卓志・阪田義隆,2.4 斜面崩壊における降下軽石層の地下水の役割
地震発生前1か月の水収支解析を行うと,かなりの量の地下水涵養量があった.このため樽前dテフラ中に宙水が発生したか過飽和に近い状態になっていた.この層の下位にローム化した樽前dテフラなどがあり,これらが素因となって斜面崩壊が発生した.恵庭aテフラや支笏降下テフラなどの難透水性層も同様の働きをした.
小俣雅志・下村博之・宮崎真由美,3.3 衛星データを使った斜面変動の判読
衛星写真の解像度が上がり航空機による空中写真と遜色のない情報が得られる.2018年9月11日に天候がよくなりSPOT6/7およびPreiadesによって斜面変動発生域全体の状況が把握できた.崩壊地の分布が把握できるだけでなく,崩壊地の色から崩壊発生源の違いを推定できる可能性がある.
序章を入れて54編の論文が形成されています.執筆者も多彩です.地震地すべりを考える上での重要な論文集です.
石狩川河口へ ― 2020/09/21 19:47
2020年9月19日,あまりに天気が良いので自転車で石狩川河口へ行ってきました.我が家から河口まで約25㎞,豊平川の合流点付近から舗装された左岸堤防道路を海岸へ向かいます.石狩河口橋からは堤防道路は草の道になり,石狩灯台付近からは砂地の道です.さすがに帰りの後半はバテてしまいましたが,モエレ沼公園を横断して帰ってきました.
写真1 茨戸川と札幌西部山地
蛇行する石狩川を生振捷水路(おやふる・しょうすいろ)で短くしたために残された蛇行部が茨戸川です.遠くに安山岩溶岩でできた手稲山などの札幌西部山地が見えます.
写真2 石狩河口橋
石狩川の一番下流の橋で,札幌から留萌に向かう国道231号 です.その昔は,もっと下流の石狩川河口左岸の砂州の上にある弁天町から対岸の八幡に渡る渡し船(フェリー)がありました.結構,川の流れが速いので,岸に沿って上流に向かい流されながら斜めに河を横断していました.
写真3 石狩河口橋から下流を見る
この付近は川の流れの幅が500mほどあります.川は湾曲して右手(北西)に向かいます.
写真4 石狩河口橋の翼
石狩河口橋は橋長1,413mあり,河川横断部が斜張橋になっています.斜張橋の部分の橋桁が風で揺れないように付けられた制振装置です.橋桁も,この部分は底面を鋼板で覆っています.
写真5 石狩川河口
石狩川河口を左岸から見た様子です.遠く増毛山地が見えます.右端の白い建物はごみ焼却場です.
写真6 石狩砂丘(1)
一面ススキの原です.中央やや左に石狩灯台,遠くに手稲山です.
写真7 石狩砂丘(2)
写真8 石狩‐無辜の民(1)
石狩浜海浜植物保護センターの南西,海岸沿いの舗装道路から細い道を入ったところにあります.本郷新の作品です.
写真9 石狩‐無辜の民(2)
写真10 光がさす
雲が多くなってきました.茨戸川と遠く左に藻岩山です.
写真11 雨が降っている
春香山の手前で雨が降っています.秋はこんな風景がよくあります.この後,雨に少しだけ降られました
安保法制違憲訴訟・北海道(控訴審)の第2回口頭弁論 ― 2020/09/23 09:13
2020年9月18日(金)午後1時半から札幌高等裁判所で表記「期日(きじつ)」が行われました.新型コロナ対策で傍聴者は22人に制限され,くじ引きの結果私は,はずれでした.
この日は,元最高裁判所裁判官の濱田邦夫さん(弁護士),元東京新聞論説委員兼編集委員の半田 滋さん(防衛ジャーナリスト)の証人尋問と3人の控訴人,平 和子さん,清末愛ささん(室蘭工業大学準教授),猫塚義夫さん(北海道パレスチナ医療奉仕団)の本人尋問が行われました.終了したのは午後4時半頃でした.
裁判が終わった後,近くの教育文化会館で報告集会が行われました.

写真 裁判が終わった後の報告会
中央の演壇から右に,猫塚氏,清末氏,平氏,一番右は弁護士の方です.左に高崎弁護士以下の弁護団です.
この裁判は,安保法制(平和安全法制:自衛隊法などの一部を改正する法律[平和安全法制整備法]と諸外国の軍隊等に対する協力支援活動などを定めた法律[国際平和支援法]の総称)は,憲法に違反しているということと憲法で保障されている平和的に生きる権利と人格権を侵害しているとして全国的に提起されているものです.
最大の問題は,裁判所が憲法判断を放棄していることです.この点については今回,濱田邦夫氏が裁判官の先輩として厳しく迫ったと報告されました.
自民党・公明党政権は,護衛艦「いずも」の空母化とF35Bステルス戦闘機の搭載,長距離巡航ミサイルの導入,イージス・システムを搭載したミサイル「専用艦」の建造などを計画しています.
このような状況の中で,この裁判の重要性はますます大きくなっていると感じます.
札幌市の創成川通の都市計画変更に関する説明会 ― 2020/09/26 14:45
札幌新道と札幌中心部を結ぶ国道5号・創成川通の改良工事についての説明会は,2020年9月に5会場で計8回開かれました.その最後となった9月23日(水)の栄西地区会館での説明会に行ってみました.事前申込者は22人だったそうで,多目的ホールは余裕の広さでした.

写真 説明会の会場の様子
多目的ホールで開かれました.左に座っているのが札幌市総合交通計画部長,右が説明をした担当課長です.札幌市のウェブサイトに載っている資料が配られ,パワーポイントで説明が行われました.
まず,札幌市の総合交通計画部の担当課長(多分,交通計画課長)から以下の説明がありました.
1) 創成川通の現況
2) 構造形式の比較・選定
3) 道路計画案の内容
4) 今後の手続き
1) について
・同じ規模のほかの都市に比べて最寄りの高速道路のインターチェンジが遠いというのがそもそもの出発点の様です.
しかし,これは功罪あって,駅のすぐ近くに高速道路の橋脚がそびえているというのはあまり感心したものではありません.博多駅がそれに近い状態になっていて,かなりの圧迫感があります.
・都心から札幌北インターチェンジへの移動時間が,夏は20分程度,冬は最悪60分かかるといいます.
しかし,冬でも60%ほどは40分未満で,20分未満が30%ほどです.今回の説明会で地元の人が述べていたところでは,朝の通勤時間帯でも渋滞に引っかかったことは,ほとんど無いとのことでした.
・大雪の時に渋滞するのは当然で,ほかの道路が渋滞すると予想して創成川通に集中するのだと思います.
・主要渋滞個所は5か所と説明がありました.この箇所を改良するだけでも渋滞は,かなり改善されるのではないでしょうか.
2) について
・地下整備(最大費用1,200億円,以下同じ),高架整備(1,200億円),上下分離整備(1,050億円),交差点改良(170億円)の四つの案が提示され,地下整備が第三者委員会で採用されました.これにもとづいて都市計画審議会に説明し実施することになります.
・経済性の観点からは交差点改良が他の案に比べておおよそ15%の費用で済みます.ですから,一般的な工法比較でいえば交差点改良が採用されます.なぜ,7倍の費用がかかる案を採用するのか説得力はあまりないです.なししろ,地下整備でトンネルが完成して短縮される時間は,8~10分とされています.
・今回の説明会で,コロナ後の社会をどうするかを考え直さなければいけない時期であり,一度立ち止まって再検討する必要があるという意見が出たのは当然でしょう.
・交差点改良でどの程度,時間短縮ができるのかを検討し,効果が薄いということであれば,ほかの三つの案を検討するというのが普通のやり方のように思います.
・交差点改良で示されているのは右折レーンの新設です.しかし,これだけ情報技術が発達しているのですから,全市的な交通状況を把握して信号を替える時間を時間,曜日,月の状況に応じて変化させることで渋滞は大きく改善できるでしょう.
・実際,交差点で横断車両が全くないのに長いこと赤信号で待たされるということは,日常的に経験することです.札幌新道から札幌駅あるいは大通までは道路は碁盤の目です.管理は比較的やりやすいと思います.
3) について
・高速道路から都心までの時間を短くすると言いながら,高速道路から直接,創成川通につながるのは小樽方面へ行く路線から中心部に向かう場合だけです.それ以外は今の北インターチェンジを利用します.用地の問題があり,どちらにも行けるインターチェンジを作ることができないためです.この点からも,信号機の連携を含めた交差点改良を真剣に検討すべきでしょう.
<感 想>
担当課長が丁寧に質問に対応していたことは評価できます.しかし,既定路線を変えるつもりはないようで,明言しませんでしたが新幹線が開通する2030(令和十二)年には利用できるように,ことは進むのでしょう.
費用対効果の算定はしていないと担当課長は言っていましたが,おそらく効果があるという数字は出てこないように思います.例えば,創成トンネル完成後の交通量は,地上部道路を合わせても以前より減少しているという結果が出ています.
今回の道路がつながる創成トンネルは,延長1,100mで172億円の事業費で公園整備に,さらに21億円かけています.創成トンネルは上下線合わせて2,200mですからメーター当たり約780万円かかっています.今回の事業は上下線合わせて延長9,000mで1,200億円ですから,メーター当たり約1,300万円です.
東京外かく環状道路で工事費が当初の1兆2820億円から大幅に増加し,2兆3575億円と1.8倍になるとの報道がありました.このようなことが無いよう,一度立ち止まって再検討するなど慎重な対応が必要でしょう.
あとは,維持管理にどの程度かかるかでしょう.地上の道路は残るのですから,余分な費用が掛かることになります.それも含めて考える必要があると思います.