「井尻正二展」記念講演会 ― 2020/01/29 14:39
1999年に井尻正二さんが86歳で逝去して20年が経ちました．
市立小樽文学館の企画展「没後20年 足裏で地層を読む人－井尻正二展」が開かれました．
この企画展に合わせて，記念講演会が 2020年1月18日（土）に同じ会場で開かれました．
写真1 記念講演会の様子
両側に井尻さんにまつわる様々な写真や展示物があります．右手奥の書棚に並んだ井尻さんの著作物は，専門的なものから哲学的なもの，そして漫画などの普及書と実に多彩です．
講演は，鶴見大学名誉教授の後藤仁敏（ごとう・まさとし）さん「小樽が生んだ科学者・井尻正二の生涯と業績」と足寄動物化石博物館館長の澤村 寛さん「井尻正二の科学思想－古生物学者の哲学探究を追う」でした．
写真2 講演する後藤仁敏さん
鶴見大学名誉教授・後藤仁敏さん「小樽が生んだ科学者・井尻正二の生涯と業績」
後藤さんと井尻さんの出会いは，1961（昭和三十六）年に井尻さんが書いた「自然と人間の誕生」という本でした．
井尻さんは1913（大正二）年に小樽で生まれ，中学まで小樽で過ごしたあと，東京の府立高校に転校しました．東大の地質学科を卒業し大学院に進みましたが，2か月で退学し東京科学博物館の嘱託となりデスモスチルスの歯の研究を行いました．
1949（昭和二十四）年に九州大学で学位を取得しましたが，この年レッドパージで国立科学博物館を退職しました．その後，東京経済大学に在籍しましたが，1969（昭和四十四）年に退職してからは著述に専念しました．1999（平成十一）年に86歳で逝去しました．
以上が井尻さんの生涯ですが，研究では実験を重んじ研究方法を深化させたことで有名です．また，科学方法論の研究も20才代から取り組んでいました．そして，何と言っても普及活動や研究・教育の条件づくりに身を以て取り組んだことで社会的に大きな影響を与えました．
写真3 講演する澤村 寛さん
足寄動物化石博物館館長の澤村 寛さん「井尻正二の科学思想－古生物学者の哲学探究を追う」
澤村さんは，信州大学，鶴見大学歯学部で，デスモスチルスの化石の研究から出発しました．1976（昭和五十一）年，足寄のデスモスチルスの発掘に参加しました．1991（平成三）年に足寄に移りました．
井尻さんは1941（昭和十六）年に古生物学の方法論を着想し，1945（昭和二十：井尻；32歳）年には草稿ができあがっていました．
澤村さんは古生物学の方法論から話を始めました．井尻さんは，最終的に古生物学に実験的手法を取り入れたことが大きな特徴であり，研究を進める指針として自ら古生物学の体系を作り上げました．
澤村さんはデスモスチルスの骨格標本を作成する過程で何度か修正を加えました．骨格標本を作る過程で，それまでの解釈の間違いが発見され，デスモスチルスは陸上を歩くことは出来ず，水中生活をしていたと考えるようになりました．
骨格復元はある意味，実験的方法と言って良いと思っています．そこでは，解剖学的な視点を持つことが重要になっています．
＜感 想＞
私が学生の頃，井尻さんが特別講義で北大に来ました．講義のあと，学生達に混じって野球をやりましたが，あまり上手でなかった印章があります．
それにしても，専門の古生物の分野は勿論のこと，科学方法論，哲学，そして普及活動まで幅広く本を書き，知識を広めた功績は正当に評価されるべきと思います．
中村哲先生 追悼の集い ― 2020/01/31 14:49
2020年1月25日（土），札幌エルプラザで「中村哲医師追悼」 「第13次パレスチナ医療・子供支援報告会」が開かれました．主催は「北海道パレスチナ医療奉仕団」です．
写真 パネルディスカッションの様子
一番左の立っているのが司会の坂東和之さん（北海道新聞），座っているのは左から，猫塚義夫さん（団長：医師），細川佳之さん（高校教諭），井上智美さん（看護師），米林 嶺さん（医療事務），宮岡慎司さん（医学生）です．それぞれ，医療団のメンバーとしてパレスチナのガザ地区で活動してきました．
第一部は「中村哲さんを悼んで」として猫塚義夫氏の短い話と中村医師のマルワリード用水路建設のビデオ上映がありました．
中村医師は，2019年12月4日に作業現場に向かう途中で銃撃され亡くなりました．パレスチナ医療奉仕団では，2011年5月に中村医師を招いて講演会を開いています．
第二部は猫塚氏の基調講演と北海道パレスチナ医療奉仕団の「第13次医療子供支援活動」の報告でした．
猫塚氏は，中村医師の次の言葉を紹介しました．
＊ことを思い立ったら，直ちに取り組んで下さい．
＊どんな小さな希望でもその実現のために力を尽くしなさい．
＊最初は小さなことでも継続すれば，現地の住民との信頼関係が生まれます．
さらに，
＊憲法は，我々の理想です．
理想は，守るべきものじゃない．
実行すべきものです．
パレスチナ医療支援の活動は，2011年1月〜2月に始めました．最初は，中村医師と一緒に現地を視察しました．2019年10月〜11月に行った「医療・こども支援」で13回目となりました．
現在，ガザはイスラエルによる完全封鎖が始まって13年目で「世界最大の天井のない監獄」となっています．燃料がなく発電が出来ない，建材・医薬品など物がない，若者の70％に職がない，自殺・身売りが横行しているという状況です．
そして，子どもたちはイスラエルの軍法で裁かれるという状況にあります．
パレスチナ支援活動の実際が報告されました．
清末愛砂氏の子どもたちへの絵画指導の様子，細川佳之氏のバレーボール指導です．
今回の活動で現地を訪れた3人の若者の話がありました．
＜講演を聴いて＞
中村医師が中心となって建設したマルワリード用水路は，インダス河の支流・カブール川のさらに支流のクナール川から水を取り，クナール川北岸一帯にかんがい用水を供給するために掘られました．用水路の取水口も用水路の護岸も現地で得られる石を使って造られています．
マルワリード用水路の取水口は，福岡県朝倉市の堀川用水路の山田堰を参考に造られたものです．この山田堰は，総石張りの堰として1790（寛政二）年に造られ，現在も取水堰としての役割を果たしています．
マルワリード用水路の護岸は，フトン籠（蛇籠も）が多用されていて現地の人と材料によって補修できるようになっています．
なお，中村哲氏（ペシャワール会）は，2018（平成三十）年6月に土木学会から平成二九年度技術賞（I グループ） を受賞しています．受賞事業名は「アフガニスタン・クナール川下流域の灌漑事業」です．下の土木学会のウェブサイトを見て下さい．分かりやすい地図と写真が載っています．
（ https://www.jsce.or.jp/prize/prize_list/2_gijutu.shtml#s2016 ）
中村医師の活動は，日本が果たすことの出来る国際貢献の見本です．猫塚氏の活動も中村医師の活動に触発されてのものと思います．現地の人々に希望を与えると同時に日本国内へも大きな影響を与えたことは，中村医師の活動の偉大さを物語っていると思いました．
猫塚氏を中心としたパレスチナ支援には，若い人が関わっているのが印象的でした．パレスチナの現状を見聞きするにつけ，地道な支援活動が続きパレスチナが平和になることを願わずにはいられません．
