田近 淳氏の講演:謎の海底隆起?! ― 2024/01/30 16:15
2024年1月19日15:00-16:30、表記講演会が開かれました。私はzoomで視聴しました。
第200回深田研談話会 田近 淳氏(株式会社ドーコン)「謎の海底隆起?! 地すべりがつくるノンテクトニック地質構造」です。
この地すべりの写真と解説は、下のウェブサイトで見ることができます。斜面防災対策技術協会の「斜面防災、Vol.42,No.2 口絵写真」です。
< https://www.jasdim.or.jp/saigaishashin/files/rausu.pdf >
田近氏は秋田県に生まれ、北大の理学部地質学鉱物学科を卒業し、道立地下資源調査所(現北海道総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所)に入所しました。2007年に退職し、現在は株式会社ドーコン・環境事業本部の技術顧問を務めています。
話の概要を紹介します。
ノンテクトニック地質構造というのは「主に地質構造運動以外の要因によって形成される地質構造」のことです。重力を主な営力とする地すべりや崖崩れ、多重山稜の構造、応力解放による地質構造などです。
*横田修一郎ほか、ノンテクトニック断層研究会 編著 ノンテクトニック断層 識別方法と事例。近未来社、2016年3月。この本が参考になります。
地質構造全般については、狩野謙一・村田明広、構造地質学。朝倉書店、1998年2月。この本が優れた参考書です、
田近氏は、地下資源調査所に入って5万分の1地質図幅調査や石灰岩を中心とする非金属資源調査に従事しました。地質図は、丸瀬布北部(1988)、遠軽(1991)、立牛(2008)を作成しました。
1979年〜1990年は日高累層群(付加体堆積物)の地質・資源の調査を行いました。これらの地域は露頭が悪くフィールドとしては最悪でした。
その後、釧路−厚岸海岸の根室層群(白亜紀〜古第三紀)の調査を行いました。地すべりの多発地帯です。地質は細粒のタービタイトで、調査対象とした沖万別・苫多地すべりは、海に向かっての流れ盤構造の場所で地すべりが発生していて、1978年に滑動した地すべり末端で「さや状褶曲」が確認できました。海岸露頭であるため、海水で露頭が洗われて地すべりの内部構造がよく見えました。この旧ユニット主部の末端では、先端に向かってポップアップ構造→さや状構造→覆瓦構造が見られ、デタッチメント褶曲(*ここでは、すべり面の上盤側の地層が褶曲すること)を示しています。
1990年に南側のユニットが活動しました。岩盤並進すべりです。移動体の微地形分類を行いました。末端では前方に倒れた背斜ドーム構造が見られました。
羅臼町・幌萌町(ほろもえ・ちょう)で2015年4月24日に謎の海底隆起が発生しました。北大の地震火山観測研究センターや京大の防災研究所では、活断層が動いたのではないかと考えました。知床半島の東海岸には標津断層帯(総延長約50km)があるからです。防災科学技術研究所やアジア航測が頭部滑落崖を含めた全体像を明らかにしたため、地すべりであることが判明しました。
4月24日の6時から17時にかけて岩盤の並進地すべりが発生し、末端の海底が隆起したのです。直接の原因は、海岸段丘の上を通っている町道が雪捨て場となっていて、雪が溶けて大量の地下水が供給されたことです。
この付近の地質は、中新世から鮮新世の硬質頁岩と泥岩で凝灰岩が挟在しています。付近の地層の一般的な走向・傾斜は、N40E,20ESで流れ盤となっていて、地層の走向は海岸線とは30度ほど斜交しています。すべり面は南側が深くなっています。
地すべり発生の経過は次のようでした。
24日朝6時頃、海岸が30cmほど隆起しているのが発見されました。25日に頭部陥没が発生していることが分かりました。12時間で10m隆起しました。
北大地震火山観測研究センターのRUS羅臼観測点では23日の午前6時から24時頃まで微小地震を観測しました。スティック−スリップ(固着すべり:間欠的なすべり)の活動で、地震記録からは24日の16時30分には2度目の地すべりが発生したと推測されました。
地すべり末端の隆起帯は台地状の丘の連続で、地すべり末端はそのまま鉛直に隆起しました。泥岩からなる岩盤を覆う巨礫がそのまま上昇しています。5列の高まりがあり、その背後は半月型の凹地ができました。それぞれの高まりは、地層が逆転していたり、撓み下がっていたりと特徴があります。
すべり面に関連した褶曲には、一般的に1)断層折れ曲がり褶曲(フラット−ランプ−フラット構造)、2)断層伝播褶曲、3)デタッチメント褶曲があります。
隆起のメカニズムを考える上で前提としたことは、1)野外事実と整合していること、2)変形域は変化していない(隆起域はそのまま上昇)、3)長さは固定で層厚・体積は増加している、4)この地域の地層は容易に変形する性質を持っている、ということです。
幌萌地すべりの末端は、前方岩盤の座屈によるデタッチメント褶曲と考えました。すべり面はボーリングなどで確認されていません。
海底隆起の地形は波浪により1年で消えます。幌萌地すべりの末端は、2015年10月には半分が消滅し、2016年4月には大半が消滅しました。
海底隆起の事例は三つほどあります。そのうちの1751年5月21日に発生した宝暦高田地震では、茶屋ヶ原の海中に新山ができたと記録されています。