本の紹介:イスラエルとパレスチナ2024/11/29 21:25

イスラエルとパレスチナ

 ヤコブ・ラプキン、鵜飼 哲 訳、イスラエルとパレスチナ ユダヤ教は植民地支配を拒絶する。岩波ブックレット、202410月(電子書籍版)。

 

 20248月に書かれた日本語版への序文が強烈です。

 「植民地主義的なシオニストの夢は一貫して、相互の尊重に基づく共存と平和を求めることよりも、パレスナ人をまるごと厄介払いすることでした。」

 

 1800年代の半ば頃のパレスチナは、オスマン・トルコの辺境の属州でした。住んでいる人々は、宗教、種族、言語の異なる様々な集団のモザイクでした。アラビア語が共通語の役割を果たしていました。

 

 そして話は創世記の時代へと飛びます。トーラー(ヘブライ語聖書の最初の五巻、モーセ五書)との規範的関係がユダヤ人を伝統的に特徴づけてきたものです。そこにはユダヤ人が優越性を持つという観念は全く含まれていません。

 シオニスト(パレスチナ回復・祖国建設を目指した運動を担った人々)が現れる前は、イスラームとユダヤ教ほど共通点が多く、相互理解のチャンスに恵まれた二つの宗教は存在しないと言われていました。

 

 1600年代に聖地イスラエルにユダヤ人を集めようとしたのは、プロテスタントの福音主義の人々でした。今日、イスラエル国家がアメリカその他のプロテスタント福音主義集団から膨大な支援を受けているのは、ここにルーツがあります。

 

 シオニズムは1800年代の終わり頃に現れました。しかし、軍事的暴力に傾斜するシオニズムは、多くのユダヤ人に忌避され続けました。

 アルベルト・アインシュタインは、現在イスラエルの政権を握っているリクードに繋がるシオニストの青年運動を非難しました。

 この運動は、「ドイツの青年層にとってヒトラー主義が危険なのに劣らず、われわれの青年層にとっても危険である」とアインシュタインは考えていました。


 1922年〜1948年まで、パレスチナはイギリスの委任統治となりました。この時、パレスチナに入植したユダヤ人は東欧やロシア帝国の出身者でした。ロシアでは「世俗的ユダヤ人」という概念が結実しました。何世代ものイスラエル人が好戦的な価値観の中で育てられ、軍務につくことを誇りにしています。イスラエル国家の「生存権」は、こうして保証されているのです。

 これが今現在のガザでの状況を生んでいる根源のようです。シオニスト全体主義という言葉でイスラエルのやり方を批判したのは、ヘブライ大学の学長でアメリカ人のリベラル派ラビであったユダ・マグネスです。

 

 そして今、国民ユダヤ教がイスラエルで根を張り、これを信仰する人々に対してシオニストとして社会参加することに宗教的意味を与えています。このような人たちがヨルダン川西岸地区へ入植し、暴力を振るっているのです。

 また、シオニズムと反ユダヤ主義がつながっています。つまり、反ユダヤ主義者は、ユダヤ人を今住んでいるところから厄介払いしたいと考えています。シオニストは、ユダヤ人を今住んでいるところから移民させてパレスチナに住みつかせたいと考えています。

 イスラエル社会が右傾化するにつれて世界中で右翼過激派、反ユダヤ主義者を含む人種差別主義者がイスラエルを支持する状況が生まれています。

 

 現在でも、ナチスによるジェノサイドが繰り返されることを阻止するということがユダヤ人を動員する道具となっています。そこでは、パレスチナに住んでいたパレスチナ人は、アラブ人でありアラブの国々に住めば良いと考えています。

 

 帝政ロシアでは激烈なユダヤ人抑圧が行われました。1881年にロシア皇帝アレキサンドル二世がサンクトペテルブルグで暗殺されます。この時に一連のポグロム(ユダヤ人に対する集団的暴力行為)が起きます。ニヒリズムと人命軽視の風潮が政治的テロリズムを生んだのです。

 第二次大戦後にヨーロッパのユダヤ人が大挙パレスチナにやってきたのは、北米の移民制限政策とともにシオニスト工作員が強制的にイスラエルに行くよう強要したためです。

 

 現在、イスラエルにはアラブ系住民と非アラブ系住民がいますが、その格差は顕著です。アラブ系住民は非アラブ系住民に比べて、平均収入は1/3、土地所有は3%、乳幼児死亡率は2倍です。

 イスラエルの今の財務相ベザレル・スモトリッチは、20231月に自分は「ファシストで同性愛嫌悪者だ」と述べています。


 イスラエルは国境のない国家です。国境がないと言うことからイスラエルは全世界のユダヤ人に属しているという主張が出てきます。その結果、世界中のユダヤ人団体がイスラエルの代理人に転化しました。学校の評議会からホワイトハウスまで、あらゆるレベルのアメリカでの選挙でイスラエルの利益を守っています。


 ヨルダン川西岸のパレスナ人は、裁判抜きの恣意的拘束、収奪、道路封鎖、イスラエル人用と非イスラエル人用に分離された道路、令状なしの家宅捜索と死が頻繁になっています。

 ガザでは、平和的なデモでも柵の向こうからイスラエル兵に発砲されて人々が死んでいます。住民の80%が国際援助に依存し、水は配給制、電気は12時間しか供給されず、慢性的な食糧不足です。

 

 このような状況が続いた後、2023107日がやってきます。

 イスラエルによるジェノサイドが行われている現在、大事なことはユダヤ教とシオニズム、ユダヤ人とイスラエル人を混同しないことです。イスラエル国家を支配しているのはシオニスト的信仰を信じる人々で、ラビ・ユダヤ教の教えからは根本的に逸脱しています。

 

<感 想>

 何故、あれだけの民族的打撃を受けたユダヤ人の国家であるはずのイスラエルが、ガザに対してジェノサイドを実行できるのか、ずっと疑問でした。今のイスラエルを支配しているのは、ファシストだからということです。

 

 2023107日以後のことについて書かれた最後の方も読み応えがあります。また、脚注、参考文献、訳注、訳者あとがきも非常に大事な内容となっています。

 ガザ問題にモヤモヤを感じている人は、ぜひ読んでみてください。問題の根本を理解できます。