小澤一郎氏の講演「低炭素都市の実現に向けて」2010/04/27 14:07


講演する小澤一郎氏

 2010年4月9日(金)に日本都市計画学会 低酸素社会実現特別委員会 委員長の小澤一郎氏の標記の講演がありました.
 小澤氏は東大工学部都市工学科を卒業して旧建設省に入り,都市計画に携わってきました.小澤氏の都市計画に対する考えは,都市計画は社会・経済的施策を地域という空間に統合的に実施するものであると言うことです.
 そのために,今は低炭素都市を目指すというのが一つのキーワードであるというのが今回の講演です.

 現在,2020年に二酸化炭素排出量を25%削減(1990年比)することが目標となっているますが,そのためには都市・地域の複合的効果,短期・中期の国土計画や都市計画の取り組み,都市規模の政策課題と低炭素化を結合させることが不可欠と,小澤氏は考えています.

 海外では,オランダのハーグやロンドンの事例が紹介されました.
 国内では千葉県柏市の温暖化条例による町づくり,東京都千代田区の省エネ対策プログラムの展開などが紹介されました.

 長野県の飯田市では,公共施設を低炭素エネルギーのセンターとして整備し,そこを中心に半径100m 程度の範囲を一つのまとまりとして,低炭素型地域エネルギーシステムを構築する計画が進行しているとのことです.
 飯田の場合,燃料として木質ペレットボイラーと太陽熱の統合システムによって50%以上の炭素削減を目指しています.飯田の周辺には木材は豊富であること,太陽熱による給湯システムはローテクであるため飯田くらいの町であれば町工場で製作が可能であること,と言った利点を利用できます.

 地域の将来像を共有しながら地域の経済が活性化する(実利が得られる)方法を見つけ出すことが重要と言うことでした.

*非常に興味深い講演でした.日本には街路計画はあっても都市計画はないのではと思っています.ですから,飯田市のような試みが成功して全国に広がり,落ち着いた住みやすい町のネットワークができたらと思います. 


気候変動の本「不機嫌な太陽」の紹介2010/04/27 15:35


本の表紙(原題:The Chilling Stars)

 H.スベンスマルク,N.コールダー著「不機嫌な太陽 気候変動のもう一つのシナリオ」(2010年3月刊,恒星社厚生閣)は,宇宙線による気候変動の仕組みを分かりやすく解説した日本で初めての一般向けの本だと思います.

 宇宙線により地球の気候が寒冷化する仕組みは次のとおりです.温暖化はこの逆の状態で発生することになります.

 宇宙線の大量発生
    ↓
 太陽から放出される荷電粒子である太陽風が弱まる
    ↓
 ミューオンのような重い宇宙線が地表近くまで到達
    ↓
 宇宙線と空気との衝突で電子が発生
    ↓
 電子が雨の核となる硫酸ミストを形成
    ↓
 高度3,000m 以下の低い雲が発生
    ↓
 太陽光線が遮られ寒冷化

 こう書くと単純な話ですが,これに関わっている分野は非常に多岐にわたっています.
 
 まず,宇宙線の大量発生ですが,一つは超新星の爆発があり,もう一つは太陽系が銀河の渦状腕の中にいる時です.
 太陽系は銀河の回転とは異なる速度で運行しているため,銀河の渦状腕(宇宙線が多い)の中に入ったり出たりしながら運動しています.また,銀河回転面を上から下へ,下から上へとイルカのように飛び跳ねて運航しています.このようなことが原因で宇宙線の大量に浴びる時期とそうでない時期があるというのです.
 超新星についての議論は,私にはよく理解できないところがあります.

 太陽風は,通常は海王星までの距離の5倍程度までの拡がりを持っていて宇宙線の進路を妨害します.そのために地球に到達する宇宙線は50%程度に減少します.この太陽風の強さにより宇宙線量が変化します.

 太陽磁場(黒点数)は約11年周期で変動していることはよく知られています.太陽の活動が活発な時には地球は宇宙線から守られます.さらに,地球磁場のためにエネルギーの弱い宇宙線は地球に到達しにくくなります.

 このような障害を通り抜けてきた宇宙線が地球表面近くまで到達し,大気中で電子を発生させます.この電子が雲(水滴)の発生の核をつくる促進剤となると言うことです.
 観測結果では,低層(680hPa 以上)では雲量の増減と宇宙線の増減とが一致しているが,中層(440-680hPa),高層(440hPa 以下)では一致していない.

 宇宙線による雲の発生機構についてはウィルソンの霧箱の原理を使って著者らが実験を行いました.

 また,銀河の中での太陽系の位置と地質時代の気候変動との関連を追及する研究も進行中です.「全球凍結」もこの宇宙線の考えで説明できるとしています.

*内容は多岐にわたり十分理解できないところもあります.しかし,かなり説得力のある説であることは間違いないと思います.
 また,著者のスベンマルク氏を含むグループは,学会で様々な反論にあっているため気候変動の予測については非常に慎重で,予測はできないというのが結論のようです.ただし,課題は何かと言うことは明示されています.

 最後に,訳が十分な日本語になっていない,意味が取りにくいのが残念です.

【END】