地層処分技術を考えるシンポジウム20252025/09/30 13:58

 2025923日(火)、13時から16時まで、NUMONuclear Waste Management Organization of Japan:原子力発電環境整備機構)主催の表記シンポジウムが、サッポロファクトリーのホールで行われました。

 なお、NUMOを正確に訳せば、「核廃棄物管理機構」とでもなるでしょうか。

 

 プログラムは次のようでした。

 

開会挨拶:山口 彰氏(原子力発電環境整備機構 理事長)

招待講演[1]:ステファン・マイヤー氏(国際原子力機関(IAEA) 原子力局 放射性廃棄物処分部門 チームリーダー):A global perspective on geological disposal;国際的な視点から見た地層処分

招待講演[2]:德永朋祥(ともちか)氏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授):地層処分の観点からみた日本の地質環境特性

講演[3]:柴田雅博(原子力発電環境整備機構 理事);日本における地層処分技術の進展と現状

 

 三氏の講演の後のパネルディスカッションでは、佐藤 努氏(北海道大学大学院 工学研究院 教授)がファシリテーターを務め、冒頭

千木良雅弘氏(京都大学名誉教授、公益財団法人 深田研究所 顧問)が「高レベル放射性廃棄物地層処分場の立地選定」と題して講演しました。

 

 以下、講演内容の概要を記します。

 

<ステファン・マイヤー氏>

 

 放射性廃棄物の処理は解決方法があり、社会的に重要な課題です。

 フランス、日本はガラス固化による処分を選びました。

 この10年、放射性廃棄物処分については、ポジティブな傾向が見られます。

 ノルウェーでは政府が地層処分を許可しました。カナダは、オンタリオ州のイグナスに深地層処分場を建設することを決めました。アメリカのラスベガスの北西約160kmにあるユッカマウンテンは、計画が凍結されています。フィンランドは2026年に建設をはじめる計画で、スウェーデンは建設中です。フランスは可逆性のある、つまり後戻りのできる地層処分を行うことになっています。処分実施主体は放射性廃棄物管理機関(ANDRA)です。

 これらの決定では、住民合意が重要です。

 

 フィンランドではPosiva社が、オンカロで2024年にコールド試運転をはじめました。二つの破砕帯に挟まれた地下500m1.2万トンの放射性廃棄物を埋めます。地質は約19億年前の結晶質片麻岩です。

 フランスでは堆積岩の地域にトンネルを掘ってベントナイトでシールして埋設しています。

 アルゼンチン、チリ、オランダ、韓国、ベルギーで許可が下りるのを待っています。

 

 日本は、2023年に地層処分の方法が国際的な安全基準に合致していると判定されました。

 重要なことは、利害関係者(ステークホルダー)との関わりと国際的な協力です。その土地の文化を理解し尊重することが重要です。

 スイスでは、うまくいかない場合、地域レベルで解決する方法をとっています。計画を実行するプロセスでは、一緒に学び、時間をかけて方向性を明らかにすることです。

 

德永朋祥氏>

  

 地下水学、地質工学が専門です。

 

 核廃棄物の地層処分に関する検討は、1976年以降核燃料サイクル開発機構を中心として検討されてきました。

 1999年に「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発第2次取りまとめ」が出されました。

 2011年の東日本大震災の後、日本学術会議、原子力委員会の提言が出されました。ここでは、評価の重要性が指摘されました。

 2014年から2017年に再評価が行われ、2017年に科学的特性マップが作成されました。

 2022年から2024年にかけて放射性廃棄物処分の考え方の整理が行われました。

 そこでは、1)無害化する、2)放出に当たっては希釈・分散し環境の自浄能力に期待する、3)濃縮・減容して隔離する、の三つの考えが示されました。その際、利用可能な最良の技術(Best Available TechnologyBAT を用いた処分を行うこととされました。

 

 NUMOが処理する高レベル放射性廃棄物は4万本です。国内にはすでに2.5千本のガラス固化体があります。さらに使用済み燃料は、ガラス固化体換算で約2.7万本相当がすでに存在しています。

 

 高レベル放射性廃棄物は、地下深部へ埋設して処分しようと計画しています。

 地下深部は、1)酸素が少なく化学反応が進行しにくく、ものが変化しにくい、2)地下水の流れが遅いのでものの動きが遅い、3)地上の影響を受けにくい、という特徴があり、工学的に適切な処理が行えます。

 地質環境特性としては、熱環境、力学場、水理場、化学場があります。このうち、熱環境、力学場、化学場については十分なデータがすでにあります。水理場については不明な点が多いです。

 

 地質的問題としては、火山、断層、隆起・侵食があります。複数の問題が生じることも考える必要があります。これについては、サイト決定後に検討します。さらに、計画進行の各段階で評価を行い、回避すべき対象を特定します。

 2017年に作成した科学的特性マップは、日本全体を統一的な基準で評価することを優先しました。約4万本のガラス固化体を収める処分場は、3km3km程度の広さになります。

 

 段階的な調査の進め方は、文献調査、概要調査、精密調査と進み、処分場の選定を行います。

 文献調査では評価を行い修正します。処分場としての不適地は排除します。


 スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)では、サイトごとの透水性を一目で比較できる図を用いています。大事なことは住民の理解の醸成です。地震は少ないですが、深さ300mの地質をどうやって知るかが問題です。処分場決定のプロセスには柔軟性が必要で、立ち止まって必要であれば戻ること(可逆性)が必要です。

 

<千木良雅弘氏>

 

 処分場選定では地質的不確実性のある場所は避けることです。

 

 新第三紀火山岩類の分布域である泊原発では、調査ボーリングが蜂の巣のように実施されています。ボーリング孔からの放射性物質の漏洩の可能性がありますので、処分場ではこのようなことはできません。

 北海道・積丹半島の豊浜トンネルは、貫入岩とハイアロクラスタイトの分布域で、岩盤崩落が発生しました。

 新第三紀堆積岩の分布域である東頸城(ひがしくびき)地方では、鍋立山トンネルで強大な土圧に遭遇しました。

 千葉県の屏風ヶ浦は、成層した堆積岩が全面的に露出しています。しかし、この岩盤は透水性が高いという問題があります。

 付加体堆積物分布域の十津川では破砕帯が頻繁に出現します。

 花こう岩類は特定の場所に割れ目が集中的に分布しています。

 

 この後、パネルディスカッションと会場からの質問に答える時間が設けられました。

 ファシリテーター(司会)は、北海道大学の佐藤 努氏でした。

 

 会場との質疑応答では、科学的特性マップは「非科学的特性マップ」だと思っているという意見が出ました。また、岡村 聡氏から、文献調査では最新の科学的知見を反映させるとしているが、我々が査読付きの雑誌(地質學雑誌)に掲載した文献を無視しているという指摘がされました。

 

<感 想>

 

 閉会挨拶で、山口 彰原子力発電環境整備機構理事長は、「地域との共生」という言葉を使いました。しかし、寿都町では文献調査の受入について地元での議論が不十分なまま決定されました。地域の分断をもたらしているのです。

 文献調査を行う2年間で、20億円の交付金を支給するというのも「地域との共生」とは真逆のやり方だと思います。

 

 ファシリテーターを務めた佐藤 努氏は、最後に、ここでは結論は述べませんと言いました。司会としては上手に進行させたと思いますが、「会議やワークショップを円滑に進行し、参加者の意見を引き出して合意形成を図る」というファシリテーターとしての役割は果たしませんでした。

 

 原発ルネッサンスとなどと言って原子力発電所を新たに建設する計画が持ち上がっています。しかし、この放射性廃棄物の処理方法が解決しないうちは、これ以上、核のゴミを出さないことが第一にすべきことです。そして、成功の見込みが無い六ヶ所村の再処理工場は中止するほかありません。

 

 原発の廃棄物については、福島第一原発のデブリをどう処理するか、廃炉になる原発の放射性廃棄物をどう処理するかなど、未解決の問題が山積みです。

 廃炉に関しては日本原子力研究開発機構のJPDRJapan Power Demonstration Reactor)動力試験炉が14年かけて廃炉を完了しています。2019年時点で廃炉となる原子炉は24基あります。

 

 さらに、日本では使用済み核燃料を再処理してウランやプルトニウムを回収し、原発の燃料をつくるさまざまな事業を行っています。この再処理で出る核のゴミが高レベル放射性廃棄物で、使用済み核燃料の再処理で溶解に使った硝酸を主とする廃液及びその固化体のことです。

 そのほかに、ウランより重い核種を含むTRUTRans-Uranic waste)廃棄物というものがあって、この一部も地層処分することになっています。核種としては、ネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)などです。

 

 全体像が見えない状態にしたうえで、高レベル放射性廃棄物の地層処分地を決めようとしているのです。

 

 NUMOの対応を見ていると、専門家以外からの横やりが入ることがあるようです。

 例えば、今回のシンポジウムで「非科学的特製マップだ」という意見が出たように、科学的特性マップには、「標高が1,500m未満で海岸線から20km以内」を「輸送面でも好ましい」地域として濃い緑色で表示しています。そのほかの要件・基準は、基本的に自然現象を対象としているのですが、この項目だけ核廃棄物の輸送に有利という条件の地域が設定されています。

 火山については、第四紀火山中心から15km以内は好ましくない範囲という要件・基準です。しかし、寿都町については、第四紀火山の可能性のある火山が15km以内にあっても、処分場を設置する市町村の境界外なので問題ないという見解を示しています。

これらは、どう見ても地球科学の専門家なら思いつかない「屁理屈」です。