高岡晃教氏「自己か非自己か、それが問題だ!?」 ― 2014/11/19 10:27
日本技術士会北海道本部の講演会です。講師は北海道大学遺伝子病制御研究所・所長の高岡晃教氏です。2014年10月31日(金)にホテルポールスター札幌で午後3時から5時まで開かれました。

挨拶する能登繁幸日本技術士会北海道本部長
人の身体には「自分と他人」を見分けて,他人(非自己)を攻撃して排除し,自己を守る免疫という仕組みがあります。
遺伝子の基礎的知識の説明から始まって,インフルエンザワクチンの話,エボラ熱やHIVなど具体的な事例について説明がありました。

講演する高岡晃教氏
非自己である病原菌やウィルスを攻撃するのはリンパ球です。このリンパ球は骨髄でつくられ,食道の周りにある胸腺で異物を見分ける訓練を受けます。いろいろな細菌に対抗するために抗体タンパク質は部品を再構成して対応します。リンパ球は病原体を記憶(免疫記憶)するので天然痘のワクチンが,まず開発されました。予防接種はこの免疫記憶を利用したものです。
ところが,この免疫記憶にも泣き所があります。インフルエンザウィルスや風邪の細菌は,変異をして形が変わるために免疫記憶が発動しなくなります。
インフルエンザウィルスは,ヘマグルチニン(HA)と呼ばれる角(つの)とノイラミニターゼ(NA)と呼ばれる角があり,HAで細胞表面に吸着し細胞内に入っていきます。ここで増殖してNAが細胞壁を壊してほかの細胞へと広がっていきます。タミフルやリレンザはNAの活動を抑制します。しかし,インフルエンザウィルスのNA遺伝子が変異してしまうとタミフルが効かなくなります。
ヘマグルチニンはH1〜H16まであり,ノイラミニターゼはN1〜N9まであります。H1N1と言う具合に,これらの組み合わせでインフルエンザウィルスのタイプが決まってきます。
エボラウィルスは,症状の出ている患者の体液などに直接触れることで感染します。ワクチンや治療薬がなく,対症療法しかありません。
HIV(ヒト免疫不全ウィルス)は,リンパ球に取り付いて働かなくさせます。そのために免疫機能が低下し,健康なときには罹らなかった,いろいろな感染症にかかってしまいます。
正常細胞の分裂回数は,50〜60回と有限です。ところが,がん細胞は無限増殖します。例えば,1951年に採取された子宮癌のがん細胞が今でも増殖を続けています。感染症を起こすの微生物は「非自己」と認識され免疫応答が発動されますが,がん細胞は「自己」であるため免疫応答が弱く,がん細胞は増殖します。結核患者にはがんが少ないという現象から,自然免疫系を活発化させることでがんに対する免疫応答を強化できる可能性があります。
非常に分かりやすい講演でした。
第28回寒地土木研究所講演会 ― 2014/11/19 10:42
2014年11月7日(金)に,札幌市の「かでる2・7」で,表記講演会が開かれました。
基調講演:
菅井貴子氏(気象予報士)「変化する北海道の冬の天候」
一般講演:
山元泰司氏(寒地土研・寒冷沿岸域チーム)「流氷期の津波防災・減災に関する研究」
山梨高裕氏(寒地土研・寒地地盤チーム)「北海道における地盤防災に関する研究」
石塚忠範氏(つくば中央研究所 火山・土石流チーム)「最近発生した土砂災害とその対応について」

講演する菅井貴子氏
菅井氏の講演
北海道の雪の予報は非常に難しい。札幌に西には手稲山があるため西風が吹く時は札幌にはあまり雪は降りません。北風が吹くと石狩湾から石狩低地へと風が抜けて札幌に雪が降ります。
日本の気象観測は,函館(函館気候測量所)で1872(明治5)年に始まったのが最初で,東京(東京気象台)が1875(明治8)年,札幌(札幌農学校)が1876(明治9)年です。
現在の気象予報の的中率は85%とされています。雪の多い北陸では雪雲の下で雪が降ります。ところが,北海道は気温が低いために雪が風で流されるので地上の風も考慮に入れて予想しなければなりません。
冬型の天気である西高東低になった場合,北海道に等圧線が4本かかると風が強くなります。6本かかると猛吹雪になります。また,北海道南岸を低気圧が通ると千歳市など太平洋側に大雪が降ります。石狩湾で発生する低気圧は,局地的であるため予想が非常に難しいです。海水温がどの程度かも効いてきます。
この100年で最低気温が2.3℃上昇しています。一方,北極海の氷が減少していてシベリア高気圧からの風が吹き出してきて,北海道は寒くなっています。根雪の始まりは年々遅くなっています。
北海道の冬は資源にもなります。例えば,地中熱を利用すれば一年中15℃程度の快適な温度を保つことができます。
山本氏の講演
北海道は津波の常襲地帯であり,近年だけを見ても1993年の北海道南西沖地震以来,2011年の東北地方太平洋沖地震まで6回の津波に襲われている。北海道の流氷期の津波では,構造物への流氷の衝突力などの津波リスクについて考慮する必要がある。また,河川が結氷している場合は,その氷が遡上してくる。その他に,津波で運ばれてきた氷が構造物の隙間を埋めてしまい作用外力が増大したり水位が上昇したりするアイスジャムが発生する。建物などに衝突した海氷が重なって高く積み上がるパイルアップも考慮しなければならない。
山梨氏の講演
北海道には泥炭が広く分布する。日本の泥炭の6割に相当する。泥炭地域では盛土の破壊や大きな沈下が発生する。また,北海道の総面積の約4割は火山灰質土である。工学的性質が特殊・多様で地震時には液状化が発生する。寒冷地であるために切土のり面で凍上や凍結融解によりのり面崩壊が発生する。
軟弱地盤上の盛土では,地盤の圧密沈下によって盛土体を構成する砂質土が基礎地盤にめり込んだ状態になっている。地震が発生するとこの砂質土が液状化を起こして盛土が破壊される。対策としては,盛土のり尻にフトン篭を積んで盛土のり尻の泥濘化を防ぐのが有効である。
軟弱地盤の杭基礎が地震により被災するのを防ぐ方法に増し杭工法がある。しかし,この工法は時間とコストがかかる。これに対して,橋脚などの周辺を地盤改良して複合地盤杭基礎(コンポジットパイル工法)とすることで,より経済的に耐震性を高めることができる。
土の凍上現象というのは,土が凍結するとき地盤中にアイスレンズ(凍った水の薄層)が形成され、この層が成長して地盤が隆起する現象である。土の凍上の要因としては,土質,土中の水分,気温がある。
対策としては,アンカーやロックボルトの受圧版が土の凍上に追随するようにバネを設置するという方法がある。
小段排水に地中水が集中して凍上が発生することが分かってきた。これを防ぐため,小段排水のトラフ下などに断熱材を設置することが効果的であることが分かってきた。また,排水路をフレキシブルな構造とすることも有効である。
石塚氏の講演
2013年から2014年にかけて発生した土砂災害の特徴や今後の課題について述べる。
2013年伊豆大島災害では,39名が亡くなり全壊家屋50棟などの被害が発生した。大島観測所での24時間雨量は800mmを越えたが,その北3.6kmの地点では400mm程度の降雨であった。土砂崩壊は火山灰とレス(風成層)の互層のレス層上面で発生している。砂防ダムがあったが土石流は小さな尾根を乗り越えて別の沢を流下して被害が拡大した。住民避難では「直ちに身を守る行動」を起こして2階に避難して助かった人もいた。
2014年7月9日に発生した南木曾町の災害ではスリットダムなどの砂防施設が被害軽減に効果を発揮した。古い地名(蛇抜け沢)は土石流が発生しやすいことを示していた。
2014年8月の丹波市の災害では源頭部で崩壊が発生していた。
2014年8月20日の広島市の土砂災害では70名が死亡し18名が行方不明となった。この災害では二次災害が発生しないように避難指示をいつ解除するかが問題であった。
インドネシアのアンボン島の土砂ダムの決壊に向けた避難態勢を構築した。土砂ダムの下流には人口約5,000人の集落があったが,土砂ダム決壊による死者は2名だけであった。