第61回試錐研究会2023/03/07 15:01

 202333日(金)1330分から1720分まで北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所主催の表記研究会の講演会が開かれました。会場は「かでる2.7」のホールでした。私は、Zoomによるオンラインで視聴しました。

 

 講演者と講演題目は以下のとおりです。今回は8件の講演のうち7件が温泉関連でした。

 

石井啓滋氏(株式会社レアックス)

高解像度ボアホールカメラの活用

山本 勇氏(大地コンサルタント株式会社)

白金温泉21号井新設工事結果報告

平石朋香氏(株式会社物理計測コンサルタント)

薮田明野(石油資源開発株式会社)

船坂智也(弟子屈町役場)

温泉モニタリングシステム〈おゆれこ〉の活用について

~弟子屈町における持続可能な温泉事業~

廣田 栄氏(長万部町役場)

長万部町と水柱対応について

林 圭一氏(北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所)

温泉に付随する可燃性ガスの利活用に向けて

-北海道内の温泉付随ガスの現状把握と地質学的背景-

坂上寛敏氏(北海道国立大学機構北見工業大学)

温泉に付随する可燃性ガスの利活用に向けて

-メタン直接改質反応による北海道内の温泉付随ガスからの水素生成-

 

 幾つかの講演の概要を記します。

 

山本 勇氏

 美瑛町の白金温泉では現在6源泉が稼働中で総湯量は1,070L/minです。このうち、1988年に掘削された白金18号井は、新設当時300L/minであった揚湯量が約13L/minまで減少していました。そこで18号井から130mの位置に白金21号井を掘削することになりました。井戸深度は501.5mで、スクリーン有効長は125mです。

 揚湯試験の結果、適正揚湯量は350L/min 以内と判断しました。計画揚湯量を300L/minとしたばあい、10年後の動水位は深度約83mとなり、安定して揚湯が可能と判断しました。その時の泉温は約56℃と予想されました。

 周辺にある泉源への影響は、ほとんど認められないことが確認されました。

 温泉の枯渇を防ぐためには適正な揚湯量を見極めて利用計画を立てること、定期的な点検を行い異常があった場合、適正な対策をとることが大事です。そして、温泉に問題が起きた時、地域全体で課題解決に取り組むことが重要です。

 

平石朋香氏・薮田明野氏・船坂智也氏

 「おゆれこ」というのは温泉モニタリングシステムです。温泉の泉源井戸の水位、温度、pH、電気伝導度、配湯する各所への流量、各所の貯湯タンクの湯量などを連続測定します。これらのデータをリアルタイムで遠隔地からモニタリングすることができます。

 弟子屈町では町の中心部付近に新たに地熱井(中央井)を掘り、バイナリー発電を行い公共施設に電気を供給し、発電で使った熱水を暖房用に供給し一般住宅の浴用に活用する計画を立てました。周辺にはいくつかの温泉井戸があり、そのモニタリングに「おゆれこ」を活用しました。1~2カ所の坑井で新しい坑井掘削時と噴出試験時に影響がみられましたが、影響は軽微と判断しました。

 中央井が使えるようになるまでは、1982年以来6号源泉から300L/min給湯しています。この給湯管理に「おゆれこ」を使っています。これによって、現地に行かなくても流量・温度などが確認できる、複数の施設の情報が同時に把握できる、水位低下・揚湯停止などの警報を出すことができ、事故発生時に迅速に対応できるなど、管理が格段にやりやすくなりました。

 新しく掘削した中央井が稼働すれば、バイナリー発電に使った後の温度90℃、500l/minの熱水を既存の給湯網や新しい複合施設に供給できます。

 

廣田 栄氏

 長万部町では1955年(昭和30)に試掘した井戸から温泉が湧きだしました。1959年から天然ガスの供給を始めました。現在、992戸に約27万立方メートルを供給しています。ガスは黒松内層の上部に貯留している水溶性ガスで、3つの坑井が稼働しているほか予備井が1坑あります。

 今回、水柱が噴出した井戸は、昭和36年に2日間噴出した履歴があります。21.5℃の低温泉水(食塩泉)で、メタンを主成分とする天然ガスが含まれています。水柱の高さは30mです。

 水柱の影響は、噴出水のしぶきが民家にかかる、噴出地点で100db、近くの住宅地で70dbのごう音、不安といった一次的な影響がありました。そのほかに、見学者が押し寄せたこと、報道取材が行われたこと、路上駐車による交通渋滞といった二次的影響がありました。

現在は、噴出した井戸の上に噴出水採取器を設置し、脇にガスセパレータータンクを置いています。

 今後の課題としては、噴出した井戸の崩壊、埋没状況の確認、裸孔部の孔壁保護、ガス供給源の確認、ガス量・ガス水比・ガス組成などのガス評価、長期間にわたって井戸の状況を観測することがあります。

 

<感 想>

 「おゆれこ」は、非常に便利なシステムだと思いました。常時の監視手段として有効ですが、例えば、温泉群のそばで工事をする場合の監視に使ったら労力が大幅に減るだろうと思います。泉源は観測しにくい状態にあることが多く、定期的に観測を行うのは結構大変です。

 長万部の水柱の話は、非常に分かりやすく面白い内容でした。温泉が湧いた時に露天風呂の写真や温泉街として栄えた様子などガスと温泉とともに暮らしてきた町であることがよく分かりました。現在もガス田として町が事業を行っているのは知りませんでした。


本の紹介:世界で最初に飢えるのは日本2023/03/10 11:50

世界で最初に飢えるのは日本

鈴木宜弘、世界で最初に植えるのは日本。講談社+α新書、202211月。

 

 核戦争によって「核の冬」になった場合、日本の餓死者は72百万人(日本の人口の六割)と推定した研究があるという書き出しから始まります。日本の食糧自給率は37%といわれていますが、作物の種、肥料の海外依存度を考えると、日本の自給率は10%の届かないのが現状です。

 お金を出せば食料を輸入できるという前提の食料安全保障は、今や通用しなくなっています。

 具体的にはアメリカの穀物メジャーや農薬会社が日本を含めた世界の農業を儲けのために破壊しているのです。その具体例が色々と述べられています。

 安全保障の点からも、国内の農業は国が全面的に支援して守り、自給率を上げることが重要であることを強調しています。アメリカを含め先進国は、国が全面的に価格補償を行い、自分の国の農業を守っています。

 

食糧問題に関心のある人、健康な食生活をしたい人、さらに日本が本当に独立することを願っている人には、ぜひ読んで欲しい本です。

 

 



本の紹介:「新しい資本主義」の真実2023/03/14 15:10

新しい資本主義の真実

萩原伸次郎、「新しい資本主義」の真実日米における新自由主義経済政策の歴史と転換。かもがわ出版、20232月。

 著者は、横浜国立大学経済学部の教授、同学部長をつとめ、現在は名誉教授です。

 

 202110月に発足した岸田文雄政権は「新しい資本主義」という言葉で政権の経済政策を明らかにしました。その中長期的成長戦略は、1)インベーションと科学技術、2)デジタル田園都市国家構想、3)気候変動問題、4)経済安全保障です。分配政策としては、1)看護・介護・保育の給与引き上げ、2)民間企業の給与引き上げのための支援=税額控除、3)男女が希望通り働ける社会づくり、4)社会保障による負担増の抑制などです。

 この成長戦略の特徴は、経済成長があれば分配があるという新自由主義経済政策の典型です。

 

 しかし、この政策が失敗であることは、財務省の「法人企業統計」に、はっきりと表れています。図1は、長周新聞デジタル版の2021318日の記事からとったものです。配当金は2001年から2019年までの18年間に約6倍になっていますが、一人当たりの労働者賃金は減少しています。2001年と言えば小泉内閣が成立した年です。

 この本の107ページには、2020年までの同じ統計グラフが載っています。ちょっと見にくいので、こちらのグラフを載せました。

 



大企業の配当など

1 資本金10億円以上の大企業の配当金・経常利益・内部留保・役員報酬・一人当たりの労働者賃金の推移

2001年が1.0;金融・保険業を除く:長周新聞、2021318日より)

 

 この本では、J.M.ケインズの考え方の説明から始まり、バイデン大統領の経済政策まで述べています。世界の動き、特にアメリカの経済政策との関係で、日本が採用してきた経済政策が述べられています。


 実体経済を強くすることがポイントだと言うことです。その意味で、「資産所得倍増計画」を世界に宣伝している岸田内閣の「新しい資本主義」は何も新しいものではなく、アベノミクスの延長上の経済政策です。


本の紹介:教養としてのラテン語の授業2023/03/25 10:21

ラテン語の授業

ハン・ドンイル、教養としてのラテン語の授業−古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流。ダイヤモンド社、20229月。

 

 手元に置いて、気になった時に開いてみたい本というのは幾つかあります。ラテン語を通してリベラルアーツの源流を探るというこの本は、そんな本の一つになりそうです。

 

 キケロはこう言ったそうです。

 「純粋なラテン語ができることが素晴らしいというよりは、できないことがみっともないのである」

 ローマ帝国の公用語であったラテン語を正しく操れない人は、みっともないということです。

 ラテン語は文法が非常に複雑で、「ラテン語の勉強とは、平凡な頭脳を勉強に適した頭脳へと活性化させ、思考体系を広げてくれるのです」(本書p020)。

 

 この本の魅力は、ラテン語に関する知識を得ることができることよりも、宗教とは何か、毎日をどうやって生きるか、といったことについて、著者の経験を踏まえながら語っている点です。著者のラテン語の授業が評判になり、多くの大学生が聴きに来たというのもうなずけます。

 

 高校生以上であれば、十分に理解できる内容です。この本を読んで本格的にラテン語を勉強してみたい−かなりの困難を覚悟して−と思う若い人が出てくるかもしれません。